俳優・映画人コラム

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2021年02月12日

映画スター役所広司、魅力溢れる出演映画集!

映画スター役所広司、魅力溢れる出演映画集!



2021年2月11日より公開される西川美和監督作品『すばらしき世界』は、殺人罪で長年投獄されていた元ヤクザが出所し、何とか人生をやり直そうとするも、生来の気の短さなどが災いしてトラブルが連続し……といった、従来のヤクザ映画とは一線を画したヒューマン映画です。

主人公を演じるのは役所広司。言わずと知れた日本映画界を代表する大スターで、ここでも根は良い奴であるがゆえに曲がったことが大嫌いな直情型、そしてもう若くもない……といった人生の悲哀をペーソスたっぷりに演じています。

今回はそんな役所広司のさまざまな“顔”にスポットを当ててみましょう。

1980年代躍進期のお宝映画
森﨑東監督作品『女咲かせます』



役所広司は1955年1月1日、長崎県諫早市の生まれ。

公務員から役者の道を志すようになり、仲代達矢主宰の無名塾に入塾。

このとき、彼が役所勤め出身ということで、師匠の仲代達矢が「役が広がるように」との祈りをこめて役所広司という芸名をいただいています。

1980年にTVデビューし、83年のNHK大河ドラマ「徳川家康」の織田信長役で注目を集め、翌84年のNHK「宮本武蔵」で初主演し、彼の躍進が始まります。

映画は師匠の仲代が主演する作品に端役で出ていましたが、85年の伊丹重蔵監督作品『タンポポ』でやたら料理のウンチクに詳しいギャング風の白服男を演じて、その存在感を銀幕にアピール。

そして1987年に出演した、今やお宝的な価値のある快作映画が森﨑東監督作品『女咲かせます』でした。

結城昌治の『白昼堂々』を原作に、大泥棒を父に持つ女泥棒(松坂慶子)が貧乏音楽家(役所広司)に恋をしたことで稼業から足を洗おうとしますが、彼にスタラディヴァリウスのチェロをプレゼントしたいがために、最後の仕事としてデパートの売上金強奪に挑みます。

原作は以前も野村芳太郎監督『白昼堂々』(68)として映画化されていますが、ここでは主人公を女性に変えるなど大胆にアレンジし、森﨑監督ならではの痛快人情女性讃歌喜劇に仕上がっています。

音楽に情熱を燃やす純朴な、それこそ松坂慶子ならずとも女性ならみんな好きになってしまいそうな音楽家を、若き日の役所広司が好演。

彼がチェロを演奏する姿の美しさは、ラストの長崎県高島炭鉱ボタ山でチェロを弾く画として見事に結実していくのでした。

戦争映画と役所広司
『ローレライ』



1988年、役所広司は初の戦争映画『アナザウェイ D機関情報』に主演しますが、これは終戦工作をテーマにロバート・ボ-ンやシドニー・ローム、ウド・キアらと共演した山下耕作監督の国際大作で、音楽は『フラッシュダンス』のジョルジオ・モロダーという華々しい布陣でした。

この後、時を経て現在の彼は『聯合艦隊司令長官山本五十六』(11)『日本のいちばん長い日』(15)など日本映画界が戦争映画を製作する際に欠かせない人材となっています。

そんな彼がフィクショナルな戦争映画のヒーローを演じたのが、2005年の『ローレライ』でした。

福井晴敏の架空戦争戦記小説を原作に、これが長編映画監督デビューとなった樋口真嗣がメガホンを取ったSFチックな戦争冒険映画超大作です。

1945年8月の広島原爆投下直後、アメリカ軍による第二の原爆投下を阻止すべく極秘任務の遂行にあたる戦利潜水艦《伊507》。

この艦には“ローレライシステム”というナチスドイツが開発した特殊音響兵装が成されているのですが、その中枢を担うのが人間の少女であったという衝撃の真相に苦悩しつつ、任務を全うしようと腐心する艦長を役所広司が演じています。

