映画コラム

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2021年02月11日

『秘密への招待状』レビュー:秘密がもたらす女性たちの真実

『秘密への招待状』レビュー:秘密がもたらす女性たちの真実



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

人間、理想が現実の前に屈しようとしているときの他者からの支援ほどありがたいものはないものです。

ただし、そこに何某かの含みがあったとしたら、諸手を挙げて喜んでばかりもいられないでしょう。

支援される側の秘密と支援する側の秘密、双方の秘密が明らかになったとき、そこにもたらされるものとは、一体……?

ジュリアン・ムーアとミシェル・ウィリアムズ、二大女優の競演で贈る『秘密への招待状』は、秘密の奥に隠された真実の数々から人生の数奇な運命とそれゆえの感動を導くヒューマン映画です。

孤児院経営者とその支援者の
過去と現在を交錯させた秘密




映画『秘密への招待状』はインドの孤児院から舞台は始まります。

院を経営しているアメリカ人女性イザベル(ミシェル・ウィリアムズ)は、理想とは裏腹に現実的には施設の資金繰りに頭を悩ませる日々が続いていました。

そんな折、何と突然アメリカのメディア会社から多額の寄付の話が!

ただし、直接ニューヨークまで来て支援者のテレサ(ジュリアン・ムーア)と会うのが条件として提示されました。

勇んでニューヨークに赴き、慣れない豪華ホテルに泊まらされながら、イザベルはテレサと面会。



一刻も早くインドの子どもたちの元へ戻りたいイザベルではありますが、テレサはなかば強引に自分の娘グレイス(アビー・クイン)の結婚式に招待しました。
 
やむなく式に出席したイザベルでしたが、そこで目撃したのは、若き日に別れた恋人のオスカー(ビリー・クラダップ)。

何と彼は、テレサの今の夫でした!

しかも目の前にいる花嫁姿のグレイスは、オスカーとの間に設けた我が子の成長した姿でもあったのです!

一体これはどういうことなのか?



まるで罠にはまったかのようにおののくイザベルは無論のこと、オスカーも、そして真実を知らされたグレイスも激しく動揺。

そんなことなどお構いなしのように、さらにテレサはイザベルがインドに戻らず、ニューヨークに留まることを支援の条件として提示します。

一体テレサの本心は、どこにあるのか?

そして最終的にイザベルはどんな結論を下すのか?

名女優ジュリアン・ムーアの
プロデューサーとしての英断

最初にタネを明かしますと、本作は2006年にアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたデンマークのスザンネ・ピア監督作品『アフター・ウェディング』のハリウッド・リメイク映画です。

ただし『アフター・ウェディング』の主人公は男性(マッツ・ミケルセン)で、彼を招く実業家も男性(ロルフ・ラッスゴード)でした。

本作はこの設定を男性から女性にチェンジさせているのが大きな特徴であり、このことによって単にリメイク作品といった印象を払拭させるに足るほどに、『アフター・ウェディング』を原作とする女性たちの映画として強く屹立することになっています。

これには主演のひとりジュリアン・ムーアがプロデューサーとして参加していることも大きいでしょう。



『アフター・ウェディング』を見て感銘を受けながら、彼女はこの立場が男性ではなく女性だったら? という視点に立脚し、夫で本作の監督でもあるバート・フレインドリッチとともに企画を進めていきました。

『アフター・ウェディング』が俗に父性の視点で綴られていく映画だとしたら、『秘密への招待状』は母性の視点で綴られていて、親としての視点こそ同じであれ、こういった性の違いもまた些細なようでいて、実は非常に大きい要素でもあるでしょう。

少なくともミシェル・ウィリアムズ扮するイザベルがなぜインドで孤児たちのために尽くしているのか、その理由の根幹も本作のほうがより明快になっているように思われます。

ジュリアン・ムーア扮するやり手の実業家にしても、経営者としてはかなりシビアな側面を覗かせており(秘書がよく怒られています)、おそらくは非道な事も今までいくつかやってきてはいるのでしょう。



そういった悔恨に加えて、ここでは記すことのできない真相が、今回の支援への引き金に放っているように思われます。

こうした女たちに加えて愛娘の混乱といった確執などを前にして、もはや夫の存在感などどんどん薄れていくばかりで、そういった男性の処遇みたいなものも、デンマーク版とは大いに異にしているところです。

デンマークとアメリカ社会の相違みそのものも、双方を見比べると明らかになるかと思われますが、やはり本作の身上は“女たちの生きざま”に他なりません。

特に台詞で深く語らずとも、二大女優の名演によって、現代社会における女性たちの苦悩やら忸怩たる想いなどまで巧みに醸し出される秀作として、老若男女問わず強く鑑賞をお勧めしたいところです。

(文:増當竜也)

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