2021年10月07日

『人と仕事』レビュー:志尊淳&有村架純が探る、コロナ禍の日本で「仕事」する人々の現実

『人と仕事』レビュー:志尊淳&有村架純が探る、コロナ禍の日本で「仕事」する人々の現実



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

志尊淳と有村架純をメインに、2020年9月から2021年4月までの日本で働くエッセンシャルワーカーの人々を取材&撮影しつつ、およそ1年のコロナ禍の流れを追ったドキュメンタリー映画。



もともとはこのふたりを主演にした森ガキ侑大監督の劇映画『保育士T』を2020年6月にクランクインする予定だったのが、最初の緊急事態宣言(2020年4月7日)発出の影響をモロに受けて、制作そのものを断念。

しかし河村光庸プロデューサーはこの監督と主演コンビをそのまま起用して、新型コロナ・ウイルスで打ちひしがれた今の日本を描出するドキュメンタリー映画へ企画をシフトさせたのでした。

これまで取材される側だったふたりの若手実力派スターが取材する側に回ることの戸惑いなども露にしつつ、そもそも自分たちが演じるはずだった保育士はもとより、介護福祉士、農家の人々などを取材。



さらには対象を夜の世界で働く人々(このあたりの発言の数々も衝撃的)やホームレス、シングルマザー、児童相談所や児童養護施設などにまで広げていきながら、コロナという未曽有の事態と対峙していく中での現代日本の脆さ、しかしそういった厳しい状況の中で不安を抱えながらも真摯に生きる人々の叡智などが描かれていきます。



制作のスターサンズはこれまで劇映画『新聞記者』(19)やドキュメンタリー映画『パンケーキを毒見する』(21)など、常に社会を厳しく見据えた骨太の作品を連打してきていますが、今回の作品は単に現政権批判などではなく、事態が延々と長引いていくことでの人心の不安が差別意識も含めた断線、ついには空虚な域へと導かれていく危惧みたいなものにスポットを当てつつ、それでも人はどう生きていくべきかを、説教臭さを一切廃して示唆していきます。

そこにはやはり柔和な個性を備えた志尊淳&有村架純という、素敵なふたりの存在も大きいでしょう。



実際、東日本大震災のときは多数のドキュメンタリー映画が作られたのに対して、コロナ禍を題材にしたものはなかなか映画では出てきません。

それには映像でウイルスという目に見えない存在をモチーフにすることの難しさや、またそれゆえの戸惑いや不安なども影響しているように思えますが、だからこそ、このふたりの聡明な優しさあふれる存在感がこの作品を前向きなものにすることに大きく貢献しているのは間違いありません。

特に映画の後半、このふたりが取材後に語り合っていくあたりも、今の時代を生きる若者ならではのリアリティがあふれていました。



ただ、この作品の撮影を終えて完成するまでの間、東京五輪の時期に相応しながら感染者数が東京都で5000人を越える異常事態にまで陥ったかと思うと、その後一気に減少していき、2021年10月1日から緊急事態宣言が解除されるなど、世の中はさらにめまぐるしく変動しています。

もちろん今後もどう変わっていくか予断は許されない現在進行形のこの非常事態、ぜひ本作をご覧になることで、それぞれの今後の意識みたいなものを培っていただければ幸いです。



あ、主題歌は吉田美奈子です!

(文:増當竜也)

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(C)2021『人と仕事』製作委員会

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