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<考察>『アネット』カラックス過去作との決定的な“違い”とは?

4:ストロンボリ目線のピノキオ

■聖域を失われたヘンリーはストロンボリとなる



ヘンリーは、アンやマスコミの前では仮面を被っており素顔をみせない。舞台上が聖域となっており、そこで自分の内なる暴力性を注ぎ込んでいた。それが告発とアンの出産により崩れ去り、ショーが中止となってしまう。

聖域を奪われた彼の暴力性は家庭に持ち込まれ始める。その暴力の根元にある、アンとの関係が嵐で流れ去ったことで正気を取り戻した彼は、アネットを操ることとなる。ここでは、アネットの造形に注目したい。

アネットは人間ではなく、人形なのだ。つまり、ヘンリーは『ピノキオ』(1940)におけるストロンボリに成り果てたのである。

ストロンボリは人形たちを搾取する。カリスマ的興業でお金を稼いでいる。糸のない人形という金脈であるピノキオに彼は飛びつき、思いのまま操ろうとしてくる。

ヘンリーも、光に照らすと美しい声を聴かせるアネットで人生を建て直せると考え、ワールドツアーを敢行する。操り人形のようにアネットをコントロールしていく。だが指揮者を殺した後、アネットの悲痛の眼差しを見た彼は良心を痛め、活動休止を決める。

しかし、最後の欲が働いたのか、大きくなり過ぎた賞賛の渦に抗うことができず巨大なスタジアムで最後の公演が始まる。

ドローンに運ばれ、不安定な足場に立たされる。数万人規模が見守る中、演奏が始まるがアネットは歌うことができない。しかし、これは本番だ。何度も前奏が繰り返される中、ついに彼女は叫ぶ。

「パパは人殺しだ!」

時が経ち、刑務所に現れるアネット。彼女は「人形」から「人間」に変わる。父の束縛から解放された彼女は、彼を拒絶しつつも、彼の暴力が呪いのように自分の中にあることへ葛藤している。

しかし、自分で考え、自分の力で歩むことができる彼女にはもう糸はない。軽蔑と哀れみの眼差しを向けながら去っていく。

つまり、『アネット』はストロンボリ目線のピノキオであり、束縛の糸を断ち切る話だったのだ。

今まで男性が女性を縛り、離さない映画を紡いできたレオス・カラックスが、女性の内面に目を向けその束縛から解放した話と考えると、凶悪な映画でありながら自らの加害性に対し真摯に向き合った作品と言える。

今や国際的に次々とパワハラ/セクハラが告発され、過去の暴力と向き合う時代において『アネット』は重要な作品であり、第74回カンヌ国際映画祭監督賞受賞も納得な作品であった。

(文:CHE BUNBUN )

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