「青天を衝け」静岡編、感想・解説集|第26話から〜<ネタバレあり>
大河ドラマ「青天を衝け」は、第26話より静岡編へと突入。東京2020の休止期間も明け、ここから一気に年末クライマックスへ。
本記事では第26話以降の感想と解説をcinemas PLUSライターが記していく。
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第26話「篤太夫、再会する」感想・解説集
第26話のあらすじ
久々に故郷・血洗島に戻った篤太夫(吉沢 亮)は、千代(橋本 愛)、父・市郎右衛門(小林 薫)、母・ゑい(和久井映見)らと再会を喜びあうが、尾高家に起こった悲しい出来事を知って大きな衝撃を受ける。その後、昭武(板垣李光人)から預かった書状を届けるため、慶喜(草彅 剛)が謹慎している駿府に向かう篤太夫。駿府藩の中老・大久保一翁(木場勝己)にパリでの収支を報告し、慶喜との謁見を願い出るが…。第26話の感想
栄一が血洗島へ帰ってきた。かつて栄一が志を持ってこの地を出発したあの日から、あらゆることが変わった。政治情勢の転換、平九郎や長七郎の死ーー何をし、何者になるかもわからなくなった状態で再び故郷の地を踏むのは、栄一自身もたまらない思いだっただろう。
いつかの手紙で「ざんぎり頭はみっともない」と苦言を呈したお千代。対面した栄一に「みっともないか?」と問われ「いいえ」「お帰りなさいまし」とだけ答えた。言葉少ないやりとりだけれど、どれだけの感情が互いに渦巻いているか、表情を見ただけでわかる。
栄一は、血洗島に帰ってきてからというもの喋り通しだ。都会やパリでどんなものを見聞きしたか、ひっきりなしに地元の仲間や家族に語って聞かせる。あえて明るく振る舞うのは、拭い去れない罪悪感のようなものを振り払いたいからか。「平九郎さんを見立てにしなければ、今頃この村で普通に暮らしていた」と泣いた、ていに対する栄一なりの罪滅ぼしか。
平九郎の死に対し、それぞれが言葉にできない思いを抱えている。感情は収まることなく、強まっては引き、それを繰り返すだろう。
「栄一さんの代わりに忠義を尽くすのですよ」と彼に伝えたことを悔いるお千代。主人をなくし、何をするかも何者になるかも道がわからなくなった栄一。何も理解できないけれど明るく笑顔は絶やさない、うた。未来のことは見えないけれど、道が定まればすぐに三人で暮らそうと栄一は言った。離れていたことが過ちだったと認められる栄一は、確かにあの頃とは違う。
この時代、言動に筋が通っていなかったり、行動が矛盾していたりすると非難される風潮は、きっと現代よりも凄まじかったのではないか。栄一のように途中で志や生き方を変える様子は、決して一般的ではなかったに違いない。
実際、再会した淳忠も「戦にも出られず、忠義の道を尽くすこともできず、合わせる顔がない」と栄一に言っていた。それでも、恥を刻んで前に進みたいと言える栄一の姿は、現代の私たちにも響くものがある。
何度間違えても、何度失敗してもいいのかもしれない。過ちを怖がり前に進めないよりは、醜くても一歩一歩前へ行くのだ。これまで描かれてきた栄一の数々の選択、そしてこれからの生き様が、それを教えてくれるだろう。
第27話「篤太夫、駿府で励む」感想・解説集
第27話のあらすじ
篤太夫(吉沢 亮)は、駿府藩の勘定組頭を命じられるが、水戸にいる昭武(板垣李光人)のことを思って辞退する。しかし、この命が慶喜(草彅 剛)の配慮であることを大久保一翁(木場勝己)から聞かされ、駿府に残る決断をする。篤太夫はパリで学んだ知識を生かし、武士と商人が力を合わせて商いを営む「商法会所」を設立。駿府藩の財政改革に乗り出す。一方、箱館では、成一郎(高良健吾)や土方(町田啓太)らが新政府軍を相手に決死の抵抗を続けていた。第27話の感想
駿府で勘定組頭として新しい道を歩むことになった栄一。
パリで4万両もの利益を出した功績が認められ、「財政難に苦しむ駿府を救ってくれ」と命が下りた。当初は「禄をもらう気はない」「商いか百姓をして穏やかに余生を過ごしたい」と主張していた栄一。しかし、駿府藩からの説得により、商人と武士で手を組んだ「コンパニー」を始めることになる。
現代の会社組織の元となったコンパニー。銀行と商社、双方の特徴を併せ持った組織として機能した。仕入れた物を売ることで利益を出す傍ら、自力で商売を興したい者には貸付をする。
「ひとりひとりの力は小さくてできぬことも、皆の力を合わせることでそれが可能になる」
武士は、商人とともに商いをすることを渋った。刀を捨てられず、髷を切ることもできず、かといってもう戦で力を示す時代でもなくなりつつある。「士農工商」の見方が捨てられず、苦しんだ者も実際に多いだろう(武士が最上・商人が最下の身分制度とされているが、90年代以降の研究により当時は実際に施行されていた制度とは言えない見方もあるようだ)。
