コロナ禍の今こそ観たい最新「格差社会映画」5選
その『パラサイト』が公開された2019年(『パラサイト』の日本公開は2020年)には、他にも『アス』や『ジョーカー』など同様に格差社会の構造をエンターテインメントに仕上げた映画や、『存在のない子供たち』や『家族を想うとき』など現実の貧困の問題を鋭く描いた映画も公開されていました。これは、格差社会が世界的な問題であることから生まれた、1つの潮流と言えるでしょう。
残念ながら2021年の今のコロナ禍において、さらに経済の格差は広がりを見せています。飲食などサービス業に携わる方たちが大打撃を受け、医療に関わる方たちの負担が増大していることとは言うまでもなく、特にアメリカでは莫大な資産を持つ富裕層がさらに所得を増やし続けている一方で、ごく僅かな所得で労働を強いられている人たちがさらなる困窮状態に陥っていたりもします。
こんな時代であるからこそ、格差社会を描いた映画は、やはり現実の問題と符合するという意味でも観る価値が大きいと言えます。ここでは、2020年または2021年のこれから公開される、最新の「格差社会映画」のオススメ5本を紹介します。
1:『21世紀の資本』(配信中)
フランスの経済学者トマ・ピケティの同名の書籍を原作としたドキュメンタリー映画です。タイトルからはものもしさやとっつきづらさを感じるかも知れませんが、この映画版は専門用語もほとんどなく、編集や演出も手が混んでいて飽きさせない、経済や歴史に詳しくない方でもわかりやすい内容になっていました。
現代で18世紀の頃のような著しい格差社会が生まれかねないことが示されたり、総じて過度な格差を避けるべきであるという論調で展開しているため、普段から格差社会の理不尽さに憤りを感じている人こそ、その具体的な原因について考えることができるでしょう。
『プライドと偏見』や『レ・ミゼラブル』(2012)や『エリジウム』などの引用もあり、映画ファンであればよりその具体例によって理解しやすくもなっています。戦争による経済の影響の大きさや「その後」に起こることを知れば、今のコロナ禍における種々の問題についても、思慮を巡らせることができるかもしれません。
2:『薬の神じゃない!』(U-NEXT独占で配信中、DVDは3月3日発売)
中国で興行収入31億元(約465億円)、2018年における中国国内の興行収入で第3位という大ヒットを記録した作品です。その内容は、金目的でジェネリック薬の密輸に手を染めた男が、白血病の娘を持つポールダンサー、中国語なまりの英語を話す牧師、力仕事が得意な不良少年など、クセが強いメンバーとチームを組むというもの。序盤こそ『こち亀』のように事業が拡大して調子に乗ってしまう様が描かれたりもしますが、その後はとてつもなくドラマティックな展開へとなだれ込んでいきます。
このジェネリック薬の密輸販売事件は、2014年に中国で実際に起こったもの。劇中で問題となるのは、国内で認可されている「これしかない」薬の値段を企業が釣り上げていくこと。独占が許されてしまっているからこそ、薬を求めている人たちに行き渡らず、生活が困窮することはもちろん人が命を落とす事態に陥ってしまっているのです。現実で新型コロナウイルスの治療薬やワクチンを誰もが欲している今、同じようなことにならないか、と心配もしてしまうかも知れません。
「未承認の薬を世に行き渡らせる実話」であることなどから、中国版『ダラス・バイヤーズクラブ』とも呼べるでしょう。どちらもエンタメ性が高く万人が楽しめるというだけでなく、ダメ人間で世間から疎まれていた、社会の底辺であったはずの男が、いつしか庶民のために力を尽くす過程にも大きな感動がありました。
3:『大コメ騒動』(劇場公開中)
富山で起きた米騒動の実話を映画化した作品です。ポスターに書かれているのは、「健保(健康保険)もない!年金もない!明日食べるお米もない!<超・格差社会>を変えた、100年前の女性たちの実話!」という文言。この通りに、庶民たちが理不尽な状況に置かれた様を描く内容となっています。
パッと見では痛快愉快なコメディを期待されるかも知れませんが、実際は同じく本木克英監督作品の『超高速!参勤交代』と同様に、「我慢」を強いられ「理不尽」に耐える、良い意味で苦しい展開が多くなっています。それももちろん作品に必要なものであり、それがあってこそ耐え続ける主人公たちを、心から応援し感情移入ができる内容にもなっていました。
