<リバイバル>『夜空に星のあるように』、名匠ケン・ローチ監督の原点が大いに見受けられるデビュー作




■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

ケン・ローチ監督はイギリス映画界を代表する名匠で、映画賞受賞歴はもうそれだけでこの欄が埋まってしまうほど!

特に労働者階級や移民、貧困などの社会問題を題材にした作品には意欲的に取り組み続ける反骨の存在でもあります。

しかし、それでいてタッチはシビアな中にも慈愛を忍ばせるという人生の機微を見据え続ける作風は世界中の映画ファンから愛され、シンパシーを寄せられ続けていることも大いに付け加えさせていただきたい事象のひとつ。

さて、そんなケン・ローチ監督の記念すべき映画デビュー作で、1967年に発表された『夜空に星のあるように』が、半世紀以上の時を越えて日本でリバイバルされます。



ロンドンの労働者階級に生まれ、子どもを産んだばかりの女性ジョイ(キャロル・ホワイト)の、なかなかについてない日常を通して、人生の厳しさも切なさも、そして理不尽極まる中でも生きていかざるを得ない現実が自然体で淡々と描出。プロもアマチュアも問わないキャスティングや、ロケ撮影を中心にした即興性の高い演出など、後のケン・ローチ作品に精通する諸要素はここから早くも発見することが出来ることでしょう。

毎回音楽の起用もユニークなケン・ローチ監督ですが、ここでもイギリスを代表するフォークロック界のカリスマ、ドノヴァンが担当。



また現在公開中『ラストナイト・イン・ソーホー』にも出演している名優テレンス・スタンプの存在も出色で(さすがに若い!)、彼がドノヴァンの名曲《カラーズ》をギターでつま弾きながら歌うシーンは、本作の中でも白眉といえるでしょう。

そしてヒロインを務めたキャロル・ホワイトは、本作カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で主演女優賞を受賞。

キャストの資質を毎度的確につかみ得るケン・ローチ監督の秀逸なキャメラ・アイは、デビュー作にして既に発揮されていたことを物語る受賞のような気もします。

モノローグと字幕テロップを巧みに駆使しながら、いつしかキャラクターと映画そのものが会話まで交わしていく実験的な手法もお見事。

1970年代に入り、サッチャー右派のサッチャーが政権を握ってから不遇な時代を過ごすも、90年代に入って見事に復活を遂げたケン・ローチ監督。

その意味でも本作は復活後とは一味違う、初々しさや瑞々しさも伴う厳しくも心地よい風を見る者の心の中に吹かせてくれる秀作であると断言しておきます。

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(文:増當竜也)

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