それは日本の戦争映画には稀な「生きるために戦う」男の颯爽としつつも大胆不敵な行動に打って出る漢(おとこ)の姿でもありました。

ヤクザ映画と役所広司
『シャブ極道』



役所広司の初のヤクザ映画主演作品は、1993年の『極東黒社会DRUG CONNECTION』です。

ここでの彼は元フランス外人部隊の出身で今はコカインを密輸するフリーのスマグラーで、ショー・コスギやジミー・ウォングなどと共演し、日本・香港・台湾・イタリアの黒社会がしのぎあう国際派作品でした。

この後、彼は細野辰興監督と組んで『大阪極道戦争 しのいだれ』(94)に主演し、小品ながらも20世紀映画評論家のレジェンド双葉十三郎氏に絶賛され、新境地を開拓。

そして続けて細野監督と組んだ衝撃の第2弾が『シャブ極道』(96)でした。

ここでの彼は何と「ひとりでも多くの人々にシャブをやってもらって、幸せになってほしい!」とマジに願いながらシャブを密売する、とんでもアウトロー!

自身も完全なジャンキーで(そのくせ酒は一滴も飲めず、オレジジュースが大好き)、スイカにも何にでもシャブをかけて食べ、しゃぶしゃぶにシャブを入れて「これが本当のシャブしゃぶしゃぶや!」などと喜んだりしています(ちなみに、つけ汁はポン酢が良いそうです)。

この上映時間164分の超大作が公開された1996年の役所広司は、周防正行監督『Shall we ダンス?』で日本中に社交ダンスブームを巻き起こし、小栗康平監督『眠る男』でアン・ソンギと共演して国際派俳優の貫禄をまたまた見せつけていた年だっただけに、それらとあまりのギャップに映画ファンは仰天したものでした。

最近ではヤクザ以上にやばい刑事『孤狼の血』(18)にも主演した役所広司ではありますが、久々に細野監督への出演なども期待したいものです。

原田眞人監督と役所広司
『わが母の記』



役所広司ともっとも相性の良いコンビネーションを築き続けている映画監督は、原田眞人でしょう。

1995年『KAMIKAZE TAXI』で初めてコンビを組んで多大な評価を受けた両者は、続いて『バウンス ko  GALS』(97)『金融腐蝕列島〔呪縛〕』(99)『突入せよ!あさま山荘事件』(02)と立て続けにコンビを組みますが、その後しばらくの期間を置いて2012年に取り組んだのが『わが母の記』でした。

井上靖が自身の母をモチーフに描いた自伝的小説を原作に、幼い日に別れて暮らした忸怩たる想いや、老いた母(樹木希林)の痴呆と徘徊、そして最期を看取るまでの息子とその家族の複雑な思いを真摯に吐露したヒューマン映画の名作です。

モントリオール世界映画祭審査員特別グランプリを受賞。

実際に井上靖の育った伊豆や沼津で撮影、また東京世田谷の井上邸でもロケが行われています。

この後も原田×役所の名コンビは『日本のいちばん長い日』(15)『関ケ原』(17)と続いています。

黒沢清監督と役所広司
『CURE』


 
2020年度のキネマ旬報ベストテン第1位を獲得した『スパイの妻』の黒沢清監督の出世作ともいえるのが1997年の『CURE』で、ここで黒沢監督は初めて役所広司と邂逅しました。

人心を操って殺人を犯させる青年(萩原聖人)と、心病んだ妻を持つ刑事(役所広司)との確執を描いたサイコ・サスペンスの傑作。

見ているほうがだんだん洗脳されていくのではないかと思えるほどの恐怖の臨場感で、主人公刑事もまた犯人に翻弄されまくりながら、正気と狂気の狭間で苦悩していきます。

この後、黒沢×役所のコンビは『ニンゲン合格』(99)『カリスマ』(00)『回路』(01)『降霊』(01)『ドッペルゲンガー』(03)『叫』(07)など立て続けに新作を発表し続けていきましたが、ここ10年ほどはご無沙汰なのが寂しいところです。

