カンヌで大喝采!『光』がもたらす人の愛と優しさ!

■「キネマニア共和国」



(c)「光」製作委員会



今年(第70回)のカンヌ映画祭で、河瀨直美監督の『光』が日本からの唯一のコンペティション部門に出品され、5月23日に現地で公式上映が行われたところ、上映後およそ10分ものスタンディングオベーションが観客から贈られました……。

※現地時間27日、エキュメニカル審査員賞を受賞しました!

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.234》

映画『光』は観客の心の何を照らし、感動をもたらしたのでしょうか?

視覚障碍者向け映画音声ガイド
をモチーフにした愛の映画



『光』は視覚障碍者向けのバリアフリー映画の音声ガイドを制作する仕事に従事る若きヒロイン(水崎綾女)が、モニターとして参加していた視力を失いつつあるカメラマン(永瀬正敏)と出会い、やがて心を通わせていくというストーリーの中から、人との交流を経て初めて気づかされる優しさや温かさ、孤独でいることの寂しさなどを体感させてくれるヒューマン・ラブストーリーであり、光とはそれらすべてをひっくるめた人生そのものの象徴といってもいいのかもしれません。

視覚障碍者向けの映画音声ガイドという仕事に目を向けたのもユニークなところで、河瀨監督は前作『あん』(15)で音声ガイドを作ることになり、そこで人に何かを伝えることの難しさや、それゆえの歓びみたいなものを痛感させられ、それを題材にした作品を作ってみようと思ったのだとか。

河瀨監督作品は一見ストイックなようで、その実何かを常に欲しているかのような、あたかも飢餓的欲求に包まれているかのような画の連なりが、時に魅力的でもあり、時にそうでもないときもあり……といった印象が長らく私の中にはありました。

しかし『あん』のあたりからもっと穏やかな流れに身を任せられるようになっていき、特に今回は映像の光の柔らかさも含めて(本作で初めて映画の撮影監督を務めた写真家・百々新の功績も大)、非常に見やすく、その世界観の中に入り込みやすいものに仕上がっているように思えます。

『あん』に続いて河瀨作品に出演した永瀬正敏の、もしかしたら光をすべて失ってしまうかもしれないという恐怖から、カメラマンという職業のアイデンティティまで失ってしまう男の焦りなどもよく描出されています(今回彼は撮影前から弱視キットをつけて、ほぼ見えない状態の中で生活しながら現場に臨んだとのこと)。



ヒロインを好演する
水崎綾女は要チェック!



一方、ヒロイン美佐子に扮した水崎綾女の好演には、とても驚嘆させられるものがありました。

それまでは、ちょっとエキゾチックな風貌を活かしてエキセントリックな設定の役柄が多かった彼女。テレビドラマ「キューティハニーTHE LIVE」(07)の“青いキューティハニー”や、「特命戦隊ゴーバスターズ」(12~13)の敵役エスケイプなど、映画では実在のカリスマ・キャバ嬢を熱演した主演作『ユダ』(13)や『非金属の夜』(13)でも人の悪意をシンボライズさせた役柄が印象的でした。

またアクションが得意で『赤×ピンク』(14)では激しい地下格闘技に挑戦し、『進撃の巨人』(15)では一転して母性的キャラ、ヒアナを演じ、かと思うと『HK変態仮面アブノーマル・クライシス』(16)ではあっと驚く若き大学のセンセーを艶やかに演じてくれていました。

今年は映画『リライフ』にも出演している水崎綾女ですが、やはり今回の『光』は彼女にとって等身大の若い女性をさわやかに演じ、その普通さの中からトラウマも含めた繊細な心のひだを見え隠れさせていくという、ある意味挑戦的な役柄を通して、大きくステップアップしているように思えます。



(c)「光」製作委員会




河瀨監督の弁によると、本作の美佐子と水崎綾女は、その生い立ちなどが偶然にも似ていて、そこに着目して本来ヒロインの設定を30代にする案もあったのを、彼女の実年齢まで設定を下げたのだそうです。

一方で、美佐子と母の関係性の描出には河瀨監督の境遇なども反映させられているようですが、これまで自身を露にし続けてきた河瀨作品の中でも今回は水崎綾女ならではの、明るさの中にふっと忍ばせる寂しげな憂いなど、従来の河瀨映画のヒロインとは確実に何かが違う印象をもたらしてくれています。実はそこもまた、本作に大いに好感を抱いたところでした。

さて、本作のカンヌの結果はいかに? もっとも、そんなことなど実は関係なく、映画としてただただ純粋に、心地よくも切なく観客が接してくれることを望んでいるような気もしてなりません。

こ観客たるこちらもまた、映画ファンとしての温かな“光”を本作に与えてあげたい所存です。

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(文:増當竜也)

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