2021年05月31日

『HOKUSAI』レビュー:仕事を発注する側と受ける側の関係性によってクリエイトは熱く燃え上がる!

『HOKUSAI』レビュー:仕事を発注する側と受ける側の関係性によってクリエイトは熱く燃え上がる!


■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

江戸時代の天才絵師・葛飾北斎を主人公にした映画といえば新藤兼人監督の『北斎漫画』(81)が有名で、また彼が登場する同時期の絵師たちを主人公にした作品も『歌麿 夢と知りせば』(77)『写楽』(95)など多数あります。

そんな中で本作が異彩を放っているのは、まず仕事をオーダー(発注)する側と、そのオーダーを受ける側の関係性を簡明に、そして確実に描いていることでしょう。



ここでは人気浮世絵版元の蔦屋重三郎(ちなみにCCCグループ“TSUTAYA”の名称は彼の名にあやかったもの/阿部寛)と若き日の北斎(柳楽優弥)および喜多川歌麿(玉木宏)、東洲斎写楽(浦上晟周)ら絵師のみならず、当時は十三郎に仕えていた瑣吉=後の曲亭馬琴(滝沢馬琴と称されることも多い彼は、日本で初めて原稿料だけで生計を賄うことのできた著述家ともいわれています/辻本祐樹)との関係性が映画前半のキモとして描かれていきます。
(篠田正浩監督の『写楽』も同傾向の作品ではありましたが、こちらのほうがより明確に思えました)

また、そこからクライアントとクリエイターでも、編集者とライターでも何でもいい、プロデューサー的立場の人間の才覚によって、実際に現場で仕事する側がいかに伸びるか、即ち燃え上がることが出来るかが熱く問われていくのです。



その伝では今回重三郎に扮した阿部寛の存在感を真っ先に讃えたいところで、またそんな彼の薫陶を受けて己の才能を開花させていく若きアーティストを演じる側それぞれの好演もはっきり画に刻まれています。

一方で後半、老いた北斎(田中泯)と戯作者・柳亭種彦(永山瑛太)との関係性からは、時勢によって方針をころころ変えては人民を翻弄する体制側の非道が濃密に浮かび上がっていきます。

特に混迷の度を増すばかりといった痛恨極まりない今の時代と、およそ170年前の本作の時代とが、実は何ら変わってないことに慄然とさせられること必至。

その伝でも橋本一監督の反骨の姿勢は今回見事なまでに本作の画と音に定着し、見る側によって拡散されていくものと期待せずにはいられません。

いずれにしましても、クリエイターたちの熱い想いと野心の発露を「たかが」か「されど」か、どちらにみなすかは人ぞれぞれかもしれませんが、かくも凡人たるこちらの意識まで真摯に啓蒙してくれる作品であることは間違いないことは断言しておきます。

(文:増當竜也)

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