『43年後のアイ・ラヴ・ユー』レビュー:老いらくの恋に挑む名優ブルース・ダーン!
増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」
20世紀後半から映画を見始めた世代にとって、ブルース・ダーンという俳優の名前を聞かされると一瞬ビクッとするものがあることでしょう。
個性派俳優の極みでもあるブルース・ダーンはこれまで悪役や非情なキャラクターなどアクの強い役を多く演じ、そのつど見る側に強烈なインパクトを与えてきました。
そんな彼が、ここに至ってラブストーリー『43年後のアイ・ラヴ・ユー』(19)に主演⁉
しかも題材がアルツハイマー⁉
これはもう見ないわけにはいかないでしょう!
アルツハイマーの元恋人に会うため
自分もアルツハイマーを装う演劇評論家!
『43年後のアイ・ラヴ・ユー』はその名のごとく、40余年の月日を経て、元恋人がアルツハイマーになったことを知った男のラブストーリーです。
主人公は、妻を亡くして今はロス郊外に独り住む70歳の元演劇評論家クロード(ブルース・ダーン)。
長年の友人シェーン(ブライアン・コックス)とのんびりと老後を謳歌しています。
一方で愛娘セルマ(シエンナ・ギロリー)の夫とは、あまり相性がよろしくない様子。
そんな彼でしたが、ある日、昔の恋人で人気舞台女優だったリリィ(カロリーヌ・シロル)がアルツハイマーを患い、施設に入ったことを知ってしまいます。
もう一度リリィに会いたいと願うようになった彼は、何と自分もアルツハイマーになったふりをして施設に入居してしまうのでした!
既にリリィの記憶からは、完全にクロードのことなど忘れ去られています。
しかしクロードは毎日のように二人の思い出を語りかけていきます。
そして、昔リリィが演じたシェークスピアの《冬物語》が施設で上演されることになり、そのとき彼は孫娘タニア(セレナ・ケネディ)の協力を得て……。
強烈な個性派スターならではの
タフなキャリアの賜物!
1936年生まれのブルース・ダーンは1960年に映画デビューを果たし、60年代後半から主に悪役やアクの強い役で徐々に頭角を現してきた個性派俳優です。
特に強烈だったのは『11人のカウボーイ』(72)で西部劇の王者ジョン・ウェインを後ろから撃ち殺した“卑怯者”!
かと思うと同年の宇宙エコSF『サイレント・ランニング』で心優しくも過激な反逆者の植物学者を好演。
『華麗なるギャツビー』(74)『帰郷』(78)ではゴールデングローブ賞最優秀助演男優賞にノミネート、後者はアカデミー賞最優秀助演男優賞候補にもなっています。
そして『栄光の季節』(82)で第33回ベルリン国際国際映画祭銀熊賞(最優秀男優賞)を受賞。
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)では第66回カンヌ国際映画祭主演男優賞を最年長の77歳で受賞しています。
最近ではクエンティン・タランティーノ監督作品の常連としてもおなじみの存在。
更に申すと、彼は名優ローラ・ダーンの父親でもあります。
個人的には『ブラック・サンデー』(77)や『ザ・ドライバー』(78)など、タイトルをきいただけでその強烈な存在が脳裏に浮かび上がるブルース・ダーン。
そんな彼が齢80を越えて、ラブ・ストーリーに主演するとは!
ただし今回彼が演じる主人公、よくよく考えるとかなり自己チューなキャラクターで、周囲を振り回しっぱなしではあるのですが、妙に憎めないところがあります。
それはやはりブルース・ダーンというタフガイ名優の長年のキャリアが培ってきた魅力の賜物でもあるでしょう。
アルツハイマーという題材にしても、ここではリアルな言及よりもファンタジックともいえるヒューマニズムを重視しているので、実に鑑賞後の印象は爽やか。
またクライマックスでの演劇がなぜ『冬物語』なのか? も、シェークスピアがお好きな方ならニンマリとくることでしょう。
監督は長編映画デビュー作『カネと詐欺師と男と女』(16)で注目されたマーティン・ロセテ。
彼の長編映画第2作となる本作、ブルース・ダーンはもとよりカロリーヌ・シロルやブライアン・コックスなどベテラン勢の魅力をあますところなく描出しながら、老いらくの恋の行方をささやかに魅せてくれています。
それにつけても、子どものころから見続けてきた強烈な個性の俳優が、長年の月日を経て、このような魅力的でアクティヴな(ちょっと強引ではあるけれど)ジジイとなって、今も私たちを牽引してくれるとは!
やはり映画とは見続けるものだなあと、改めて痛感させれてしまった次第です。
(文:増當竜也)
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