『意表をつくアホらしい作戦』70~80年代コメディ映画・俳優が次々登場、その魅力を解説!




第1回:『意表をつくアホらしい作戦

Netflix沼にあふれる大量のコメディ作品の中から、観て損のない作品を掘り出してご紹介する、この連載。

今回は、2018年に配信開始されたNetflixオリジナル映画『意表をつくアホらしい作戦』をご紹介します。

邦題からは、その内容がいまいち分かりにくいのですが、実はこの映画、70年代末~80年代にかけてのアメリカ・コメディ界の動向を描く、まさにコメディ業界版『アベンジャーズ』といった内容の作品なのです。

有名コメディ俳優や実際の映画・番組が次々に実名で登場するその内容とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

ストーリー


70年~80年代のアメリカのコメディやポップカルチャーを牽引し、その後のコメディ界に多大な影響を与えた伝説のコメディ雑誌「ナショナル・ランプーン」。
後にラジオ番組や映画製作にも進出し、ジョン・ベルーシやビル・マーレイなど多くの才能を見出すことになる、共同設立者ダグ・ケニー(ウィル・フォーテ)の輝かしい成功と、そのトラブルに満ちた人生を描く。


実在の映画、あのコメディ俳優が実名で登場!



伝説のコメディ雑誌「ナショナル・ランプーン」の設立から成功までの過程に加えて、ラジオ番組の収録風景や映画『アニマル・ハウス』『ボールズ・ボールズ』の撮影秘話など、70年代末~80年代アメリカ・コメディ界の動向や歴史が描かれる本作。





大学時代の友人だった、ダグ・ケニーとヘンリー・ベアードの二人が立ち上げたコメディ雑誌「ナショナル・ランプーン」は、タブーを恐れない攻めた内容が人気を呼び、後にその活動をラジオ番組にまで広げることになります。




このラジオ番組の出演者として集められたのが、後にアメリカのコメディ界の中心人物となる若きコメディアンたちでした。

例えば、後に「サタデー・ナイト・ライブ」に出演してブレイクを果たすチェビー・チェイスやジョン・ベルーシ、更に映画『ゴーストバスターズ』に出演することになるビル・マーレイやハロルド・ライミスなど、まさに80年代アメリカ・コメディ界のアベンジャーズ! とも言えるその豪華な顔ぶれには、今更ながら驚かされます。

その他にも、『アニマル・ハウス』の撮影現場シーンではジョン・ランディス監督が登場するなど、これ1本観ればアメリカ・コメディ映画の歴史や動向が勉強できる点も、映画ファンにオススメの理由なのです。




雑誌の成功を受けてラジオ番組まで始めたダグは、多忙な毎日の中で精神的に追い詰められ、ついに全ての仕事を投げ出して失踪してしまうことに…。

結局9ヶ月後にまた仕事に復帰したものの、パートナーであるヘンリーが雑誌から去ることになり、ダグはドラッグに頼るようになっていきます。

この状況でダグを更に苦しめたのが、NBCテレビで新たに始まったコメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」の存在でした。

実は、NBCは先に「ナショナル・ランプーン」の方に番組オファーを出していたのですが、出版社社長のマッティ・シモンズが、勝手に断ってしまったのです。

そんな中で「サタデー・ナイト・ライブ」が放送開始、しかも大人気となってしまうのですが、この時に自分のラジオ番組のスタッフやキャストを引き抜かれた悔しさがバネとなって、彼に傑作映画『アニマル・ハウス』を作らせるのですから、世の中何が幸いするか分かりません。




実際、映画の中でも、記念すべき「サタデー・ナイト・ライブ」初回放送のオープニング・コントを、ダグがベッドの中で観ているシーンが登場するのですが、この"ロシア人に英語を教えるコント"で、ジョン・ベルーシ扮するロシア人に英語を教える先生として出演していたのが、「ナショナル・ランプーン」のライターで、後に「サタデー・ナイト・ライブ」のヘッド・ライターとして起用された、マイケル・オードナヒューだったのです。

この挫折と悔しさをバネに製作した映画『アニマル・ハウス』の大ヒットにより、再びダグは第一線に返り咲くのですが、次回作に対するプレッシャーや仲間の影響もあって、次第にドラッグに溺れるようになっていきます。

本編中でも、第2作の『ボールズ・ボールズ』の撮影現場でドラッグが蔓延していて、撮影にも多大な影響が出ていたことが描かれるのですが、そのおかげでダグは映画の製作から外されてしまうのです。




失意の彼が恋人と映画館で観ているのが、80年代パロディ映画の傑作『フライングハイ』という展開も象徴的なのですが、この映画がダグに決定的なダメージを与えるというのも、アメリカ・コメディ映画の世代交代を表現していて、実に見事なのです。

『フライングハイ』の大ヒットを目撃して、観客の嗜好の変化と自身のキャリアの行き詰まりを感じたダグは、仲違いして疎遠になっていたヘンリーと連絡を取り、二人は再会することになるのですが…。

ここから先の展開は、ぜひご自分の目でご確認頂きたいのですが、自分の感性が時代と少しずつズレていくことへの不安や恐怖は、全てのクリエイターにとって共通の悩みといえるもの。

それだけに、大学時代からの親友で仕事上のパートナーでもあったヘンリー・ベアードとの関係性を中心に描いた点は、本作成功の大きな要因と言えるでしょう。




もちろん、80年代のアメリカ・コメディ映画に馴染みがなくても、才能ある若者二人が自分たちの雑誌を立ち上げて成功をつかむまでのサクセスストーリーや、男同士の友情物語としても楽しめるので、ご安心を!

実はこの映画、ある人物のナレーションによって物語が進んでいくのですが、ここに施されたある仕掛けによって、ラストに意外な展開が用意されている点は見事!

ただひとつだけ残念なのは、映画の中でもギャグにされている通り、登場する有名コメディアン役の俳優がどれも微妙に似ていない点。

ただ、『アニマル・ハウス』撮影中のシーンに登場するジョン・ランディス監督とアイヴァン・ライトマン、それに初期「サタデー・ナイト・ライブ」の出演者ギルダ・ラドナー役の俳優は声も外見もソックリなので、ここはぜひお見逃しなく!

最後に



伝説のコメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」誕生の瞬間や、ビル・マーレイの出演作『ボールズ・ボールズ』の撮影現場の混乱ぶりなど、80年代のアメリカ・コメディ映画をリアルタイムで体験した世代には、まさに目からウロコな内容が連続する、この『意表をつくアホらしい作戦』。

本作で描かれるのは、主に70年代末から80年代にかけてのアメリカのコメディ業界ですが、この頃に生まれたコメディの潮流が現在でも大きな影響を及ぼしている点は、実に興味深いものがあります。

加えて、「サタデー・ナイト・ライブ」が自分抜きで大成功を収めた屈辱をバネに、映画『アニマル・ハウス』を製作し大ヒットさせたダグが、そこからドラッグに溺れて次第に凋落していく姿には、人々を笑わせるのと引き換えに多くのものを犠牲にしなければならなかった男の苦悩と哀しみが、見事に表現されているのです。

唯一の理解者で親友でもあったヘンリー・ベアードとの関係性に重点を置きながら、これ1本でアメリカ・コメディ界の歴史が学べる作品なので、全力でオススメします!

作品情報


Netflixオリジナル映画『意表をつくアホらしい作戦
独占配信中

(文:滝口アキラ)

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