韓国版『ジョゼと虎と魚たち』が繊細かつ大胆な最高峰のリメイクになった理由
2020年・韓国版
今回の韓国版は、キム・ジョングァン監督のリメイクのアプローチそのものが素晴らしい。以下の言葉からも、そのことがわかるだろう。「日本映画『ジョゼ』はこの上なくすばらしい。だが、あの映画が作り上げた道をそのまま辿ることは、私たちの映画を観てくださる観客にとっても、またこのリメイク版に挑戦する私や俳優にとっても、最良の選択ではないと確信していた」
「ロミオやジュリエットがさまざまな顔を持っているように、それぞれの俳優に備わっている質感が映画の登場人物と相まみえた時、そこに個性と生命力が生まれる。創作活動を行う者たちが物語の価値を理解し、その中で彼ら自身の個性がにじみ出てきた時にこそ、原作を傷つけることなくすばらしい作品を生み出せるのだと私は信じている」
この信念が、韓国版では見事に結実していた。主演のハン・ジミンは繊細な表情や目の動きをもって新たなジョゼ像を体現してみせた。彼女に不器用ながらも惹かれていく誠実な青年を演じたナム・ジュヒョクとの関係性はより「儚い」ものとしても映る。さらに、ロケーションや美術もこだわり抜かれており、季節の移ろいも表現され、特に「冬」の寒々しさも重要になっていた。
例えば、ジョゼと青年の「距離感」が「ストーブをつけるために離れる」というシーンで示されている。前述したように日本の実写映画版では、トイレのシーンでジョゼの「いつか離れてしまうことを恐れている」気持ちが表れているように感じたが、今回は違った形でそれを示しているのだ。その他にも、現代ならではの「スマートフォンでストリートビューを見る」シーンも物語に生かされていた。
また、日本の実写映画版にいた、ジョゼが「あんたの母親になってあげる」と宣言している、同じ児童福祉施設で暮らしていた男がこの韓国版でも登場する。だが、彼のキャラクターとジョゼとの関係性には、大きな変更が加えられている。彼の暴力性が抑えられただけでなく、その「過去」にあったことも異なっているのだ。その他にも、青年の就職活動における事情も、日本の実写映画版にはなかった要素が付け加えられている。
そして、この韓国版の最大の変更点は、クライマックスからラストにかけての流れだ。具体的な内容はネタバレになるので秘密にしておくが、最初に掲げた通り「映画でしかできない演出」に鳥肌が総立ちになった、ことは告げておこう。
「遊園地の観覧車に乗る2人」がその後にどうなったか、水溜りに映り込む観覧車がどうなったか……それはラストの展開を雄弁に示唆していた。その後に提示されたのは、日本の実写映画版で示されてなかった、新たな「物語の可能性」であり、猛烈なまでの感動があったのだ。
そのキム・ジョングァン監督は、『ジョゼと虎と魚たち』の原作小説と日本の実写映画版の共通点、そして自身が手がける創作物に必ず盛り込もうと努めていたことについて、「人間に対する鋭い視線と深い人間愛」であると語っている。それがあってこそ、キャラクターの関係性や心理を大切にする、誠実な作品が生まれたのだろう。
キム・ジョングァン監督が本作の脚本の執筆にかけた時間は、丸一年だったそうだ。彼がどれほどの熟考を重ねてこの物語を作り上げたのか、想像もつかない。だが、間違いなく言えるのは、やはり本作が大胆な変更を加えながらも、元の作品に対する多大な愛情を捧げた、やはり理想的にして最高峰のリメイクということだ。上映館は決して多くはないが、ぜひ劇場で新たな『ジョゼと虎と魚たち』の物語を堪能してほしい。
(文:ヒナタカ)
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