映画コラム

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2021年01月31日

【ネタバレ】『映画 ギヴン』レビュー|大人の三角関係の裏側にあった主人公の成長

【ネタバレ】『映画 ギヴン』レビュー|大人の三角関係の裏側にあった主人公の成長



個人的にティーンのキラキラとまぶしい青春モノよりも、猪突猛進の恋愛に恐怖を覚えた大人7割子ども3割みたいな大学生くらいの、カカオ分高めのチョコレートのような物語にグッとくるところがあります。

漫画「ギヴン」という作品においては、テレビアニメ化された高校生カップルの物語以上に、“大人組”と呼ばれる三人のこじれにこじれた恋愛が好きでした。この「大人の三角関係」が『映画 ギヴン』として劇場アニメ化されると知って、心から喜んだものです。

しかし、『映画 ギヴン』を観た私は、主人公がテレビアニメの時以上に大きく成長していく姿に、3人の恋愛模様と同じくらい胸を打たれました。

※テレビアニメ及び映画を鑑賞済みの方に向けた記事です。未鑑賞の方、ネタバレを避けたい方はご注意ください。

真冬の成長の序章を描いたテレビアニメ

『ギヴン』は、主人公で印象的な声を持つボーカルの佐藤真冬(さとうまふゆ)とギターの上ノ山立夏(うえのやまりつか)、ベースの中山春樹(なかやまはるき)とドラムの梶秋彦(かじあきひこ)ら4人で結成されたバンド“ギヴン”とその周囲で巻き起こる、恋愛や友情、青春を描いた作品です。テレビアニメは主に、真冬と立夏が付き合うようになるまでの物語を描いています。



映画の序盤で「フェスの一般公募枠のライブに出たい」と強い意思表示をした真冬ですが、テレビアニメの頃は自分の気持ちを言葉にすることを苦手としていました。なぜなら、自分の言葉のせいで大切な人を失った過去があるからです。そのため「気持ちを伝えるなんて、僕には無理だ」と、苦手というよりかは諦め、失望にも似た意識を持っていたのだと思います。

そんな彼を変えたのは、バンドであり、立夏でした。昔の恋人が口ずさんでいた曲を歌う真冬に心を動かされたと訴えた立夏によって、真冬は音楽を通して表現することに挑戦していきます。

そしてテレビアニメ9話のライブを経て真冬は、自らの想いを口に出すようになり、さらに新たな曲が作りたい、ライブがしたいと表現することに意欲を見せるまでになっていったのです。

映画で描かれる3つの真冬の成長



テレビアニメで成長を見せた真冬は、映画でさらなる進化を遂げていきます。しかもそれは、春樹と秋彦、そして秋彦の同居人であり元恋人であり天才ヴァイオリニストの村田雨月(むらたうげつ)の複雑な三角関係の裏側で、といっても過言ではないくらい淡々と描かれていました。

■真冬の成長1:作曲に挑む




テレビアニメと映画で真冬の大きく異なるポイントが、作曲です。テレビアニメの頃の真冬はギターもバンドも初心者だったため、立夏が作曲した曲を演奏していました。しかし映画では、立夏と一緒に作曲に挑戦する姿が描かれています。

真冬は音楽武者修行と題し、バンド内で一番音楽の幅が広い秋彦にCDを借りたり、雨月が演奏するクラシックのコンサートに連れていってもらったりして、引き出しを増やしていきます。

その引き出しの多さは、春樹が「音楽が分かってきている」「天才」「背後に千の音楽の気配がする」「努力して聴きこんできた」と焦りを感じるほどの規模になっていました。

新しい曲が作りたいと果敢に作曲に挑む姿は、『映画 ギヴン』で一番わかりやすい真冬の成長だったと思います。

■真冬の成長2:「感じる才能」の開花


映画の中で真冬は、春樹だけでなく秋彦にも「天才」と評されています。秋彦は、雨月のヴァイオリンの演奏を聴いた後に「曲がつくりたい」と言った真冬を見て「感じる力が並じゃない」と感じていました。それは、秋彦がテレビアニメのモノローグで触れていた「途方もなく人より心と感情のサイズが大きい」という雨月の人物像と表裏一体のものだったと思います。


