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映画コラム

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2021年06月04日

『トゥルーノース』レビュー:北朝鮮強制収容所の真実を3DCGアニメ映画で描いた理由とは

『トゥルーノース』レビュー:北朝鮮強制収容所の真実を3DCGアニメ映画で描いた理由とは



2021年6月4日より映画『トゥルーノース』が公開されます。

本作で綴られるのは、北朝鮮の政治犯強制収容所で暮らす日系家族と仲間の物語。大きな特徴は3DCGアニメ映画であるということ、容赦無く過酷な環境を描いていることでしょう。さらなる魅力や特徴を簡潔に紹介します。

1.『火垂るの墓』と「脱獄もの」を連想した理由

主人公は、父が政治犯の疑いで逮捕されため、少年期から母と妹ともに強制収容所に連れてこられ、長い時を過ごします。そこは食べ物を満足に得ることもままならず、子どもであっても強制労働を強いられ、見せしめに公開処刑も行われるという、文字通りの生き地獄でした。絵柄が可愛らしくあっても、苦しい生活が生々しく描写されているという点において『火垂るの墓』(88)を連想する方も多いでしょう。



序盤こそ鬱々とした生活描写、良い意味で辛い展開が続きますが、主人公たちはやがて仲間たちを巻き込んで、収容所内である「小さな革命」を起こそうとします。絶望的な状況でも道を失わず、看守たちの裏をかいて「計画」を実行に移そうとする過程には、それこそ『ショーシャンクの空に』(94)のような「脱獄(刑務所)もの」に似たエンターテインメント性もありました。まずは、「面白い映画」を期待しても裏切られることはないでしょう。

2.アニメ映画にたどり着いた理由とは

「なぜ実写ではなくアニメで表現したのか?」と思う方も多いでしょうが、在日コリアン4世である清水ハン栄治監督は、このことに答えています。彼は過去に人権をテーマにプロデュースした偉人伝記マンガシリーズを手掛けており、それは世界15ヶ国語に翻訳され、ダライ・ラマ法皇に認められ亡命チベット子女たちの教科書になったり、オバマ大統領にホワイトハウスで愛読されたこともあったのだとか。

その「マンガで表現することで、想定しえなかった層にまでリーチできる」ことを知ったから、「せっかく物語を伝えるならインパクトを出したい」ということで、清水ハン栄治監督は映画とマンガという強力な表現方法の延長線上にある、アニメ映画という手法ににたどり着いたのだそうです。



3DCGで作られた舞台やキャラクターは一見すると「ローポリゴン」的で、ひと昔前の印象もありますが、泥まみれになるなどの表現のディテール、陰惨で無機質な強制収容所の内情はリアリティがあり、妥協は感じさせません。衝撃的な物語を実写でなく、あえて親しみやすいタッチのアニメ映画にすることで、かえって収容所の生活の過酷さが際立つ、多くの観客が自身を投影しやすくなっていると言えます。

(直接的な描写は避けられているとはいえ)わずかに性的な話題もある、(英語音声/日本語字幕での上映であるため)漢字が十分に読める中学生以上推奨ですが、きっとアニメ好きの若い方からも受け入れられるでしょう。

3.「真実」も描かれている理由とは

『火垂るの墓』と違うのは、『トゥルーノース』が劇中でDVDソフトが登場したりもする、ほぼほぼ現代の話であるということ。今でも12万人以上が強制収容所に収監されているにも関わらず、北朝鮮政府はその存在を否定し続けているという、信じがたい現実があるのです。



『トゥルーノース』の劇中の恐るべき実情は、清水ハン栄治監督による、実際に強制収容所から逃げ出した人々の著書やニュースの徹底的なリサーチ、直接のインタビューに基づくものです。その中には日本人の拉致被害者も収監されていたという証言もあり、劇中で同じ境遇の境遇のキャラクターを登場させていたりもするのです。

物語そのものはフィクションではありますが、間違いなく「真実」も描かれている、日本人にとっても他人事ではない内容と言えるでしょう。

4.タイトルに込められた2つの意味

また、『トゥルーノース』というタイトルには2つの意味が込められています。その1つは英語の慣用句で「絶対的な羅針盤」の意味。もう1つは「ニュースでは報道されない北朝鮮の現実」。映画を見終われば、そのダブルミーニングのタイトルが、より切実なメッセージにつながっていることに気づくでしょう。



人間として進むべき方向や、生きる真の目的を探り続けること、その気高さを讃えたヒューマンドラマとして、この『トゥルーノース』をおすすめします。前述したようにアニメとしての作り込み、エンタメ性も存分にあり、ラストには驚ける「仕掛け」が用意されるサービスもあったりもするので、観賞後の満足度はきっと高いはず。

何より、北朝鮮強制収容所の問題を知るには、最高の教材でもあるでしょう。多くの人に観てほしいと、心から願います。

(文:ヒナタカ)

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