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2020-12-12

洋画実写

『声優夫婦の甘くない生活』レビュー:ベテラン声優夫婦の新仕事がテレフォンセックスと映画泥棒…!?

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増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

日本における声優人気は年を追うごとに加速している感がありますが、一方で海外ではどうなってるのかな? と考えてみたことはありますか。

実は多くの国で外国映画&ドラマ、アニメーションの声を吹き替える仕事は存在しているようです。

最近はアジア各国の若者たちが日本のアニメを見て触発されて声優を目指し、日本に勉強留学している子たちも多数(その多くは「アニメで日本語を覚えた」と言っています)。

日本の声優さんたちが世界各国の声優スクールの講師で招かれることも、今では普通に行われていますね。

さて、今回ご紹介する『声優夫婦の甘くない生活」は、イスラエルに移民してきたソ連の人気ベテラン声優夫婦のお話です。

邦題に偽りなく、実に甘くない生活が描かれていきます。

しかし、その奥には実にヒューマニスティックな人生の機微が切なくも優しく、そしてささやかに描かれた名編として映画ファンにオススメしたい逸品です(特にフェリーニ映画のファンは必見!)

ソ連ではベテラン声優
しかしイスラエルでは!?



『声優夫婦の甘くない生活』は1990年、“鉄のカーテン”が崩壊したソ連を後にして、第2の人生を始めるべくイスラエルに渡ったヴィクトル(ウラジミール・フリードマン)&ラヤ(マリア・ベルキン)夫妻の物語です。

この夫妻、ソ連ではハリウッドやヨーロッパの名作映画の吹替えで人気のスター声優でした。

しかし、いざ念願の聖地へ到着したものの、イスラエルはヘブライ語が基本言語で、ロシア語声優の需要なんてほとんどありません。

しかも、時あたかもフセインの化学兵器の脅威で国内の緊張が高まり、ガスマスクを常備しておくのが必須!

かくして夫妻はヘブライ語を覚えつつ、職探ししなければならなくなるわけですが……。



ラヤは広告にだまされて、何と成り行きでテレフォン・セックスの職に就くことに!

悩みつつも生きていくために、夫には「電話の香水セールス」とウソをつき、20代の若き処女“マルガリータ”と称して仕事を始めたラヤ。

すると、これが大評判!

もともとラヤはさまざまな声色を使い分けることのできるカメレオン声優だったので、若い女性のセクシー・ヴォイスなどお手の物だったのでした!

一方、ヴィクトルがありついた仕事は、映画館でスクリーンを盗撮したり(つまりは映画泥棒ですね)、ロシア語吹替の海賊版をこっそり自前で制作したりしながらレンタルするビデオ屋さん。

つまりは違法行為なわけで、しかも環境は劣悪。ラヤは反対しますが、ヴィクトルはそれでも映画の吹替の仕事ができるというプライドのほうを選んでしまいます。



まもなくしてヴィクトルはロシア系移民向けの新作映画の吹替を依頼されますが、そのとき彼は映画館側から注文された『ホームアローン』ではなく、フェデリコ・フェリーニ監督の最新作『ボイス・オブ・ムーン』を最初の作品として選んでしまうのでした。

実は彼、若き日に夫婦で吹き替えたフェリーニ監督の『81/2』がモスクワ映画祭でグランプリを受賞したことを誇りにし、そのときフェリーニと一緒に撮った写真は宝物でもあったのです。

そんなヴィクトルは、やがてラヤの仕事を知ってしまい(どうやって知るかが、また皮肉なことに……なのですが!?)、激しく激怒。

ラヤもまたそんな夫に愛想をつかして家出し、職場のボス、デヴォラ(エヴェリン・ハゴエル)の家に居候しながら“マルガリータ”として多くのファンを獲得。

さらには、お客のひとりゲラ(アレキサンダー・センドロヴィッチ)と懇意になっていくのですが……。

プロの誇りと現実のギャップ
夫婦の絆、そして戦争……



本作はロシア系イスラエル人であるエフゲニー・ルーマン監督の体験を基に紡がれたストーリーを映画化したものです。

1979年生まれの彼もまた1990年に家族と共にイスラエルに移住し、言葉に苦労しつつ、イラクからのミサイル攻撃に怯えながらもロシア語吹替の海賊版ビデオをレンタルしながら映画の道へ進んでいったのでした。

ロシア系移民の声優夫婦を主役に据えたヒューマン・コメディという発想も、そういった彼のキャリアからもたらされたものですが、それにしても秀逸なアイデアです。

確かにテレフォン・セックスも声の仕事であることには変わりないし、映画泥棒したり違法コピーした海賊版ビデオは日本でも1980年代のビデオ・ブームの際、怪しげな店でいろいろとレンタルされていたものでした。
(日本は吹替ではなく字幕を入れるのが常でしたが、何せ素人の翻訳なので、時折台詞の意味がさっぱりわからなくなる!)



本作はそういったベテラン声優のプロとしての誇りと現実のシビアな生活とのギャップを露にし、その葛藤の中から夫婦の絆はもとより、慣れない異国で生活することの困難であったり、国同士が争い合う悲劇までも巧みに描出しています。

さらに映画ファンとしては、やはりフェデリコ・フェリーニに対する多大なるリスペクトも見逃せないところでしょう!

挿入歌としてアーラ・プガチョフの《百万本のバラ》(日本では加藤登紀子が歌ってますね)が用いられていますが、こちらも素敵な効果をもたらしてくれています。

とにもかくにも不慣れな移民生活に戸惑いながらも生きていこうとする、もはや若くはない夫婦の姿は切なくもあり、同時に見る側の心をいつしか優しいものへと転化させてくれます。

ふと日本の声優を主人公に据えた映画を作るとしたら、どんなストーリーが面白そうかな? などと鑑賞後に考えてしまいました。

ちなみにこの作品、イスラエル本国ではコロナ禍のため、未だに上映できてないとのこと。本当に、世界中で、さまざまな状況が一刻も早く改善してくれるのを祈るばかりです。

 (文:増當竜也)

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