主演の井上真央をはじめとした実力派の俳優たちが強烈なキャラクターを好演しており、さまざまな人物の思惑や策略が交錯する「群像劇」として楽しめるでしょう。現代の格差社会はもちろん、女性が起こした「#MeToo」運動や、フェイクニュースのあれやこれを思い起こすところもありました。少し乱暴なイメージもある米騒動のイメージが、ガラリと変わるきっかけにもなるでしょう。
4:『プラットフォーム』 (1月29日に劇場公開)
目が覚めたら、そこは中央に穴の空いた部屋。できるのは、上から食べ残しが降りてきて、それを食べること…という、とんでもない状況が描かれる、『CUBE』や『SAW』なども思い起こすソリッド・シチュエーション(限定的な空間)のサスペンスです。
重要になのは、「1ヶ月ごとに階層が入れ替わる」というルールがあること。上の階層になればなるほど良い食事にありつけるものの、下の階層に行くともう食べ残しすらない状況になるのです。階層が下の者は上からのおこぼれをもらうしかなく、下に行けば行くほどにさらに状況が厳しくなる。下の階層の者が生きるかは死ぬかは上の階層の者しだい……という、設定そのものがまさに格差社会になっていました。
R15+指定がされており、目を覆いたくなるほどの残酷な描写もありますが、それも作品に必要なものでした。後半には大方の予想を覆すであろう、しっかりとカタルシスのある展開も用意されています。現実の格差社会のエグさを、ストレートに風刺した映画を観たいという方に大プッシュでオススメします。
5:『藁にもすがる獣たち』(2月19日に劇場公開)
日本人作家である曽根圭介の同名小説を、韓国で映画化した作品です。事業に失敗しアルバイトで生計を立てている中年男性、失踪した恋人が残した多額の借金の取り立てに追われる青年、夫のDVから逃れようとする女性など、それぞれに事情がある者たちが予想外の事態に翻弄されるクライムサスペンスになっています。
物語の発端は、そのアルバイトの中年男性が、職場のロッカーに入れられていた忘れ物のバッグから10億ウォンもの大金を見つけたこと。そこからは、関係のないように思われた登場人物がそれぞれ精神的かつ物理的に追い詰められたり、なんならアッサリと命を落としたりします。これは貧困に陥ったり、社会的な弱者であった者たちこそが、さらにお金によって人生を狂わされてしまうという、普遍的な事実をシニカルに描いたブラックコメディでもあるのでしょう。
そのような黒い笑い、人間の悪意や残酷さ、ましてやお金に翻弄される様をエンターテインメントとして楽しむというのは悪趣味のようにも思えますが、こういうキレイゴトが一切ない、「本当のこと」を寓話(教訓を描く物語)として描く作品こそ、現実の格差社会で苦しむ人が多い今に観て欲しいと思えるのです。
おまけ:韓国映画がこれからも面白い!
直接的な格差社会の揶揄になっているわけではありませんが、韓国映画では『パラサイト 半地下の家族』に続くように、これからも「社会の理不尽」に立ち向かう、または翻弄される物語が紡がれた、面白い作品が公開されます。1月22日より劇場公開されている『KCIA 南山の部長たち』は、実際に起こった大統領暗殺事件の映画化作品であり、不信感と忠誠心の板挟みになり、周りの関係がどんどん拗れていく「中間管理職」的な立場の男が苦悩する物語になっていました。ずっと目が死んでいるイ・ビョンホンの熱演も見どころです。
3月5日に劇場公開の『野球少女』は、プロ野球選手を目指す女子高生の物語。主人公は母親からもその夢を強く反対され、その理由の根底にはやはり「貧困」があることが示されます。それでも「性別」を理由に何かを諦めないことの尊さや気高さを称えた、素晴らしい作品に仕上がっていました。
現実の格差社会は苦しく辛いものではありますが、その状況が深刻化している今だからこそ、その問題を描いた映画は、さらに心にズシンと響くはずです。ぜひ、今の世で息苦しさや生きづらさを感じているほど、これらの格差社会映画を観て欲しいです。
(文:ヒナタカ)
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