2021年08月26日

『ホロコーストの罪人』レビュー:ユダヤ人虐殺に加担したノルウェーの罪を今訴えることの勇気と意義

『ホロコーストの罪人』レビュー:ユダヤ人虐殺に加担したノルウェーの罪を今訴えることの勇気と意義



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

最近この枠で幾度も採り上げては同じことを描いているようでもありますが、ナチスによるユダヤ人虐殺のホロコーストをめぐる映画がこのところ驚くほど多く製作されては、日本でも上映されています。

どこかしら現在、世界的にファシズムなどの脅威再来の危惧感などが広まってきている証なのかもしれませんが、本作『ホロコーストの罪人』はノルウェーに住むユダヤ人たちがアウシュビッツ収容所へ強制移送&虐殺されるさまを描いたもので、そこに加担したのが当時のナチスに従うノルウェーという国そのものであり、一般市民であったという事実をも露にしていきます。



『ヒトラーに屈しなかった国王』(16)でも描かれている通り、1940年4月のナチス侵攻に際してノルウェー国王ホーコン7世は激しく抵抗するも、まもなくしてイギリスに亡命。

この後ノルウェーはナチスに支配され、一般市民の間にも徐々に反ユダヤ主義が蔓延していき、1942年11月26日、国内のユダヤ人がオスロ号に乗せられ強制移送される際、多くのノルウェー市民がこれに無意識なまま協力していくのでした。

映画そのものは、かつて日本でも大いに話題となったTVミニ・シリーズ「ホロコースト 戦争と家族」(78)を彷彿させるような形で、ユダヤ人の夫チャールズ(ヤーコブ・オフテブロ)とノルウェー人の妻ラグンヒル(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)、その親や兄弟といったブラウデ家の人々の過酷な運命をメインに描いていきます(原作はノンフィクション小説)。



最初は男性ばかりがベルグ収容所に集められますが、そこで彼らを虐待するのはドイツ軍人ではなく、ナチスに志願したノルウェー人たちというのが衝撃的。

そう、この映画、実はドイツ人はほとんど登場せず、ノルウェー人がノルウェー系ユダヤ人を迫害していくのです。

そこに罪の意識を感じる者もいれば、何ら感じていない者もいます。

つい先日までご近所さんだった関係性が、気がつくと差別する側とされる側へ分かれていくヘイトの恐怖を訴える勇気と意義は、混迷する今の時代にこそ痛切なメッセージを放ち得ていると言ってもいいでしょう。



その伝では本作は収容所内の虐待描写もさながら、映画の後半、家族の母サラ(ピーヤ・ハルヴォルセン)が警察に連行されてオスロ港へ赴くまでの、淡々とした描写が強烈な印象をもたらしてくれます。

ユダヤ人を乗せた船ということでは、スチュアート・ローゼンバーグ監督によるオールスター・キャストの名作『さすらいの航海』(76)を一瞬思い浮かべたりもしましたが、あちらは自分たちを受け入れてくれる国を求めて大西洋上をさまよう航海、こちらは既に死への船出が決められている航海といった違いはあるのでした。

監督は日本のアニメに憧れる少女を描いた『HARAJUKU』(日本ではトーキョーノーザンライツフェスティバル2020で上映)のエイリーク・スヴェンソン。

本作はノルウェーでの公開時、自国の罪を描いたということで賛否を巻き起こしたとのことですが、そういった野心作を齢40にも満たない若さで堂々と発表し得たことにも感服してしまうのでした。

(文:増當竜也)

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