(C)2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
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2021年11月11日

〈新作紹介〉『梅切らぬバカ』加賀まりこの全てが”映画”であるとしか言いようのない素晴らしさ

〈新作紹介〉『梅切らぬバカ』加賀まりこの全てが”映画”であるとしか言いようのない素晴らしさ



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

現代における障害者を巡る諸問題の中で、親の高齢化というものがどんどん深刻になってきている事実は、以前もこの欄で貞末麻哉子監督のドキュメンタリー映画『普通に死ぬ~いのちの自立』(20)でご紹介させていただいたことがありましたが、本作の母(加賀まりこ)と自閉症の息子(塚地武雅)もまた、その問題に悩まされ始めています。

「このまま共倒れになっちゃうのかね……」

何気ない母の一言ではありますが、これを加賀まりこの口から発せられることでの不安と、それでもどこかあっけらかんとした陽性の空気感がもうたまりません。



そう、この作品、この母子や地域コミュニテイの近所に住む人々による偏見や蔑視など、現代社会が表に出したがらない問題の数々を露にしていきながらも、決して正義の拳を振りかざすような姿勢で作られてはいません。

そこに新進気鋭の和島香太郎監督の慈愛豊かな目線と、その企画意図に共鳴して出演を決めた名優・加賀まりこの存在感が見事に融合し、ひとりの女優の佇まいの美しさが映画そのものの資質まで決定づけていくという奇跡を目の当たりにすることが出来ます。



とにかく今回、加賀まりこの実に自然な佇まいが“映画”であるとしか言いようのない素晴らしさなのですが、台詞ひとつとっても彼女が発する言葉はすべて人生における何らかのエモーションを喚起させていくあたり、今これを成し得る俳優は古今東西どれだけいることかと天を仰ぎたくなるほどです。

息子役の塚地武雅も、かつて「裸の大将」こと山下清を演じたことのあるキャリアからも予想され得る好演ではありますが、そこに関しても彼の面倒を見続ける(?)母親・加賀まりこの我が子に対する明るく自然な接し方あってこその賜物のように思えてなりません。



やがて、そうした彼女のオーラが発する母子の関係に惹かれながら、ひとりまたひとりと偏見を乗り越えていき、でもまだまだ乗り越えきれない人もいれば、乗り越える気すらない人もいることを、映画は素直に、しかしその上でこの母子の麗しき存在に未来の希望を託していきたいという演出の想いが、観客たるこちら側にもヒシヒシと伝わってくるのでした。

とにもかくにも加賀まりこ!

映画におけるここまで美しい母親の姿を、私は見たことがありません。



今、俳優を目指している人たち、これから目指そうとしている人たちにも、ならばこの映画は必見のテキストであると、力説しておきます。

(文:増當竜也)

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