俳優・映画人コラム
<ウィレム・デフォーの魅力>闇と光のカリスマ性
<ウィレム・デフォーの魅力>闇と光のカリスマ性
アベル・フェラーラ映画のウィレム・デフォー
日本ではあまり知られていないのだが、ウィレム・デフォーは『天使の復讐』(81)で知られるカルト映画監督アベル・フェラーラ作品によく出演している。どの作品も一筋縄ではいかないキャラクターに挑戦しているのだ。
『4:44 地球最期の日』(C)2011 SO SUAVE, LLC AND WILD BUNCH S.A. ALL RIGHTS RESERVED.
『4:44 地球最期の日』(11)では、地球滅亡まであと1日となった世界でのひと時が描かれている。ウィレム・デフォー演じる男はジャクソン・ポロックを意識した絵を描いたり、オンラインで遠く離れたアーティストと話し合ったり、瞑想したりしている。終わりゆく世界の中で自我を保とうとしているのだ。この映画での演技は、コロナ禍での生活を予言したかのようなリアルさを持っており、祈りを捧げながらも去りゆく時間の中に身を投じようとする生への渇望が感じ取れる。
『Go Go Tales』(07)では火の車経営のストリップクラブのオーナー役を演じている。一発逆転を狙って宝くじに挑戦し、億万長者となるものの、肝心な宝くじを無くしてしまう。借金の取り立てに追われたり、ストリップクラブの揉め事を解決したりしながらショーを盛り上げていく。飄々と立ち振る舞うウィレム・デフォーの姿は、集大成ともいえ、追い詰められた彼が演説する場面は圧巻といえよう。
『ソドムの市』(75)で知られるピエル・パオロ・パゾリーニ監督が殺害された事件を描く『Pasolini』(14)では、スキャンダラスな事件とは裏腹に静かに死の瞬間まで続く日常が捉えられている。ウィレム・デフォーはパゾリーニ監督の前衛的で過激なイメージを払拭する冷静な仕草を演じている。
『TOMMASO』(19)では、イタリア語の先生との情事に明け暮れるアーティストの男を演じている。妻が不倫をしていることを疑い始めたことにより現実と虚構が曖昧になっていく姿を描いた本作では、「俺は『甘い生活』のアメリカ版リメイクを作りたいんだ。」と饒舌に話す一方で、妻が自分のいない間に何をしているのか不安を抱き精神が乱れていく激しい情緒の浮き沈みを怪演している。
ウィレム・デフォーは『永遠の門 ゴッホの見た未来』で第75回ヴェネツィア国際映画祭で男優賞を受賞している。内なる狂気と対峙し続けるゴッホを演じた彼。その源流はアベル・フェラーラ映画における混沌の中で自分の内面を見つめる演技にあったといえよう。
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』『ナイトメア・アリー』『THE CARD COUNTER』に期待
日本では2022年1月28日(金)よりウェス・アンダーソン監督作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』が公開される。本作でウィレム・デフォーは裏会計士役を演じているとのこと。
また、2022年3月25日(金)にはギレルモ・デル・トロのサスペンススリラー『ナイトメア・アリー』が公開される。ポール・シュレイダー『The Card Counter』では少額稼いでは逃げる賭博師の前に現れる敵として登場する。
2022年は闇のウィレム・デフォーが堪能できる年となりそうだ。
(文:CHE BUNBUN )
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