2021年07月03日

塚本晋也×諸星大二郎×沢田研二による伝説のジュヴナイル・ホラー『ヒルコ/妖怪ハンター』まさかのリバイバル!

塚本晋也×諸星大二郎×沢田研二による伝説のジュヴナイル・ホラー『ヒルコ/妖怪ハンター』まさかのリバイバル!


1991年の日本映画界
そして30年後の今


さて、本作が公開された1991年ですが、まだ1980年代の日本映画界の名残りが大いに感じられる時期でもありました。
(この直後にバブルが崩壊し、映画界はもとより日本全体が一気に閉塞化していきます)

以前のジュヴナイルSF特集記事でも記したことではありますが、ハリウッドのSFX大作が世界中の映画館を席捲していた1980年代の中、日本映画界はその手のジャンルがなかなか上手く企画が転がっていかず、特撮を駆使したものに関してはせっかく『ゴジラ』(84)が復活してもその続編『ゴジラVSビオランテ』(89)まで5年の月日がかかり、その間の『首都消失』(87)『竹取物語』(87)といった特撮大作も出来に関してはムムム……といった忸怩たる状況が続いていました。

関連記事:【知恵と工夫】特撮が無くとも面白いSF/ファンタジー映画は作れる!|『Arc アーク』『夏への扉ーキミのいる未来へー』『夢幻紳士 人形地獄』『星空のむこうの国』etc…

一方、80年代はビデオ・デッキの普及に伴って国の内外を問わず空前のビデオ・ブームとなり、劇場未公開の映画が多数ビデオでお目見えするといった事態が到来していくのですが、中でも人気を博したのがホラー作品でした。



特撮SFみたいに大掛かりな予算やスターを無理に必要としない(もちろん題材にもよりますが)ホラー映画の存在は、当時の自主映画界の若き騎手たちやインディペンデント資本の創作意欲を大いに刺激し、徐々にそういった作品群が作られるようになっていきます。

池田敏春監督『死霊の罠』(88)、高橋伴明監督『DOOR』(88)、金田龍監督『満月のくちづけ』(89)、飯田譲治監督『バトルヒーター』(89)、井筒和幸&高橋伴明&黒沢清監督『危ない話 夢幻物語』(89・オムニバス)……(こういった風潮の中、メジャーも『帝都物語』88、『ゴジラVSビオランテ』『スウィートホーム』89『帝都大戦』89『ウルトラQザ・ムービー 星の伝説』90などの特撮大作を製作するようになっていきます)。

オリジナルビデオでは『ギニーピッグ』シリーズ(85~91)が社会問題になったり、石井てるよし監督『邪願霊』(89)、鶴田法男監督『ほんとにあった怖い話』3部作(91~92)などの意欲作がその後のジャンル旗手たちに多大な影響を与えました。

同時期、1985年に始まる東京国際ファンタスティック映画祭がそういった国内外のジャンル映画を大いに後押ししていくことで、80年代後半から90年代前半にかけてのホラー映画シーンはかなりマニアックに盛り上がっていきます。

『鉄男』にしても、作品を見た当時の東京ファンタ・プロデューサー小松沢陽一が海外の映画祭に推薦したことも世界的評価のきっかけになったのでした。

こうした時代の流れの中、続く『ヒルコ/妖怪ハンター』にしても、ホラー要素のみならず1980年代ジュヴナイル映画の要素まで過不足なく継承されています。

また『太陽を盗んだ男』(79)以降『魔界転生』(81)『ときめきに死す』(84)『カポネ大いに泣く』(85)『リボルバー』(88)など80年代日本映画の「顔」でもあった沢田研二の新境地として、本作は大いに評価されました。
(ちなみに本作や『夢二』などが公開された91年の後、99年の『大阪物語』まで彼の映画出演は途絶えます。理由はいろいろあるにせよ、これもまた時代の閉塞感を物語っているかのようです)

さらには本作で、一度見たら夢に出てきそうな強烈なインパクトをもたらす竹中直人ですが、80年代はありとあらゆる映画に出演しまくりながら映画への偏愛を募らせていき、ついには本作の後で初監督作品『無能の人』(91)を発表し、こちらも世界的な評価を得ることになるのでした。

そして30年後、レストア&リマスターされた『ヒルコ/妖怪ハンター』が7月9日より東京・テアトル新宿を皮切りに全国順次公開!

7月21日にはBlu-rayも発売されますが、劇場での鑑賞が叶う環境にある方でしたら、まずは銀幕でご覧になることをお勧めいたします)

久々に見直すと、今は亡きベテラン室田日出男はもとより、光石研や余貴美子、大谷亮介といった面々が出ていたことにも驚かされます。



生徒役で出演していた10代の俳優たちも、今では大人になり、おそらくは本作の中学生くらいの子どもがいるかもしれません。

30年の月日を経て映像技術的には格段の進化を遂げた映像業界ですが、伝承伝奇の恐怖と真夏の思春期とが郷愁と初々しさを以って描かれる本作のような作品は奇跡的かもしれません。
(しかも原作とは別物ながらも、確実に「何か」が同じであるという至福感!)

リアルタイムで『ヒルコ/妖怪ハンター』と接した世代として、久々の再見は当然ながらに感無量で、同時にこれから初めて本作に接する(ある意味幸運な!)映画ファンにとっても、これからの映画の矛先を占うヒントの鍵を見つけ出すことが出来るかもしれないという意味においても、是非見ていただきたい逸品なのでありました。

(文:増當竜也)

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