『聖地X』も話題!入江悠監督の軌跡を辿る
2021年11月19日から公開される『聖地X』は、超常的な世界観で人気の劇団・イキウメの舞台を映画化したもので、そこに足を踏み入れた者は皆常軌を逸し、忽然と姿を消してしまう場所“聖地X”をめぐる異色エクストリーム・ホラー。
主演は岡田将生と川口春奈、そして監督は入江悠が務めています。
インディペンデント映画界の英雄として頭角を現してから早10数年たち、今ではメジャー・シーンに躍り出て、本作のように韓国と組んでの国際的活動にも勤しむようになってきている入江監督。
今回はそんな彼の映画的軌跡を振り返ってみたいと思います。
入江悠監督の原点的シリーズ
『SRサイタマノラッパー』
入江悠監督は1979年11月25日、神奈川県横浜市に生まれ、3歳から19歳まで埼玉県深谷市で育ちました。
日大芸術学部映画学科監督コース在学中に撮った『OBSESSION』(02)『SEVEN DRIVES』(03)がそれぞれゆうばり国際ファンタスティク映画祭オフシアター部門に入選し、2003年に卒業後は『部屋の片隅で、愛をつねる』が第2回うえだ城下町映画祭でグランプリを受賞。
そして2009年、『SRサイタマノラッパー』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009オフシアター・コンペティション部門でグランプリを受賞。
これは入江監督の地元でもあった埼玉県深谷市をモデルにした郊外の街を舞台に、ラッパーを夢見るもなかなか冴えない日々を過ごさざるを得ないIKKU(駒木根隆介)、TOM(水澤紳吾)ら“SHO-GUNG”の面々の鬱屈した日常をオフビート感覚で描いたもの。
同年3月14日に池袋シネマ・ロサで公開されるや、レイトショー初日動員記録を達成する快挙を成し遂げ、その後も国の内外で上映されるごとに話題を集め、2010年には舞台を群馬県に移してアユム(山田真歩)やミッツー(安藤さくら)など地元20代女子の鬱屈を描いた続編『サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』を発表し、こちらも第9回ニューヨーク・アジアン・フィルムフェスティバルや第14回富川国際ファンタスティック映画祭などで招待上映。
そして2011年『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴りやまないっ』を間に挟み、2012年には1作目でIKKUらと別れて東京へ出ていったMIGHTY(奥野瑛太)のその後を描く『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』を発表。
これら3作は[SRサイタマノラッパー北関東三部作]として、今の映画ファンの間で伝説的存在となって久しいものがあります。
さらには2017年、テレビドラマ「SRサイタマノラッパー~マイクの細道」まで登場!こちらは“SHO-GUNG”が東北を旅するロードムービー仕立てとなっていました。
これらはすべて1シーン1カットを基本に撮影されており、音楽映画やPV撮影の仲では極めて珍しい意欲的な手法としても、後進に影響を与えることになりました。
入江監督、メジャー進出!
『日々ロック』
『SRサイタマノラッパー』のブームで一躍注目されることになった入江悠監督が、2014年に榎屋克優の人気漫画を原作にしたロック映画『日々ロック』を手掛け堂々メジャー・シーンへと躍り出ることになりました。
主演は野村周平で、ヒロインには『劇場版神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』の二階堂ふみを起用。
こちらもなかなかうだつのあがらない日々沼拓郎(野村周平)らのインディーズ・バンド「ザ・ロックンロールブラザーズ」の面々と、カリスマ系人気アイドル・宇田川咲(二階堂ふみ)との交流などから、音楽への飽くなき渇望を描いたもの。
冒頭いきなりぶっとんだ導入で、すっぽんぽんの野村周平もさながら、狂暴な二階堂ふみが出色の可愛らしさ。
そのインパクトを保持しながら前半は危なくも快活なロック映画として進んでいきますが、後半は意外にセンチメンタルな方向へ舵を切っていき、若者たちのピュアな想いが強調されてゆくのでした。
劇団イキウメとの出会い
『太陽』
入江監督は『聖地X』以前にも、2016年に劇団イキウメ上演の戯曲『太陽」の映画化を果たしています。
入江監督は原作たる戯曲を記した前川知大とともに映画用に脚色。
バイオテロの影響で夜にしか生きられなくなったもののハイレベルの健康と知能を有することになった新人類「ノクス」と、今なお太陽の下で暮らす貧しい旧人類「キュリオ」とに二分されてしまった21世紀初頭、対立するふたつの世界と二つの人種の確執を通して、生きることとは何かを問いかけていく近未来SF映画の意欲作です。ㇼ
コロナ禍の今を先取りしていたかのような設定の下、なかなかシビアな展開の数々が待ち構えているのには改めて驚かされますが、それ以上に「キュリオ」としての神木隆之介&門脇麦の熱演が大いに光り、このふたりによって暗い現実から明るい未来を示唆していくかが巧みに描かれていました。
韓国映画との繋がり
『22年目の告白―私が犯人です―』
未解決のまま時効を迎えた連続殺人事件の犯人が、突如名乗り出て告白本を出版したことから被害者家族や警察、マスコミなどを巻き込んで国中を揺るがす一大事件へと発展していく……。
2012年の韓国映画『殺人の告白』はこのような省敵的な内容で大きな輪話題を集めましたが、これを2017年に日本でリメイクしたのが『22年目の告白―私が犯人です―』で、その監督に抜擢されたのが入江悠監督でした。
2011年にWOWOWドラマ「同期」や2015年の映画『ジョーカー・ゲーム』などでサスペンスものを手掛けていた入江監督ではありましたが、今回は初の海外作品リメイクということもあって、オリジナルとの比較も覚悟の上での挑戦であったと思われます。
“犯人”を演じる藤原竜也ともドラマ「ブルータスの心臓―完全犯罪殺人リレー」(11)で既に組んでおり、それもあってか、ここでは阿吽の呼吸的な存在感が圧倒的。
特に前半の畳みかけるようなサスペンス展開の妙は、この後彼がサスペンスやスリラーなどのジャンルを多く任されるようになる一因にもなった感がありました。
また、ここでの韓国映画とのつながりも、最新作『聖地X』登板への導きと何らかの関係性があったのかも知れません。
コロナ禍直前に公開された
『AI崩壊』
こちらも近未来SFサスペンス。
2030年の日本を舞台に、突如暴走を始めたAIと、それを阻止しようとする天才科学者(大沢たかお)との攻防を描いた2020年の映画『AI崩壊』です。
この時期、AIが国民の医療情報を含む個人情報を管理しているという設定が採られており、これって今どことなくにたような政策が推進されているような……。
そんな空想を越えたリアリティ溢れる映画独自のオリジナル・ストーリーを入江監督は独自に構築。
彼としてはここでのAIをターミネーターのような脅威的存在にいつでも成り得るものとみなしながら、制作に取り組んでいき、日本映画には珍しいSFポリティカル・サスペンスの意欲作が誕生しました。
惜しむらくは、本作は2020年1月31日に公開されたものの、その直後にコロナ・ウイルスの世界的蔓延が深刻な問題となり、もはや映画どころではない事態にまで突入してしまったことで、本来ならもっとヒットして大きな話題になって然るべき作品でもありました。
今からでも配信なりソフトなりで再評価していただきたい作品でもあります。
(文:増當竜也)
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