時代劇と役所広司
『清須会議』



TV時代劇への出演は1980年代から旺盛だった役所広司ですが、映画での時代劇初主演映画は2000年の市川崑監督作品『どら平太』でした。

この後『十三人の刺客』『最後の忠臣蔵』(10)『一命』(12)『蜩ノ記』(14)『関ケ原』(17)と、2010年代からぐんぐん時代劇映画出演が増えていきます。

その中で2013年の三谷幸喜監督作品『清須会議』(13)は織田信長亡き後、つまりは先ごろ完結したNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の後、柴田勝家(役所広司)と羽柴秀吉(大泉洋)の勢力争いと、その象徴ともされる清須会議を映画化したもの。

大の時代劇ファンである三谷監督が執筆した時代小説を、自ら映画化。

無骨の極みである柴田を演じる役所広司の生真面目さと、狡猾極まる秀吉を演じる大泉洋のひとたらし演技の対比が絶妙でした。

なお、今年は『蜩ノ記』の小泉尭史監督と再び組んだ『垰 最後のサムライ』が公開予定となっています。

社会派映画と役所広司
『東京原発』



役所広司のヒューマニズムあふれる個性は言わずもがなですが、それを活かして社会派的な見地に立った人間ドラマも多数あります。

映画だけでも今村昌平監督の『うなぎ』(97)、青山真治監督の『EUREKA』(01)、周防正行監督の『終の信託』(12)などなど。

今回その中でもピックアップしたいのは、2002年の山川元監督作品『東京原発』です。

何とこれは東京都知事(役所広司)が「東京に原子力発電所を誘致しよう!」と言い出して、都庁が大騒ぎになる社会派パニック・サスペンス・コメディ。

公開当時は数多くの芸達者が織り成すブラック・コメディとしての評価でしかありませんでしたが、2011年の福島原発事故を経た今となっては単純に笑えない、日本に住む人々にぜひ見ていただきたい、真のエンタテインメント問題作であるともいえるでしょう。

国際派スターとしての役所広司
『バベル』


 
役所広司がそのキャリアの初期から海外スターとの共演が多く、国際的活動に意欲的なのは幾度か記しましたが、21世紀に入りますと『SAYURI』(05)『シルク」(08)と外国映画そのものへの出演も多くなっていきました。

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の『バベル』(06)もその中の1本で、ブラッド・ピットやケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、エル・ファニングなど錚々たるキャストの布陣の中に役所広司も加わっています。

また本作で菊地凛子が世界的にブレイクすることにもなりました。

ここではモロッコ、アメリカ、メキシコ、そして日本と4つの国で生きる人々のドラマが、ある事件をきっかけに交錯していくという、この監督ならではのユニークな手法が採られ、2006年カンヌ国際映画祭では監督賞を受賞しています。

最近でも2017年の日米合作『オー・ルーシー』、また2019年のユー・フェイ監督による日中合作映画『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』では主演を果たしました。

映画監督としての役所広司
『ガマの油』



役所広司はこれまでに1本だけ映画監督作品を発表しています。

2009年に公開された『ガマの油』。

ここで彼は原案(共同)、監督・主演を務めました。

交通事故に遭った息子(瑛太)の恋人(二階堂ふみ)からの電話を受けた父(役所広司)が、思わず息子のふりをして受け答えしてしまったことから始まるハートフル・ファンタジー映画。

役所広司は本作のために2年の月日を費やして企画を構想していますが、コミカルな中にもシビアなものをファンタジックに垣間見せていくなど、彼のクリエイター的な嗜好性みたいなものが垣間見える仕上がりとなっています。

音楽に中世古楽器編成による日本の古楽アンサンブル“タブラトゥーラ”を迎えているあたりのセンスもなかなかのもの。

また本作で二階堂ふみが映画デビューを果たしているのも、今となっては特筆しておくべき事象でしょう。

(文:増當竜也)

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(C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

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