(C)1997 青山剛昌/小学館・読売テレビ・ユニバーサル ミュージック・小学館プロダクション・TMS
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映画コラム

REGULAR

2021年02月05日

『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』の「5つ」の魅力を徹底解説!隠された父と息子の物語とは?

『名探偵コナン 時計じかけの摩天楼』の「5つ」の魅力を徹底解説!隠された父と息子の物語とは?



3:隠された父と息子の物語(真犯人は何を目指していたのか?)

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真犯人であった森谷帝二(名前の由来はシャーロック・ホームズの宿敵であるモリアーティ教授)は有名な建築家でしたが、度を超えた完璧主義者であり、イギリス古典建築のシンメトリー(左右対称)の構造に並々ならぬこだわりを持っていました。彼は若い頃の建築物が完璧なシンメトリーにできず、その存在を許すことができなかったため、凶悪な連続爆弾犯となってしまったのです。

この森谷の、さらなる犯行の動機とも思われる興味深いセリフがあります。彼は、終盤でよろめきながら蘭を助けに行こうとした小五郎に向かって、「あわれな父親の娘への愛か。建築にも愛は必要だよ。人生にもな」と口にしているのです。

このセリフの意味を読み解くのに重要なのは、森谷の父の存在です。森谷の父は世界的に有名な建築家で、主にイギリスで活躍していました。森谷自身も高校までイギリスにいて、英国風の建築の傾倒していたそうです。しかし、15年前に別荘が火事になった時に森谷は父と母を亡くし、今住んでいる「完璧にシンメトリーになった屋敷」は父からの遺産であると語っていました。この火事の時から、急に森谷の建築が脚光を浴びるようになったと、白鳥刑事から指摘もされていました。

劇中では明確に語られていませんでしたが、森谷は火事で父を亡くしたことで、「イギリス様式のシンメトリーの建築物を完璧に作り続けること」を人生の目標と定め、それをもって父の愛に報いようとしていたのではないでしょうか。それも、父から完璧にシンメトリーになった屋敷を遺産として受け継いだタイミングで。それが「建築にも愛は必要だよ。人生にもな」という言葉の意味なのだと思うのです。

もちろん、これは歪んだ愛でしょう。小五郎に「あわれな父親の娘への愛か」と言い捨てていたのも、その「父が愛していたイギリス様式のシンメトリーの建築物を完璧に作ること」だけが愛であり、人生の目標だと信じていた、彼の悲しくも哀れな価値観そのものだと思えるのです。その歪んだ愛が、彼が建築家として成功していた理由にも、そして連続爆弾犯になってしまう理由にもなってしまうのが、また切ないのですが……。

また、森谷は独身であり、アフターヌーンティーパーティーの食べ物も自分で全て作るなど、パートナーとなる人物がいない、この先も必要としないような人物でもありました。彼にとって、建築だけが愛情を捧げられる相手でもあったのでしょう。

なお、屋敷に飾ってあった、10歳の頃の森谷と、その父と母が写っていた写真では、森谷は「母親とだけ」手を繋いでいました。ひょっとすると、森谷は生前の父とは良好な親子関係を築けなかった。だからこそ、シンメトリーの建築物を作り続け、その他は断じて認めないという、歪んだ父への愛という価値観を持ってしまったのかもしれません。

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