この“表裏一体”を体現したのが、先述のコンサートのシーンと、真冬が雨月の前で制作中の曲を披露したシーン。真冬は雨月のコンサートを通して、「音で感情を共鳴させる方法」があることを知ります。また演奏を見せたシーンでは、自分が鳴らしたい、歌いたい感情と音を、雨月に見事に言い当てられたのです。

これらの描写からわかるのは、音に感情を乗せ共鳴させられるほどの力を持つ人は、同じくらい感情を受け取る力に優れているということ。その才能をすでに持っている人がいるという事実は、感情を表現することにまだ自信を持てずにいた真冬に希望として映ったと思うのです。

真冬の「感じる才能」は、雨月との出会いがなければ眠ったままだったかもしれない。そう思うと、秋彦と雨月が同居人という形でずるずると微妙な関係を続けてくれていてよかったな、とも思うのです。

■真冬の成長3:真冬の表現は「吐き出す」から「共鳴させる」へ


最も特筆すべき真冬の成長は、歌詞の作り方にあると感じました。真冬はテレビアニメで演奏した「冬のはなし」続き映画でも作詞を担当したのですが、その制作アプローチは異なるものだったのです。

自分の内にある元恋人との思い出と向き合い、もはや衝動ともいえる勢いで胸に抱え続けてきた感情をライブで吐き出したテレビアニメの頃の真冬。それが映画では自身の内にある感情に、自分の外にある雨月の心の叫びを最後のピースとして加え、歌詞を完成させたのです。

恋人関係は解消したにもかかわらず、ずっと互いが互いにしがみついてきた秋彦と雨月。離れたほうが互いの未来にとってもいいはずなのに、離れてしまったらこれまで一緒に過ごしてきた時間すらも全てなくなってしまいそうで離れられない―—。こう独白する雨月の気持ちが、恋人を亡くし前に進めなかった過去を持つ真冬は痛いほど分かったのでしょう。真冬は雨月の独白を聞いてすぐに、バンド“ギヴン”の新曲『夜が明ける』の歌詞を書き上げました。



ちゃんとうたえるかなっておもうと こわいよ
伝えたい わかって欲しい 欲がでてきた…

ライブの前日、緊張する真冬は立夏にこう打ち明けます。

真冬から「伝えたい」という言葉が出ること、そんな欲が彼の中に生まれたこと。真冬の心の表現方法が「言葉にする」から「共鳴させる」へ、「自分のため」から「周りの大切な人たちのため」へと進化したことに、原作、テレビアニメとともに彼の姿を追ってきたファンは、感動を覚えたのではないでしょうか。少なくとも筆者は、涙が止まりませんでした。

過去を愛しながら前へ進める、真冬の歌


真冬が歌った『夜が明ける』は彼の願い通り、「感情の共鳴」を生み出します。秋彦と雨月は、これまでの共依存関係に区切りをつける決意をし、それぞれの道を歩み始めました。

真冬のうたは魔法みたいだ もう一度恋をしてみようって信じさせてくれる

春樹もまたラストシーンで、真冬の歌をこのように振り返っています。



薄暗く、ネガティブな比喩として使われることも多い「夜」。『映画 ギヴン』でも、恋をする彼らの葛藤や傷が「夜」として描かれていると思います。しかしその“夜”は本当に薄暗いだけの時間たったのか、手放したくないくらい大切な時間だったのではないかと、真冬は「夜が明ける」を通して問いかけるのです。

前に進むことが、元恋人との思い出をなかったものにしてしまうのではないかとずっと思い続けてきた真冬。しかし彼は立夏との新しい恋に進んだことで、その思い出が色褪せることはあってもなくなることはないのだと知りました。





“夜が明ける”ことは怖いよね。でも大丈夫だよ。

こんな風に過去を愛しながら前へ進むことを肯定してくれる真冬の歌はきっと、春樹と秋彦と雨月、そして彼らの物語を見る人々にも希望を届けてくれたと思うのです。

(文:クリス)

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(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会

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