それでも、栄一の言うとおり、せめて大変なときくらいは手を組み乗り越えていく選択をしたい。生きるか死ぬかもわからない当時と現代は状況が違うけれど、たとえ苦手とする相手でも手を取り合わなければならないときがある。一時の感情に任せ、自棄になるのは避けたいものだ。
駿府で新しい道を歩み始めた栄一。お千代とうたも駿府へ呼ばれ、晴れて家族3人での暮らしが叶った。新しく暮らす部屋へ踏み入るや否や「小せえ!お蚕さまの部屋よりも小せえ!」と文句を言ううたも可愛い。栄一がパリへ行っている間など、家族で一緒に暮らせる日になるのはいつのことやらと思っていたが、こうやって食卓を囲む栄一・お千代・うたが見られて感慨深い。
時代はいつのときも、少しずつ変化してきた。
現代に生きる私たちにとって、過去を振り返れば明らかに転換点がわかる。当時を生きる栄一たちにとっても、血で血を洗う時代から抜け出ようとしている感覚があっただろう。パリで様々なものを見聞きしてきた経験が生きている。もう、武士だの商人だの身分で争う時代は終わろうとしているのだ。
「ここでは武士も商人もない」
「むしろここでは、商人の皆さんの方が手練れだ」
「武士も商人も良いところを認め合い、ともに働くんです」
商人や百姓の心を忘れなかった栄一だからこそ、「生きる」ために刀を捨て算盤を手にする選択ができた。彼が残した功績を、改めて思い返す回だった。
第28話「篤太夫、駿府で励む」感想・解説集
第28話のあらすじ
新政府から大蔵省への出仕を求められた篤太夫(吉沢 亮)は、直接断るため東京へ向かう。篤太夫は、伊藤博文(山崎育三郎)の案内で大隈重信(大倉孝二)を訪ね、早速辞任を申し出るが、大隈は“なぜ今新政府に、君が必要なのか”と立て続けに話し、篤太夫は完全に言い負かされる。一方、慶喜(草彅 剛)は、ようやく謹慎を解かれ宝台院を出た。慶喜は、「自分のことは忘れて日本のために尽くせ」と篤太夫に最後の命を下す。第28話の感想
明治新政府への出仕を命じられた栄一。静岡・駿府での勤めがあると主張し、ギリギリまで断るつもりで江戸へ向かったものの、大隈重信(演:大倉孝二)にすっかり言いくるめられてしまった。大隈としても、なんとか貴重な才能を新政府へ迎え入れようと必死なのが伝わってくる。次から次へと「よか!」「ばってん!」などと九州弁が飛び出し、栄一も圧倒されてしまった。
「君は新しい世ば、作りたいと思ったことはなかか?」
懸命に商いをし稼いだ金を無常にお上へ取られた幼き頃、横浜焼き討ちを計画した夜、一橋家へ仕える決心をした日、日本を離れパリへ向かうと決めたことーーこれまでの栄一の行動はすべて、どうにかして日本を変えようとしてきた結果だった。
「新しい世を作る場に、立ってほしいのであーる!」
そんな栄一に、大隈の言葉が響かないわけはない。いつだってこの世を変えたいと思って生きてきた男なのだから。
大隈に言い負かされ、意気消沈でいったん静岡へ戻った栄一。すぐに荷物をまとめ、家族とともに江戸へ向かわなければならない。「何をやっても行き止まりだ、俺の人生」と落ち込む栄一に対し、お千代が投げかけた言葉が良かった。
「そうやってお蚕様みたいに脱皮しながら、よくぞ生き残ってくれました」
進もうとする道にはいつも壁がある。そう弱音を吐く栄一に対し、それを「脱皮」と表現するお千代の前向きさ。何年も夫と離れ、商いを手伝い、子を育ててきた胆力は並のものではない。距離は離れていても、またこうやってともに生きる選択ができるのは、いつだって互いのことを思っていたからなのだろう。
かつて仕えた慶喜からも、直々に命が下った。「行きたいと思っているのだろう。これが最後の命だ」と淡々と伝える慶喜の背中にグッときた。
改めて、名を「篤太夫」から「栄一」へ戻す。明治新政府での新たな活躍が幕を開ける。
第29話「栄一、改正する」感想・解説集
第29話あらすじ
明治政府に出仕した栄一(吉沢 亮)は、各省の垣根を超えた特命チーム“改正掛(かいせいがかり)”を立ち上げ、杉浦 譲(志尊 淳)や前島 密(三浦誠己)を静岡から呼び寄せる。改正掛は、租税の改正、貨幣や郵便制度の確立など、新たな国づくりのためまい進するが、旧幕臣の活躍を快く思わない一派との対立が生まれてしまう。そんな中、栄一は、久しぶりに惇忠(田辺誠一)と再会する。惇忠は、新政府に平九郎を殺された傷を抱えていた。栄一は、ひそかに温めていた提案を惇忠に切り出す。
第29話感想
放送後に追記いたします。
(文:北村有)
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