「蜷川実花」監督作品の魅力を紐解く映画“4選”


(C)2022映画「ホリック」製作委員会 (C)CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社

2022年4月29日に蜷川実花監督の映画『ホリック xxxHOLiC』が公開される。CLAMPの漫画を原作としたこの映画は、10年越しに実現した実写化だという。

本記事では『ホリック xxxHOLiC』をはじめとした、蜷川実花作品の魅力についてお伝えしたい。

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『ホリック xxxHOLiC』(2022年)


(C)2022映画「ホリック」製作委員会 (C)CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社

神木隆之介演じる主人公・四月一日(神木隆之介)は、人の心の闇に寄り憑く”アヤカシ”という化け物が視えてしまうために人から遠ざかり、孤独に過ごしていた。物語は彼が人生に絶望しているところから始まるため、序盤は陰鬱なグレーがかった色が多い。出会った侑子(柴咲コウ)の【ミセ】に訪れ、四月一日の人生が少しずつ色づいていく。

「何かを得るには対価が必要」という侑子のセリフは、物語で度々似たことを耳にする言葉ではあるものの、聞くたびにあらためて考えさせられる。”いちばん大切なもの”自分もすぐに答えられないなと思った。

侑子のもとで家事の手伝いをすることになった四月一日のお掃除や料理のシーンは微笑ましい。

戦闘シーンは少しCGっぽさがあり、蜷川作品ならではの映像に惹きつけられる印象は個人的には若干弱めに感じたが、キャラクター1人1人の魅力が伝わってくる作品だった。

特にSixTONES松村北斗が演じた百目鬼(どうめき)くんと吉岡里帆が演じた女郎蜘蛛が特に素晴らしかった。


(C)2022映画「ホリック」製作委員会 (C)CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社

百目鬼は事前情報で想像していた以上に出番や活躍も多く、印象に残る役だった。四月一日と百目鬼の関係やひまわり(玉城ティナ)を加えた3人でのシーンが微笑ましいし、少し切ない。

?岡里帆の女郎蜘蛛は全面的な悪役なのだが、可愛くて妖艶で惹かれてしまう役だった。写真が出た際も話題になっていたと思うが、映像はさらに魅力的だった。

四月一日が見つける”大切なもの”は何なのか、どんな選択をするのか、ぜひ劇場で見届けてほしい。

『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019年)


(C)2019「人間失格」製作委員会

太宰治の遺作「人間失格」誕生秘話を、太宰と彼を愛した3人の女性たちの視点から描いた、現実をもとにしたフィクション。

蜷川が女性誌で連載している「悪い男」をそのまま映像化したような小栗旬の太宰もかっこよかったのだが、なんといっても女性3人の印象が強い作品だった。

「斜陽」の元となった日記を太宰に提供し、不倫関係にあった太田静子を沢尻エリカが、戦争から帰還しない夫を待つ美容師で、後に太宰と恋に落ちる富栄を二階堂ふみが、酒と女に溺れる太宰を忍耐強く支える妻・美知子を宮沢りえが演じた。


(C)2019「人間失格」製作委員会

沢尻エリカが演じた静子は、太宰の弟子であり愛人。お嬢様育ちで少女のような女性で、彼女が以前蜷川作品で演じた『ヘルタースケルター』の“りりこ”とは全く違う魅力を見せてくれた。

一方で「愛されない妻より、ずっと恋される愛人でいたい」という強気な発言をするところもいい。静子の出てくるシーンは洋服やお花、インテリアなどにピンク色が多く使われていて、それが彼女の天真爛漫さを表すようでとても可愛らしかった。


(C)2019「人間失格」製作委員会

二階堂ふみが演じた富栄は結婚後10日で夫が出征したまま戦地で行方不明となり、出会って惹かれた太宰に「大丈夫、君は僕が好きだよ」と言われ恋に溺れてしまう。

妻子持ちなのになんてこと言うんだとも思うが、尊敬してる人に言われてみたいとも思う絶妙なセリフだ。最後は太宰と心中した女性だ。純粋な人ほど燃えると怖いという印象で、どんどん恋にのめり込んでいく。正気を失い狂っていくと言ってもいいかもしれない。

作中ではほとんど強引に太宰を死へ誘った富栄だが、同じ愛人の静子が太宰の子を産み、正妻の美知子を超えられるわけでもない富栄は、もう一緒に死んでもらうくらいしか太宰を手に入れられなかったのかもしれない。

