『椿の庭』前田エマ的レビュー:切なくてやりきれない美しさ。
富司純子、シム・ウンギョンが主演を務める映画『椿の庭』が2021年4月9日に公開される。
夫を失い、今では亡き娘の忘れ形見である孫娘・渚と共に暮らす絹子。夫の四十九日を終えた彼女が、過去の記憶に想いを馳せ、慈しみながら過ごしていたある日、一本の電話がかかってくる……。
富司純子とシム・ウンギョンが主演を務める本作について、今回は前田エマが紐解いていく。
家に帰宅している時の気持ち
Q:作品をご覧になった感想は?
しっとりとしたあたたかい雨に濡れながら、家に帰宅している時の気持ちと似たような感情に包まれました。切なくてやりきれない美しさ。映画を観ての感想というよりも、何かそのような感情を呼び起こされる体験をしたという印象を持ちました。
Q:鑑賞前はどのような印象を抱いていましたか?
カメラマンである上田義彦監督の映画ということで、どんな画を観ることができるのか、そこに期待していました。
富司純子さんの私物のお着物がたくさん登場すると聞いていたので、そこも楽しみにしていましたし、どんな美しい所作、姿が見られるのかもわくわくしていました。
日本でも大活躍中のシム・ウンギョンさんのお芝居も、注目していました。彼女のインタビュー記事を読むのがとても好きなんです。それもあって観る前から非常に楽しみでした。
匂いや言葉と言った自分の中にしかない記憶
Q:共感した部分、映画を観て自分の生活の中で振り返ったことはありましたか。
モノや人を失うことよりも、匂いや言葉と言った自分の中にしかない記憶も、日々少しずつ忘れていってしまう、その当たり前のやり切れなさに思いを巡らせました。
いくら大切に想っていても手放さなければならないことが、人生には幾度となく訪れると思うのですが、それを普段の自分の生活の中で意識するのは難しいですよね。だからこそ、映画を観てそれを意識的に改めて思考できて良い時間になりました。
なんてことない帰り道の風景を、私はどれくらい覚えているのだろう
Q:この映画を見終えた後の景色はどう感じましたか。
いつものなんてことない帰り道の風景を、私はどれくらい覚えているのだろうかと考えました。
新しく建った家々を見るたび「ここには以前、どんな家があっただろうか?」と思い出してみたり、そこで暮らしていたであろう人々のことを考えたりしました。
道で出会う草花を見て、どんな匂いを去年は嗅いだかのか想像したりしました。
Q:記憶に残っているのシーンがあればお聞かせください。
花が出てくるシーンが何度もあるのですが、そのどれもが温度を持っていて、鮮明に記憶に残りました。
おそらく、各シーンでその花を選んだ理由があるのだろうと思うので。表題にも出てくる椿ももちろん印象的でしたが、他にも季節の花がいろいろ出てきましたよね。
人や物と自分の思い描いたような別れ方をできないコロナ禍
Q:どんな方々にこの映画を楽しんでいただけると感じられますか。
誰にでも共感できる部分が必ずある、普遍的なテーマを題材にしている映画だと感じました。
人や物と自分の思い描いたような別れ方をできないコロナ禍の今は、より一層、響く部分が全ての人にあるんじゃないでしょうか。
Q:若い方々にも注目いただきたいシーンなどはございましたでしょうか。
若い方々に限ったことではないのですが、衣装が素晴らしかったので、そこも注目ポイントかと思いました。着物の柄や服の質感、喪服のレパートリー、ヒールのシューズ…目を奪われました。
巡って廻っていく癒しがある
Q:この映画を観た体験は、今後の人生においてどう影響しそうでしょうか。
この映画を観て「救われる瞬間は時間が経ってやってくることもある」ということを思いました。
孫と接することで、過去の傷を少し癒すことができた祖母。祖母と過ごした時間が、いつか孫を癒すような日もくるかもしれません。
そうやって、少しずつ巡って廻っていく癒しがあることを学んだ気がします。
前田エマプロフィール
1992年神奈川県うまれ。
2015年春、東京造形大学を卒業。
オーストリア ウィーン芸術アカデミーに留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなど、その分野にとらわれない活動が注目を集める。
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