映画コラム

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2021年03月21日

極上青春恋愛BL『同級生』を見た私は、「なかったはずのあの頃」を創造する神になった

極上青春恋愛BL『同級生』を見た私は、「なかったはずのあの頃」を創造する神になった



青春恋愛モノを観たり読んだりしたときに、「あの頃に戻った」感覚を味わったことはないだろうか。私は何度もある。

ところがこれまでの自分の人生を振り返ってみると、その“あの頃”が見当たらないのだ。この事実と向き合うたびに、虚無がやってくる。つら。

一方でこの事実は、私が創造神であることの証だとも思うのだ。なぜならないはずの“あの頃”を創りあげ自分の経験談だと錯覚してしまっているのだから。こわ。

なぜ私は“あの頃”の創造神となりえたのだろうか。それはきっと映画やアニメ、漫画、ドラマを通して、“あの頃”の青春や恋愛に触れてきたからだと思う。

その中でも「なかったはずのあの頃」創造神を自身に強く宿してしまった作品が、アニメ映画『同級生』だ。



本作は、主人公の佐条利人と草壁光が合唱祭の個人練習をきっかけに惹かれ合い恋をしていく過程を、丁寧にゆるやかに描いている。

ふたりの恋愛は、プラトニックでもどかしい。互いに互いのことしか考えていないのに相手の気持ちが見えなくてうじうじと悩んだり「相手にかっこいいところしか見せたくない」とちょっと背伸びしたりする姿に、どうしようもなく等身大の高校生を感じてしまうのだ。



このストーリーに淡い水彩タッチの作画や色彩が加わるものだから、さあ大変。なんとも瑞々しい極上の青春恋愛映画を目の当たりにした私は、さも自分にキラキラとまばゆく爽やかな恋愛があったかのように錯覚してしまったのだ。当時付き合っていた年上の恋人の浮気が発覚し飛び蹴りをかました人間に、そんな経験があるなんて言う資格はないはずなのに……。



「なかったはずのあの頃」に私が戻ったと感じるのはきっと、ピュアで清い、炭酸がはじけるような佐条と草壁の恋に恋しているからだろう。自身の中に悲しき創造神が定着してしまったのは、猛烈な憧れがこじれにこじれた結果だ。

ただこの事実は、『同級生』が青春恋愛映画の傑作である証明だとも思っている。

“あの頃”に淡い経験や理想を置いてきた人は、少なくないだろう。『同級生』を観れば、“あの頃”の青春や恋を追体験できるかもしれない。

(文:クリス)

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©中村明日美子/茜新社・アニプレックス

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