『17歳のウィーン』レビュー:激動の時代でもフロイトに恋愛相談してみたい!
思春期の青年に寄せる
大人たちの慈愛の目
本作は邦題のサブタイトルから、17歳の青年フランツとフロイト教授の年齢差を越えた友情を主軸に展開されていくようなイメージをもたらされがちですが、実質的にはフロイトとの友情も含めた激動の時代の思春期青春映画として接したほうが得策のように思われます。
特に映画の前半部は思春期の青年ならではの性的な衝動なども微笑ましく描かれていき、そこに助言するフロイトやオットーら大人たちの存在感が加味されながら映画全体が豊かな世界へ導かれていきます。
しかし後半、ナチスの台頭に伴う差別的かつ弾圧的な空気が街に蔓延していくことによって、本来普通に繰り広げられてしかるべき思春期の甘酸っぱさまでもが奪われようとしていく中、それでもフランツは己の青春をまっとうしようともがき苦しんでいく姿……。
これこそが従来の思春期映画と一線を画した本作ならではの美徳ともいうべきでしょう。
特に彼がのめりこんでしまうアネシェカのキャラクターは一見悪女的でありつつ、その奥に秘められたピュアなものをフランツは見初めてしまったがゆえに諦めきれないという、実に複雑怪奇な10代の悶々とした想いと、やがて来る激動の時代のうねりが大いにシンクロしながら、実に切ないエモーションを発動してくれるのでした。
また、ある程度トシを食ってしまい、今や青年を見守る側にいるこちらとしては、やはりフランツを見守る大人たちの慈愛に目が向きます。
フロイト役に扮するのは先ごろ亡くなったドイツ映画界の名優で、日本映画『バルトの楽園』(06)にも出演したことのあるブルーノ・ガンツですが、今なお語り草となっている『ヒトラー 最期の12日間』(04)での鬼気迫るヒトラー役から一転し、ここではヒトラーがもたらすファシズムの惨禍に恐怖の念を抱くユダヤ人としての目線と、心理学者としてのみならず若い友人の恋と人生をバックアップしてあげたいという年長者ならではの人生のゆとりみたいなものを体感させてくれています。
一方でヨハネス・クリシュがさりげなく放ついぶし銀の魅力にも、ブルーノ・ガンツに負けず劣らず、大いに惹かれるものがありました。
オットーのもとで人生修行できたからこそのフランツの青春も成り立っていくわけですが、いくつになっても恋を謳歌し続けている彼の母とオットーとの関係性も何やら意味シンで、突き詰めていくと彼らの世代にも確実に若き青春の時代があったことまで示唆されていきます。
さらにはそんな母のもとで育ったフランツだからこそ、アネシェカに魅せられて言った理由も何となく肌で感じ取れ、その伝でも彼女の複雑な魅力をみずみずしく体現したエマ・ドログノヴァの好演も讃えるべきでしょう。
現在公開中の『バルーン』なども含め、さりげなくも秀作を連打し続けるドイツ映画界、今回も絶好調です。
(文:増當竜也)
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