『MINAMATA―ミナマタ―』レビュー:水俣病の存在を世界に伝えたカメラマンとその妻の素晴らしき人間讃歌!



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

最初に申しておきますと、これは素晴らしい映画です。

水俣病の存在を1冊の写真集をもって世界に訴えたウィリアム・ユージン・スミスの行動を描いた作品ということで、社会派意識の強いものを想像される向きもあることでしょうが、本作はそれ以上に慈愛溢れる人間讃歌として見事なまでに昇華されており、それはユージン・スミスが実際に撮った写真の数々から窺える慈愛そのものの映画的描出に他なりません。



こういった企画が成し遂げられるアメリカ映画界、およびプロデューサーとしても名を連ねるジョニー・デップの熱意にも感嘆する一方で、水俣病と同じような問題が世界各地で昔も今も起こり続けていることまでも巧みに訴えるワールドワイドな視線が貫かれていることも、この作品の大きな美徳のひとつでしょう。



水俣での撮影はわずかで、実はセルビアやモンテネグロで大半が撮影されているという事実にも驚かされますが、そのことも含めて日本人の目線からしても、日本を舞台にした海外映画でここまで違和感のないものも珍しく、少なくともフジヤマゲイシャ的エキゾチックな観点はほとんど見受けられません。



そこには真田広之や浅野忠信、國村隼、加瀬亮など国際的に活躍する日本人俳優が多数出演しているのも功を奏していると思われますが、やはり特筆しておきたいのはユージンの最高のパートナーとなるアイリーンを演じた美波で、彼女の存在がこの作品の日米のバランスを対等に保ち得た大きな要因になり得ているといっても過言ではないでしょう。

アメリカ側のキャストでは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでジョニー・デップ扮するジャック・スパロウと敵対していたディヴィ・ジョーンズ役のビル・ナンが、今回ユージンのもっとも良き理解者として登場するあたりも、単純に映画ファンとして喜ばしい限り。



作品の趣旨に賛同して構築されたと思しき坂本龍一の、美しくもストイックな音楽の調べも印象的。

いずれにしましてもこういった社会派的題材の映画ですから、当然さまざまなメッセージを受け止められることでしょうが、それらを成し得るために本作がエンタテインメント性をもって真摯に、そして非常に面白く作られた「映画」として屹立していることに、最大級の賛辞を惜しみなく捧げたい次第です。



(文:増當竜也)

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