2021年05月25日

『海辺の家族たち』レビュー:家族の崩壊と再生を通して導かれる、血よりも濃い人間同士の真の絆

『海辺の家族たち』レビュー:家族の崩壊と再生を通して導かれる、血よりも濃い人間同士の真の絆


■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

『マルセイユの恋』(96)『キリマンジャロの雪』(11)などで知られる“フランスのケン・ローチ”ことロベール・ゲディギャン監督による家族の崩壊と再生の物語。

とにもかくにも仲のよろしくない3人の兄妹たちが、もはやコミュニケーションをとるのも困難と化した父親のもとに集うも、ただただ重苦しく憂鬱な時間のみが流れていきます。



舞台となる実家がそびえるマルセイユ近郊の海辺の美しさもさながら、一方ではもうほとんど町に人がいない寂しさとの対比が、この家族ひとりひとりのどうしようもない寂寥感をも代弁しているかのようです。

それが後半、町に難民の子どもたちが現れて、この子らを保護していくあたりから状況が徐々に変化していきます。

ここで面白いのは、血は繋がっていながらも修復不可能なまでに陥っていた家族の関係性が、いわばストレンジャーでもある難民の子どもたちの登場によって一気に修復し始めていくところでしょう。

一方では子どもたちにしても総じて若くはないフランス人の大人たちはストレンジャーでしかないわけですが、そうした者たちが邂逅し合うことで、血の絆など優に凌駕する“人間”同士の深く濃い絆が芽生え始めていく。

そこにこの映画の訴えたいメッセージが秘められているように思えてなりませんでした。



美しくも暗鬱な雰囲気で進む前半部も、淡々としながら決して見ていて退屈するようには演出されていませんが、やはり後半の子どもたちの登場から一気に映画は躍動感を帯びていきます(また子供たちの可愛らしいこと!)

難民はもとより自国に入ってくる異国の人々をめぐる問題の数々は、今や日本も含めて世界中どこの国も深刻化して久しいものがありますが、本作はこれを社会派的に捉えるのではなく、家族という枠をも超えた人間同士の絆の再生、すなわち人が生きていく上での希望の好機として捉えているのが最大の美徳であるともいえます。

まさに社会問題を一般庶民の視線で温かく見据えた人間ドラマの秀作です。

(文:増當竜也)

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