映画コラム
『魔女がいっぱい』レビュー:BTTF監督による毒がいっぱいファンタジー!
『魔女がいっぱい』レビュー:BTTF監督による毒がいっぱいファンタジー!
増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」
コロナ禍でハリウッド大作の多くが公開延期、もしくは映画館上映を中止して配信のみにするなど、映画ファンとしては忸怩たる想いの2020年ではありました。
もっとも12月は『ワンダーウーマン1984』がようやく日本先行公開されるなど、少し明るいニュースもチラホラ。
そしてもう1本、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作(85~90)の名匠ロバート・セメキス監督の最新作も12月4日から公開となりました!
その名も『魔女がいっぱい』!
何とアン・ハサウェイがおっかない魔女に扮したファンタジー映画です。
原作は『チャーリーとチョコレート工場』で知られるロアルド・ダール。
宮崎駿もリスペクトしてやまないファンタジー小説の大家で、『007は二度死ぬ』(67)『チキ・チキ・バン・バン』(68)の脚本も手掛けている才人です。
ではでは、この『魔女がいっぱい』、どのような映画なのかをご紹介させていただきますが、可愛らしくはあれ、実はかなり毒もいっぱいの作品なのでした!
子どもたちを襲う
魔女軍団の陰謀
舞台は1960年代、主人公のヒーローボーイ(ジャジール・ブルーノ)はおばあちゃん(オクタヴィア・スペンサー)と一緒に、子どもたちに災いをおよぼす悪しき魔の手から逃れるべく、分不相応な豪華ホテルに泊まることに。
ところが、まもなくしてそのホテルにリーダーと思しきオシャレ美女(アン・ハサウェイ)を先頭にした女性たちの集団が現れました。
ホテル内のホールを貸し切って、何やら会議みたいなことを始めていく彼女たち。
偶然そのホールの中に入り込んでしまったヒーローボーイは、そこで彼女たちの正体を知ってしまいます。
何とそれは魔女集団であり、オシャレ美女はそのリーダーでもある凶悪な大魔女なのでした。
しかも彼女たちが打ち合わせしている内容を知ってしまったボーイは、ネズミに姿を変えさせられてしまいます!
今や“ヒーロー・マウス”と化した少年は、大魔女たちの陰謀を打ち砕くことができるのか?
ファンタジーの奥に潜む
毒と闇の魅惑的要素
本作はネズミに変身させられてしまった子どもたちと、魔女軍団の攻防を面白おかしく描いたものです。
まずはそのネズミたちの可愛らしさが大いに魅力的でもあります。
……が、実はこの作品、それ以上に魔女たちの描写が思いのほか怖いのです。
特にアン・ハサウェイ扮する大魔女は、一見ファッショナブル美女のいでたちではあれ、ちょっとボロが出てしまったときの醜悪な形相たるや!
いやはや、実力と美貌の両方を兼ね備えたアン・ハサウェイがよくぞこの役を引き受けたなと驚くほどですが、そこにはやはり原作の魅力とロバート・ゼメキス監督に対する信頼あっての賜物ともいえるでしょう。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズやアカデミー賞を受賞した『フォレスト・ガンプ 一期一会』(94)、また『ポーラー・エクスプレス』(04)など3DCGアニメ作品にも意欲的なロバート・ゼメキス監督には、実は別の面もあります。
ちょっとグロテスクに映えるファンタジーや、陰鬱で後味が悪いサスペンス映画などを手掛けることが時折あるのです。
前者を魅惑的に捉えた代表として『永遠に美しく…』(92)、後者の代表に『ホワット・ライズ・ビニーズ』(00)を挙げられるでしょう。
『フライト』(12)では制御不能の旅客機を胴体着陸させて多くの人命を救った機長が、実はアル中であったという、心の闇を露にしていきます。
近作『マーウェン』もハイヒールを履く趣味がある主人公男性が、それゆえに良からぬ輩に暴行されてPTSDと化してしまったという設定がなされていました。
ゼメキス監督作品の場合、そういった闇の描写をあっけらかんと描く癖があり、それゆえに見る側も驚かされることしばし。
その伝では、本作も可愛くポップなノリで進んでいることに安心していると、いきなりギョッ!とさせられるショットがポンッと投げ込まれていくので、最後の最後まで気が抜けません。
更にはこの作品、『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)のギレルモ・デル・トロが製作&脚本、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(04)のアルフォンソ・キュアロンが製作に参画しています。
こうしたファンタジーの奥に潜む毒や闇の描出に長けた映画の旗手らが集結した本作もまた、可愛らしさとドス黒さを巧みに両立させているのが妙味ともいえるでしょう。
まあ、何はともあれアン・ハサウェイの口元にご注目しておいてください!(唇の両端から、何やら切れ目のような線が……)
そして不幸ながらも可愛らしいネズミ・ボーイ&ガールたちの運命を、温かく見守ってやってください!
子どもたちを助けようと奮闘するおばあちゃん役の名優オクタヴィア・スペンサーも、素晴らしい存在感を発揮してくれています!
(文:増當竜也)
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