(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

<徹底解説>『キングスマン:ファースト・エージェント』超過激と断言できる3つの理由


3:反戦のメッセージが切実かつダイレクトに響く理由

そのような「中学生が妄想する歴史アクションを最大級のお金と最高峰のスタッフとキャストで実現した」贅沢な無邪気さがありながらも、実際の悪しき歴史への「カウンター」にもなっているというのも、『キングスマン:ファースト・エージェント』の素晴らしいところだ。何しろ劇中でははっきりとした戦争への批判があり、戦争で多くの血が流され、命がむやみに失われていくことの悲劇も描かれているのだから。

それに伴う「親子の軋轢」の物語も面白く、また感情移入しやすいものに仕上がっている。主人公であるオックスフォード公は毅然として戦争に反対し、だからこそ秘密裏に戦況の悪化を防ぐためのミッションに息子のコンラッドも動向させるのだが、そのコンラッド自身は正義感の強さから、勃発してしまった第一次世界大戦の兵士として戦うことを何よりも熱望しているのだから。

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本作と精神性が似ているのは、クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』(09)だろう。こちらは現実のナチス・ドイツの悪逆的な行為に対して、フィクションで思いっきり「復讐」をするという内容だった。『キングスマン:ファースト・エージェント』では、ただただ息子の身の安全を願う父と、1人の兵士として戦争で成果をあげようとする息子という、戦争時には普遍的に多くあったであろう親子関係を通じて、やはり「現実の戦争に対してフィクションの物語で対抗するように」反戦のメッセージを突きつける内容になっていたのだ。

それでいて、戦争をただ悲劇として扱うだけでなく、「いとこ同士の権力者3人(演じているのは全員トム・ホランダー)が子どもの頃のケンカの延長上に戦争をやっている」というシニカルな視点も入っている。もっと下世話な言い方をすれば「戦争ってバカだぞ!」とさえ思えるからこそ、たくさんの命の失われることへの悲劇がより相対的に際立つようにもなっているのだ。

さらには、世界の多くを侵略・支配してきたイギリスの歴史そのものへの自己批判的な言及もある。だからこそ「英国紳士として」正しい人物としてありたいと願う、主人公のオックスフォード公の信念もより痛切に感じられた。さらに「円卓の騎士」への言及は、イギリス人としての誇りも象徴するものとして受け取った。



劇場でぜひ見て欲しいのは、塹壕近くでの戦闘シーンだ。大迫力で、無慈悲に命が失われる戦地の過酷さをリアルに伝えることにも成功しており、それは少し前の『1917 命をかけた伝令』(19)とも、なんら遜色のないクオリティでもあった。戦地のみならず、当時の衣装や装飾にも妥協が全くない「再現」があるからこそ、それらはより「実際にあったこと」として体験できる。

そして、そのような戦争への批判があってこそ、『キングスマン』というシリーズならではのケレン味たっぷりのアクションがより痛快に感じられるようになる、という構図もある。「表の顔は高貴なる英国紳士」だが「裏の顔は世界最強のスパイ(になるまで)」という設定の面白さは、不自由で先行きの見えない戦争時には、より必然性もあるし切実に感じられる。シリーズで通底していた「世界滅亡を防ぐために裏で活躍したヒーロー」が、もっともダイレクトにカッコよく響いたのだ。



もちろん、戦争という背景を抜きにしても、穏やかそうに見えるジェントルマンが、いざという時にはスタイリッシュに強敵を倒すというギャップは、それだけでものすごく楽しい。最強の敵に立ち向かう前に、チームで智略を練る(それが決して上手くいくわけでもない)様にもワクワクできる。アクションとドラマ、その両面でエンターテインメント性を存分に打ち出した『キングスマン』の魅力が、第一次世界大戦を背景にした前日譚で、最大限に発揮されたというのも嬉しくって仕方がない。

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