映画コラム

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2020年10月22日

『空に住む』レビュー:絶好調!多部未華子の最新主演作から巧みに窺える“今”

『空に住む』レビュー:絶好調!多部未華子の最新主演作から巧みに窺える“今”



高層の部屋に住むヒロインの
不安定に揺れ続ける心理


このように本作は、両親を亡くした喪失感や仕事への焦り、そして実らぬ恋とわかっているのにのめりこんでいく恋愛……といったアラサー・ヒロインのさまざまな想いの揺れを、突然分不相応の部屋に住むことになったヒロインの不安定な気持ちと共鳴させながら繰り広げていく作品です。



どこか大人になり切れない幼さを残しつつも、健気に立ち回り続ける直実の姿は、おそらくは同世代の女性の多くに何某かのシンパシーを抱かせてくれるものがあることでしょう。

今、こういった等身大の役柄を演じさせたら、多部未華子の右に出る者はいないのではないか? そう思わせるほどのリアリティが、まるで空に住んでいるかのようなふわふわした浮遊感を伴いつつ、どこかしらファンタジックにも映えていく好演です。

また彼女、猫との相性がいいのか、愛猫のハルと一緒にいるシーンの数々は、どれもこれも印象的で、極端に言えばそこだけを見続けていても2時間持つのではないかと思えるほどの好もしさです。

ドラマとしては、後輩の愛子、若い叔母の明日子、そして時戸といった人々との関係性が微妙な面持ちで綴られていき、そしてクライマックス、彼女にとっての一大事件が起きる……といった図式になっていますが、そのどれもが“今”を生きる女性の、ひいては全ての人々へのエールになっているようでもあり、そこが老若男女を問わず見る側にささやかな感動をもたらす大きな要因にも成り得ている気がします。

監督は『EUREKA ユリイカ』(00)『レイクサイド・マーダーケース』(04)『共喰い』(13)などで知られる才人・青山真治。

本作は彼にとって何と7年ぶりの映画演出となりましたが、当然ながらにブランクなど微塵も感じさせることなく、女(と猫)の映画を通して今の時代を生きることとは何か? を静謐に問いかけてくれています。

(文:増當竜也)

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