『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』の「5つ」の魅力を徹底解説!隠された父と息子の物語とは?
3:隠された父と息子の物語(真犯人は何を目指していたのか?)
真犯人であった森谷帝二(名前の由来はシャーロック・ホームズの宿敵であるモリアーティ教授)は有名な建築家でしたが、度を超えた完璧主義者であり、イギリス古典建築のシンメトリー(左右対称)の構造に並々ならぬこだわりを持っていました。彼は若い頃の建築物が完璧なシンメトリーにできず、その存在を許すことができなかったため、凶悪な連続爆弾犯となってしまったのです。
この森谷の、さらなる犯行の動機とも思われる興味深いセリフがあります。彼は、終盤でよろめきながら蘭を助けに行こうとした小五郎に向かって、「あわれな父親の娘への愛か。建築にも愛は必要ない。人生にもな」と口にしているのです。
このセリフの意味を読み解くのに重要なのは、森谷の父の存在です。森谷の父は世界的に有名な建築家で、主にイギリスで活躍していました。森谷自身も高校までイギリスにいて、英国風の建築の傾倒していたそうです。しかし、15年前に別荘が火事になった時に森谷は父と母を亡くし、今住んでいる「完璧にシンメトリーになった屋敷」は父からの遺産であると語っていました。この火事の時から、急に森谷の建築が脚光を浴びるようになったと、白鳥刑事から指摘もされていました。
劇中では明確に語られていませんでしたが、森谷は火事で父を亡くしたことで、「イギリス様式のシンメトリーの建築物を完璧に作り続けること」を人生の目標と定め、それをもって父からの愛に報いようとしていたのではないでしょうか。それも、父から完璧にシンメトリーになった屋敷を遺産として受け継いだタイミングで。それが「建築にも愛は必要ない。人生にもな」という言葉の意味なのだと思うのです。
小五郎に「あわれな父親の娘への愛か」と言い捨てていたのも、その「父が愛していたイギリス様式のシンメトリーの建築物を完璧に作ること」だけが、人生の目標だと信じていた、彼の悲しくも哀れな価値観そのものだと思えるのです。その歪んだ目標が、彼が建築家として成功していた理由にも、そして連続爆弾犯になってしまう理由にもなってしまうのが、また切ないのですが……。
また、森谷は独身であり、アフターヌーンティーパーティーの食べ物も自分で全て作るなど、パートナーとなる人物がいない、この先も必要としないような人物でもありました。まさに「愛のない人生」を体現していたのです。
なお、屋敷に飾ってあった、10歳の頃の森谷と、その父と母が写っていた写真では、森谷は「母親とだけ」手を繋いでいました。ひょっとすると、森谷は生前の父とは(その愛情を感じていたとしても)良好な親子関係を築けなかった。だからこそ、シンメトリーの建築物を作り続け、その他は断じて認めなかったのかもしれません。
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