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『殺人鬼から逃げる夜』レビュー:聴覚障害者が殺人鬼に狙われる!音のない悪夢のサスペンス映画の秀作!



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」 
 
視覚障害者が犯罪に巻き込まれるサスペンス映画だと、古くはオードリー・ヘプバーン主演の『暗くなるまで待って』(67)が有名で、最近でも『見えない目撃者』として中国(15)と日本(19)でリメイクもされた韓国映画『ブラインド』(14)などがあったりしますが、本作は聴覚障害者が主人公という、いわゆる音のない世界が設定されています。

聴覚障害をモチーフにした映画そのものは数多く、サスペンスものでもコメディの『見ざる聞かざる目撃者』(89)や、不気味な養女の凶行に難聴者の義妹が巻き込まれていく『エスター』(09)、実際に起きた聴覚障害者校内での性的虐待事件を題材にした『トガニ 幼き瞳の告発』(11/こちらも韓国映画)あたりを思い浮かべますが、視覚障害者のものと比べるとそう多くなく、その意味でも映画的に興味深い挑戦的な作品といっても過言ではないでしょう。



劇中、幾度も全くの無音状態が出てきてはヒロイン、ギョンミ(チン・ギジュ)の日常が巧みに描出されており、見る側もほんの少しではあれ彼女が生きる世界を窺い知ることができます。

そんな音のない世界で、彼女は猟奇殺人鬼(ウィ・ハジュン)に出会ってしまいます。

殺人鬼の素顔は冒頭から堂々明かされるという「刑事コロンボ」シリーズさながらの設定ゆえに、あとはヒロインがいかにして危機から逃れるかが映画の焦点になっていくわけですが、まずはそこに至るまでのサスペンスの盛り上げが巧みで、また本筋に突入してからの展開は一気呵成に次から次へと、よくもまあ考えつくこと!

よくよく考えてみれば手話や唇の動きで会話を成す行為が、画でドラマを語ることを原点とする映画と相性が良いのは道理でもあり、また本作はヒロインの耳が聞こえないことを意識した音の演出も多々なされているので、映画への没入感もハンパではありません。

障害者そのものに対する巷の偏見的目線が彼女を更なる危機に陥らせていくあたりも秀逸で、エンタテインメントを通しての社会への訴求まで具現化できている点でも本作の姿勢はお見事という他ないでしょう。



とまれこうまれ、視覚障害者サスペンス映画の秀作『ブラインド』を発表した韓国映画界が、今度は聴覚障害者をヒロインに放った『殺人鬼から逃げる夜』、彼女と殺人鬼が邂逅してからはもう一瞬の緩みもありません。

そんな悪夢の緊迫感の中、大いに救われるのはやはりギョンミを演じるチン・ギジュの陽性の魅力でしょう。

いかにも韓国のお母ちゃんといったヒロインの母役キル・ヘヨン、麒麟・川島を若く怖くしたかのような(?)不気味な笑顔が映える殺人鬼役のウィ・ハジュンなども含め、キャスティングもまた映画を左右する重要な要素であることを改めて納得させられます。

それにしても韓国映画、一体いつまでこの快進撃を続けるのか、監督のクォン・オスンはこれが長編デビュー作と知るに、映画さながらに驚愕の度は増すばかりなのでした!
 
(文:増當竜也) 

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