<新作レビュー>『スパゲティコード・ラブ』、混沌の東京で13人の男女が複雑に絡み合う群像劇



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

「スパゲティコード」とは、解読困難なほど複雑に絡み合ったプログラミング・コードのことを指す用語とのことですが、本作では現代の東京で生きる13人の若者たちの心の葛藤が描かれていきます。



それぞれのストーリーの多くは独立していますが、およそ1時間36分の上映時間の中でそれぞれがシャッフル感覚で展開されていくことで都会の混沌とした状況を体感しているような気分を醸し出しつつ、そしてオムニバス感など皆無のまま途中で絡み出す者も現れ、かくして最終的には一体どういったオチを迎えるのか……?

そういった期待を持たせてくれるのが全体的にスタイリッシュな色彩によるスコープ・サイズでの画作りと、どこかしら空虚で寂しく映えているかのような登場人物たちの生きざまの描出にあるでしょう。

これらの群像を見事にさばく設計図たる脚本を記した蛭田直美の功績も大で、中盤に同時刻にみんながそれぞれ「やば」とつぶやくあたりから、それぞれのドラマのタイミングが奇妙にシンクロしていくあたりも秀逸。

口から出る台詞と本音のモノローグを巧みに使い分ける趣向も成されていますが、その言葉の響きも作品の雰囲気づくりに大いに貢献しています。



監督の丸山健志は1980年生まれで、2004年に発表した自主映画『エスカルゴ』がぴあフィルムフェスティバル2005に入賞したことを機に映像業界入りし、aikoや安室奈美恵、絢香、乃木坂46など多くのミュージック・ビデオやCMを演出し、2015年にはドキュメンタリー映画『哀しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』も発表。

そして今回が念願の長篇劇映画監督デビューとなったわけですが、本作が第34回東京国際映画祭「Nippon Cinema Now部門」正式上映作品として11月7日に上映(事実上のジャパンプレミア)された際のQ&Aで、丸山監督は「リアルな若者のもがきを撮りたかった」と語っています。

多様化する現代社会の中、当然ながら価値観も多様化していくわけですが、実のところ悩みの本質みたいなものは意外にみんな同じで、その悩みは誰しも持ち合わせていることを、13人という大人数のキャラクター(当初は5人だったそうですが、どんどん増えていった!)を通して描出。

一昔前、スタイリッシュな映像センスにこだわるクリエイターが監督する映画はどうにも中身が伴わない、いわば15秒ですむCMを2時間も見せられているような表層的なものが多数ではありましたが、そこから時代も移り変わり、そういった映像ゆえに登場人物の内面を巧みに物語る術を、今のクリエイターは意欲的に持ち合わせてきているようです。

もちろん、本作の丸山健志監督もその中に含まれる、今後の期待も大の存在として注目していきたいと思います。



なお多彩なキャストそれぞれ好演している中、個人的にはSNSフォロワー5000名のノマド若者を演じる清水尋也、鹿児島訛りが可愛い不登校地方女子役の上大迫祐希、周囲に傲慢にあたるクリエイター役の八木莉可子が特に強く印象に残りました。

(文:増當竜也)

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(C) 『スパゲティコード・ラブ』製作委員会

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