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2021年12月03日

坂東玉三郎初主演『夜叉ヶ池』を改めてピックアップ!今では実現不可能なファンタジー超大作!

坂東玉三郎初主演『夜叉ヶ池』を改めてピックアップ!今では実現不可能なファンタジー超大作!




当代随一の歌舞伎界名優として知られる五代目・坂東玉三郎が一人二役で初主演した映画『夜叉ヶ池』がついに配信されます。

泉鏡花の同名戯曲を原作に巨匠・篠田正浩監督がメガホンを握った1979年の異色幻想ファンタジー超大作。

初公開後は長年ソフト化もされず幻の映画とまで謳われてきた本作、今年になってついに4Kデジタル・リマスター化され、リバイバル上映及びソフト化、BSやCSでの放送を経て、いよいよ映像配信も開始!

何せ40年以上も前の伝説的作品ゆえ、未だにご覧になったことのない若い世代の映画ファンも数多くいらっしゃることでしょうが、この機会にぜひとも見ていただきたい、ある意味前代未聞の問題作でもあるのでした。

人間の若妻と竜神の姫
二役を演じる坂東玉三郎



『夜叉ヶ池』のストーリーをかいつまんで紹介しますと、時は大正2年の夏、越前(現・福井県)三國嶽のふもと琴弾谷の村が舞台となります。

その地は未曽有の日照り続きで、村人たちの間では水不足が深刻な問題と化しています。

学者の山沢学円(山﨑努)は、そこの夜叉ケ池の伝説を調査しにやってきますが、迷い込んだ池のほとりで不思議な女性・百合(坂東玉三郎)と出会いました。

夫と二人で鐘楼守をしているという百合の山奥の家に招かれた山沢は、その夫が行方不明になって久しい親友の萩原晃(加藤剛)であったことを知って驚愕。

萩原曰く、夜叉ヶ池には竜神が封じ込まれていて、1日に3回鐘を撞かなければ竜神が暴れて大洪水をおこして村が流されてしまうため、百合とともに鐘を撞き続けているのだといいます。

実際、夜叉ヶ池の中では竜神・白雪姫(坂東玉三郎)が剣が峰の恋人のところへ赴きたくて仕方がないものの、百合の撞く鐘のせいでそれも叶わぬまま悶々としているのです。

しかし一方、村人たちは雨乞いの儀式のために、何と百合を生贄にしようと企んで、夜叉が池を見に行った萩原と山沢の留守中、百合を連れ出そうとし……。

人間界と妖精界が交錯する
幻想妖奇ファンタジー



本作は1970年代の当時、歌舞伎界のホープとして既に絶大なる人気を博していた坂東玉三郎と、鬼才・篠田正浩監督のタッグによる映画として、公開前から大きな話題を集めていた超大作です。

ここではまず山﨑努と加藤剛、そして村人たちによる現実世界の中、はかなくも美しい百合の存在が見る者に不可思議な幻想感を抱かせてくれます。

映画の中盤は夜叉ヶ池の中の竜神やら妖精やら、まさに魑魅魍魎どもが跋扈する妖奇ファンタジー世界がケレンミたっぷりに描出されます。

その両方の主軸を担うのが坂東玉三郎であり、特に竜神・白雪の豪華絢爛たる佇まいは、映画ファンも歌舞伎ファンもそうでない方も一度は見ておいて然るべき貫禄と迫力がみなぎっています。

そしてクライマックス、人間どもの醜い業はついに大洪水へと至りますが、そこでの一大特撮!

『宇宙からのメッセージ』(78)の特撮で世界的評価を得、1979年は『地獄』『真田幸村の謀略』と力作を発表し続けた矢島信夫特撮監督ならではのスペクタクル描写は、初公開から42年経った今も圧倒的迫力をもって、見る者を驚嘆させてくれます。

そして全てが終わってのラスト、ブラジルのイグアスの滝でのロケーションによる荘厳なる映像美は大自然の驚異とともに人間の愚かさやちっぽけさなどさまざまな想いに捉われつつ、そこにとどめを刺すのがやはり坂東玉三郎(=白雪)の超自然的存在感なのでした!

初公開から42年を経て
今の時代に本作が蘇る意義



映画『夜叉ヶ池』は1979年10月20日より全国公開されましたが、正直なところ当時の映画マスコミの絶対的支持を得るには至りませんでした。

今振り返ってみますと、歌舞伎の世界では男が女を演じることが普通であっても、映像の世界でそれを具現化するにはまだまだ違和感のある時代だったように思えてなりません。

特に異界の白雪に関しては玉三郎ならではのゴージャスな貫禄と相まっておおむね好評でしたが、リアル世界の住人である百合に関しては違和感を覚えるといった批評が割かし多かったようにも記憶しています。

一方でアメリカなど海外で、この作品は絶賛されました。

それは女形といった日本独自の文化、そして篠田監督ならではの日本の土着の描出などへの驚嘆と興味も大いに手伝ったのかもしれません。

(今回の4Kリマスター版上映にあたっても、マーティン・スコセッシ監督の大推薦コメントが寄せられています)

ただし、この作品の公開後から徐々に性を超越したタレントなどがテレビバラエティ番組などを席捲しては支持を得るようになっていき、また現在に至るLGBT+αの理解やそういった題材の映画やドラマ作品の増加なども含めて、今の目線で本作を見返すともはや何の違和感もありません。

(私自身、初公開時は玉三郎と加藤剛のキスシーンを目の当たりにして「そこまで描かなくてもいいのに」などと思ったものでしたが、今回久々に見直したところ、逆にとても美しいラブシーンに見えたのが不思議なほどでした)

また本作は長らく特撮ファンの間で幻の名作として讃えられ続けていましたが、それは先に記した理由によるもので、今回初めて矢島特撮の真髄に触れて狂喜乱舞の方もさぞ多かったことと思われます。

今の時代ならデジタルでリアルな描出も可能でしょうが、当時の松竹大船撮影所第8ステージを大改造して作られた巨大ミニチュアセットに50トンの水を用いて村を一気に崩壊させていく壮大なアナログ特撮こそは、日本映画界ならではのお家芸として後世も語られ続けてしかるべきものでしょう。

ちなみに坂東玉三郎は本作の後も泉鏡花の世界にこだわり続け、1991年には吉永小百合主演で『外科室』で映画監督デビューを果たし、1995年には『天守物語』を監督。

玉三郎は1977年にも舞台で『天守物語』主演を努めていますが、このときの音楽を担当していたのが冨田勲であり、これが縁で本作の音楽を担当する流れになったことも想像されます。

当時既にシンセサイザーで世界的名匠の地位を確立していた冨田は、ここでもドビュッシー「新世界」やムソルグスキー「禿山の一夜」などクラシックの名匠音楽をシンセ演奏した楽曲を巧みに画と融合させながら映画の荘厳な美の構築に大きく貢献しています。

2020年、坂東玉三郎は篠田正浩監督と久々に再開した折、本作を混迷する現代を生きる今の人々にこそ見てもらいたいという意見が一致して、今回の4Kデジタル・リマスター化の実現の運びとなりました。

現在の日本映画界でここまでのスケールと熱量を持った実験的野心作を企画することはおそらく困難ではあることでしょうが、だからこそ本作のごとき大胆な野心と実験精神をもって創作に臨む冒険心の大切さまでも、本作は改めて混迷&疲弊を続ける現代に訴え得ているようにも思えてなりません。

どうぞ、本作からそういった冒険心であったり、新たな創作からもたらされる前向きな気持ちなどを育んでいただけたら幸いに存じます。

(文:増當竜也)

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