「青天を衝け」明治政府編、感想・解説集|第29話から〜<ネタバレあり>
第31話「栄一、最後の変身」感想・解説集
第31話のあらすじ
栄一(吉沢 亮)たちは、日本で初めてとなる銀行づくりに乗り出した。さっそく、豪商の小野組、三井組に協力を依頼するも難航。民間の合同によって銀行をつくりたい栄一と、独自に銀行をつくりたい三井は対立し、三野村利左衛門(イッセー尾形)と熾烈(しれつ)な駆け引きを繰り広げる。そのころ、富岡製糸場の操業を始めたい惇忠(田辺誠一)は、工女が集まらないことに悩んでいた。西洋式への誤解から、「生き血を取られる」とうわさが立っていたのだ。誤解を解かねばならない。惇忠は、娘のゆう(畑 芽育)に伝習工女になってほしいと頼み込む。
第31話の感想
これまで数々の”変身”を遂げてきた栄一。31話では、そんな栄一の”最後の変身”が描かれる。
お役人・栄一の偉業として「銀行設立」と「富岡製糸場設立」をメインに描かれた今話。「商人の力をもっと大きくするために銀行をつくる」と動き出した栄一は、小野組と三井組に声をかけ、合同で銀行作りに協力してくれるよう頼むことに。
お互いに仲の悪い双方は最初こそ渋ったものの、「こんなことで仲違いしているなら、どちらにも大事なことは任せられない。即刻、官金(政府の金)を返すように」と栄一に申し付けられると、三井組・小野組ともに合同での銀行設立を承諾した(ちなみに、三井組はその後独自で銀行を設立。現在の三井住友銀行の前身となっている)。
牢から無事に釈放され、栄一のツテで大蔵省での仕事をしていた喜作は、栄一の手腕を目撃し複雑な表情である。
上手くやり込められた三井組が、栄一に苦言を呈する場面も。上から下の者を押し込めるようなやり方に、「栄一さんもお役人ですな」「私たち商人は、お上の顔色を伺うのみ」「徳川の世と変わりませんな」と……。
これを聞き、若い頃の苦い思いを蘇らせる栄一。役人だからといって居丈高に振る舞う上の者たちに対し、誰よりも憤ったのは栄一だったはずだ。そんな世を変えたいと奮起したからこそ、今、ここにいるはずなのに。
この時に抱いた思いは、今話の終盤において自宅を訪ねてきた西郷隆盛や、お千代に対しても吐露している。「高いところから物を言うだけの己は、心地が悪い」と。西郷は「後悔はするな」と呼びかけ、お千代はただ優しく微笑んだ。
それにしても、お千代は忍耐強い人だ。栄一が大阪で妾(くに)を取ったと知っても黙って耐え、妊娠していることがわかっても「お前様の子です、ともに暮らし、育てましょう」と受け入れて見せた。その後、深くため息をつく彼女の様子が描かれたが、史実においてもお千代は同じ選択をしている。彼女あってこそ、栄一は多くの偉業を成し遂げられたに違いない。
栄一が行った仕事のひとつである「富岡製糸場の設立」にも触れよう。
「生き血を抜かれるかもしれない」などの不穏な噂が広まり、ひとりも工女が集まらずに苦心していた製系場。惇忠が娘の”ゆう”に「伝習工女になってくれないか」と頼んだことで、ようやく人が集まるようになった。翌年には500人もの工女によって駆動する工場となり、女性の社会進出の先駆けとして知られることになる。
栄一は決して品行方正に生きてきた人ではない。しかし、今の日本がしっかり経済をまわしながら自立できているのは(果たして日本は”自立”しているのか、といった観点には疑問を抱かれる方もいるだろうが)、確実に彼の偉業あってこそだろう。
「やはり俺の道は、官ではない」
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これが、栄一の最後の変身だ。一人の百姓として、商人として、民として生きようとする彼の視界には、いったい何が見えているのだろう。次回もともに見届けたい。
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