『天気の子』の深すぎる「10」の盲点


新海誠監督最新作『天気の子』は、“観るたびに新しい発見がある映画”です。それは細部まで描き込まれた背景や、アニメとしての表現それぞれに、様々な“意味”が込められていることが理由でしょう。加えて、登場人物の何気ないセリフや、その内面を考えてみると、さらなる“気づき”もたっぷりと用意されているのです。

事実、新海誠監督は『天気の子』の小説版のあとがきにて、映画というメディアにおける(小説とは異なる)表現方法について、こう記しています。「映画の台詞は基本的に短ければ短いほど優れている(と僕は思ってる)。それは単なる文章ではなく、映像の表情と色、声の感情とリズム、さらには効果音と音楽等々の膨大な情報が上乗せされて完成形となるからだ」と。

実際の映画本編でも、アニメならではの表現を最大限に生かした情報がとことん詰め込まれている一方で、セリフやナレーションは“説明しすぎない”程度に抑えられており、そこには(文章では表現できない)音楽の魅力や声の出演者たちの熱演もあるのです。だからこそ、『天気の子』は1つ1つのシーンそれぞれに「これはこういうことなんだろう」と深読みができる、登場人物のそれぞれの気持ちを考えてみるとさらなる感動がある、重層的な物語構造も持った豊かな作品になったのでしょう。

ここでは、『天気の子』を1度観ただけでは気づきにくい、もっと本編を面白く観ることができる“盲点”を項目ごとに分けて紹介します。なお、項目2.までは大きなネタバレを避けて書いていますが、それ以降は物語の核心に触れるネタバレに触れているのでご注意を!

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※この記事における解釈は、映画本編の他、小説版やパンフレットの記述、筆者個人の主観を元に構成しております。参考としつつ、観た方がそれぞれの解釈を見つけていただけたら幸いです。

1:帆高の家出の理由が描かれていない理由とは?
そのキャラクター性を肯定したい理由とは?



主人公である帆高の家出の理由は、最後まで描かれることはありません。これは新海誠監督の「トラウマで駆動される物語にはしたくない」「内省する話でなく、憧れのまま走り始め、そのままずっと遠い所まで駆け抜けていくような少年少女を描きたかった」という意向によるもので、終盤で提示される“願い”を強固にするためにも重要であったのでしょう。

しかし、明確でなかったとしても、帆高の過去を“それとなく”匂わせる描写は映画本編にあります。例えば、序盤の彼は頰と鼻にバンソウコウを貼っていて、漫画喫茶で過ごしていくうちに剥がしています。実は、小説版では帆高が「親父に殴られた」という記述があるのです。映画でのバンソウコウは、その殴られた時の傷を治すためのものだったのでしょう。

さらに、映画でも小説版でも、帆高は「もともと住んでいた島で、雨雲から漏れる光を目指して自転車をめちゃくちゃ漕いでいた(そこにはたどり着けなかった)」という“夢”を見ているシーンがあります。帆高は雨の降りしきる閉鎖的な島から抜け出し、希望の象徴とも言っていい“光”の中に行きたいと(ヒロインの陽菜と同様に)願っていた──まさに新海誠監督の狙い通りの「憧れのまま走り始め、そのままずっと遠い所まで駆け抜けていく」ことを目指す少年の純然たる想いが、この夢のシーンだけでも伝わるようになっているのです。

そんな帆高は、後に反社会的な行動を繰り返してしまいます。しかしながら、彼は序盤でお酒を並べられ乾杯を促されても「未成年だから」とジュースを自ら選び取っていて、終盤でもバイクで二人乗りをする時にヘルメットを(あごひもは忘れていますが)ちゃんと被っています。須賀にはご飯を奢って恩を返していますし、後にアメと名付ける迷子の猫にも栄養機能食品をあげています。彼は客観的に見れば正しくない、はっきり犯罪と言える行動をしているようで、根っこでは最低限の社会性もあったのでしょう。しかし、終盤で提示されたあの“価値観”による決断は、彼を社会的に正しいままにはさせなかったのです。

この帆高の“間違った行動をし続けてしまう”というキャラクター性そのものに、必要以上にイライラしてしまったり、拒否反応を覚えてしまう方もいるかもしれません。しかしながら、新海誠監督が目指した“憧れ”を体現し、本質的には正しく社会的でもあろうとした片鱗も見える、豊かなキャラクターとして、筆者は帆高を大好きになれました。その過去を明確に描かなかったことも、観客それぞれの経験や過去を彼に投影しやすくなりという点でもプラスであったと、肯定したいです。

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(C)2019「天気の子」製作委員会

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