俳優・映画人コラム

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2021年08月18日

俳優・野田洋次郎の魅力:“圧倒的表現者”としての姿を紐解く

俳優・野田洋次郎の魅力:“圧倒的表現者”としての姿を紐解く


衝撃の俳優デビュー作『トイレのピエタ』


(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

『キネマの神様』を観てすっかり野田洋次郎に魅了されたわたしは、同日の夜にNetflixで『トイレのピエタ』(15)を鑑賞した。

『キネマの神様』とは打って変わって、宏は当初のイメージに近い野田洋次郎。そして、俳優デビュー作とは思えない演技力。本作で第39回日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞している。

夢を諦めて惰性で日々を過ごしている宏の、景色に色がない感じや突如訪れる恐怖から逃れたい一心で強がる姿など、表情が豊かなわけではないのに細部まで感情が伝わってくる。偽物ではなく本当に感じているからこそ漏れ出る雰囲気の力強さが、彼にはある。



本作の主題歌である「ピクニック」は、彼が本作のために書き下ろした一曲となっている。こちらも映画の登場人物の関係性を濃く反映させた歌詞になっていて、まるで「トイレのピエタ」という映画がそのまま凝縮された楽曲と言っても過言ではない。

ハッピーエンドではない本作品だが、宏の人生の締めくくり方としては100点だったように思う。また、野田洋次郎はもちろんのこと、杉咲花やリリー・フランキーなどのキャストも個人的に最高だ。じめっとした夏の夜のお供にぜひ。



『トイレのピエタ』あらすじ

「今一緒に死んじゃおっか?」余命3ヵ月と告げられた宏(野田洋次郎)は、出会ったばかりの女子高生・真衣(杉咲花)から、そう誘われる。バイクの後ろに彼女を乗せてスピードを上げるが、そのまま死ぬことはできなかった。画家への夢を諦めてフリーター生活を送っていた宏にとって、ただやり過ごすだけだったこの夏。それが人生最期の夏に変わってしまった時、立ちはだかるように現れた真衣。「あのさ、背の低い子とキスする時はどうするの?」純粋な真衣に翻弄されながらも、二人は互いの素性も知らないまま、反発しながらも惹かれ合っていく。

圧倒的表現者・野田洋次郎の計り知れない底力


(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

小林稔侍氏のコメントにもあったが、彼の演技は生っぽい。映像の中の登場人物なのに「そこらへんに実在していそう」なのだ。お芝居をしているという感じが一切ない。だからこそ見ている側も感情移入をしやすい。

なぜそのような演技ができるのか。それは、彼は単なるシンガーソングライターではなく、”圧倒的表現者”だからなのではないかと思う。歌を通して数多くのアウトプットをしてきた延長線上に演技という表現があるだけで、彼としてはおそらく自然にやってきたことなのだ。

シンガーソングライターとしての魅力しか知らない方はぜひ、俳優としての野田洋次郎も知ってもらいたい。そしてこれからも野田洋次郎のさまざまな表現を追いかけていきたいと思う。

→野田洋次郎『キネマの神様』『トイレのピエタ』画像ギャラリーへ

(文:桐本絵梨花)

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