映画コラム

REGULAR

2020年07月09日

『銃2020』レビュー:奥山&中村&武&日南が新たに挑む“女が銃を拾ったら?”

『銃2020』レビュー:奥山&中村&武&日南が新たに挑む“女が銃を拾ったら?”



(C)吉本興業




2018年の秋、静かながらも確実に青春の孤独と狂気を多くの映画ファンに訴え得たハードボイルド映画『銃』が公開されました。

中村文則の同名小説を原作に、拳銃を拾った若者(村上虹郎)が破滅していくさまを、『百円の恋』(14)や『嘘八百』(18)、またネットフリックスオリジナル「全裸監督」(19)でも話題を集めた武正晴監督がモノクロのクールな映像センスで綴った秀作であり、製作の奥山和由ならではの不良性感度の高いハードボイルド志向が見事に結実したカタルシスあふれる快作でもありました。

そして7月10日より公開となる『銃2020』は、『銃』の制作に携わったスタッフ&キャスト(日南響子)が再度結集して、まったく新しい狂気の世界を描いた、さらなる快作に仕上がっています。

それは……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街483》

「もし、女が銃を拾ったら?」

前作とは似て非なるユニークな切り口で、さらなる青春の狂気が炸裂していきます!

銃を持つ女は
誰を殺す?殺さない?


『銃2020』は、企画・製作を務める奥山和由の号令のもと、中村文則が映画用のオリジナル原案を構築し、武正晴監督とともに脚本も担当。

『銃』で主人公(村上虹郎)を翻弄するキーマン“トースト女”を演じて鮮やかな印象を残した日南響子が、今回はまたガラリと異なる役柄で、いつでも人を殺すことのできる銃を所有しているという狂気のエクスタシーに翻弄されながら、いつしか己を見失っていくヒロインをクールに演じていきます。

とある深夜、東子(日南響子)は自分の後をつけてくる不気味なストーカー富田(加藤雅也)から逃れるべく、薄暗い雑居ビルの中に入っていきました。

ふとトイレからずっと流れ続ける水の音に気づき、中を覗くと血まみれで、赤く染まった洗面台の水の中には1丁の拳銃が……。

中には4発の弾丸が入っていました。

精神を病みつつ死んだ弟を溺愛して自分を毛嫌いする母(友近)、雑居ビルの中で見かけた謎の男・和成(佐藤浩市)、1枚の写真を通して関わりを持っていく刑事(吹越満)、ストーカーの富田、その他幾人もの人々と絡み合いながら、引き金を引くだけで人を殺める術を手に入れてしまった東子は、次第に狂気の域へと陥っていきます。

果たして彼女は誰を殺すのか? もしくは殺さないのか? 殺したいのか? 殺せないのか?

派手なドンパチができない
日本映画界の突破口たる意欲作




(C)吉本興業




前作が“銃:男の場合”とみなすとしたら、今回は“銃:女の場合”とでもいった、ひとつの鮮烈なケースを濃密に描いた意欲作です。

前作がモノクロ(パートカラー)映像の中から若者の血と汗の臭いを巧みに描出していたのに対し、今回はカラー映像の中に夜の闇などモノトーンのシンプルな狂気が垣間見えていくといった画の構造にも目を見張らされます。

前作同様に台詞は少なく、キャラクターの行動と周囲の色彩美、ノイジーな音響やグルーミー&カラフルな音色の中からヒロインの心情を巧みに醸し出していく音楽で魅せていく趣向にも唸らされます。

『銃』では“トースト女”というとりとめのない役柄からその存在感を際立たせていた日南響子が、一転して電気もつかないゴミまみれの部屋の中で自堕落な日々を過ごしつつ(そのくせ日記はマメにつけている。総じて書くことや描くことは好きなようです)、自分を忌み嫌う母の入院費を稼ぐためにコールガールを装っては金だけ巻き上げて逃げる“その日暮らしの女”の孤独や焦燥感、また今の日本で女が生きていく上での性的ストレスなども存在感たっぷりに体現。

あからさまなセクシー・ショットではなく、銃そのものが醸し出す危険なエクスタシー性を彼女自身が媒介となって描出していくことで(彼女はあたかも銃を自分の恋人のように、優しくも切なく語りかけていく!)、映画全体がとてつもなくセクシャルに映えわたっていきます。

製作の奥山和由は『ハチ公物語』(87)『226』(89)などの大ヒット作で知られる稀代のプロデューサーで、最近では大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(20・7月31日公開予定)のエグゼクティブ・プロデュ-サーも務めていますが、本来の資質は(というか彼自身の好みのジャンルは)『海燕ジョーの奇跡』(84)『南へ走れ、海の道を!』(86)『その男、凶暴につき』(89)『いつかギラギラする日』(92)『GONIN』(95)『SCORE』(95)『GUN CRAZY』シリーズ(02~03)などのアクション&ハードボイルド路線にあると個人的には思っています。

『銃』『銃2020』はそんな彼の資質が久々に、そして存分に発揮されたものであり、またそうした奥山イズムを巧みに汲み取りつつ、自身のキャリアをさらに拡張させ得た武正晴監督の手腕も高く評価すべきでしょう。

なかなか派手なドンパチ・シーンなど実現できない、実現できてもそれは嘘臭くなってしまう現代日本映画界の中、逆にドンパチできない鬱屈を一人の女優の肉体そのもので魅せていくことで、今の社会ならではの状況を多分に反映させ得ていることにもカタルシスを感じました。

こうした作品が、今後の日本映画界におけるアクション&ハードボイルド路線の突破口になることを祈ってやまない次第です。

(文:増當竜也)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!