他2人の女性が特定の色を印象付けていた一方、特定の色を持たなかったのが印象的だ。


(C)2019「人間失格」製作委員会

宮沢りえが演じた妻・美知子は強かった(物理ではなく)。彼女が忍耐強い女性というだけではない。具体的に太宰がそう言うわけではないが、いくら妻以外の女たちと不倫していようが、誰もこの人には勝てないんだな、太宰にとってもこの人以上はいないんだなというのが伝わってくる。他の2人の前ではかっこつけてる太宰が、未知子の前では情けなく甘えられる。美知子だけを大切にできなかったのは、弱さかもしれない。

決して美知子はいろんなつらい出来事に対して平気だったわけではなく、美知子が子どもたちと青いペンキを顔に塗り合うシーンは印象的で忘れられない。この作品における美知子のテーマカラーは青色だ。

太宰に治療しろとも酒や女をやめろとも家族を大事にしろとも言わず「壊しなさい、私たちを」「あなたはもっと凄いものが書ける」と言ったのは、彼の才能を誰より信じ、愛していたからできたことだ。


(C)2019「人間失格」製作委員会

女性3人の印象が強いと言ったが、改めて振り返ると、3人にそれぞれの顔を見せる太宰を演じた小栗旬もやはりすごい。また本作では太宰だけではなく、さまざまな文豪たちも登場する。

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| 2019年 | 日本 | 120分 | (C)2019「人間失格」製作委員会 | 監督:蜷川実花 | 小栗旬/宮沢りえ/沢尻エリカ/二階堂ふみ/成田凌/千葉雄大/瀬戸康史/高良健吾/藤原竜也 |

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『Diner ダイナー』(2019)


(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

平山夢明の小説を原作にした、「殺し屋専用レストラン」を舞台にした作品。ここで働くことになってしまったオオバカナコ(玉城ティナ)と店主のボンベロ(藤原竜也)を中心に物語が展開していく。

やってくるさまざまな特徴を持った殺し屋のビジュアルや、とあることから始まるそれぞれの戦闘シーンが蜷川実花の色彩感覚や人物の作り込みとの相性が抜群で、戦闘シーンはそれぞれ違う舞台を観ているようで素晴らしかった。


(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

殺し屋たちも本当に魅力的で、個人的に窪田正孝演じるスキンと真矢ミキ演じる無礼図が大変好きだった。ダメ男にハマってしまうそれと同じ類のものかもしれないが、かっこよくてキュンとさせる要素を持っているスキンを好きになってしまう人は多いと思う。

無礼図の戦闘シーンは一瞬「宝塚を観に来たのか?」と思うほど。彼女が散るシーンの演出は圧巻で、蜷川実花の美学といってもいいようなこだわりを感じた。

見た目の華やかさだけではなく、ボンベロとカナコのエピソードがしっかりしあって、ビジュアルでもストーリーも楽しめる作品で、個人的にいちばん好きかもしれない。


(C)2019 映画「Diner ダイナー」製作委員会

前のボス・デルモニコの肖像画に描かれているのは公開の前年に亡くなった蜷川実花の父・蜷川幸雄だ。彼は俳優としての藤原竜也を見出した人物でもあり、藤原竜也演じるボンベロが肖像画を背に「 俺を見つけて育ててくれたのはデルモニコです」というシーンは現実とリンクして、涙が出てしまった。

ちょっとイロモノ感あふれる設定で敬遠していた人もいるかもしれないが、ぜひ観ていただきたい作品だ。

『ヘルタースケルター』(2012)


(C)2012映画「ヘルタースケルター」製作委員会

岡崎京子の漫画を原作としたこの作品は、全身整形のモデル・りりこ(沢尻エリカ)が主人公。自分の長所は(作られた)美しさしかないと自覚しているりりこが、整形の後遺症や取って代わられ忘れ去られることに怯えながら狂っていくさまを描いている。

つけまつげにウィッグにギャルメイクなど、「盛り」が満載で、懐かしいけど今見てもちょっとワクワクする。際限なく美しさ、その先にある人から求められることを求めてしまうりりこは、女の業を具現化したような存在だ。

花柄の壁にりりこのポートレートがたくさん飾られている部屋などのセットもかわいい。蜷川実花が撮る女性の写真が好きな人は絶対好きな世界観だ。


(C)2012映画「ヘルタースケルター」製作委員会

そしてこの作品は、りりこと彼女に振り回されるマネージャー・羽田(寺島しのぶ)、彼女を作り出した事務所社長の多田(桃井かおり)、りりこになり変わっていく新人モデルの吉川こずえ(水原希子)など、さまざまな「女と女」の物語でもあったと思う。

特に羽田の、りりこは自分がいないと何もできないと言いつつ、憎い瞬間もありつつ、どうしようもなく惹かれている感じ、一言で説明できない関係性が印象的だった。

唯一無二の世界観とメッセージ性に期待


さまざまな作品を独自の色彩や世界観で実写化してきた蜷川実花。どの作品もその見目鮮やかなビジュアルだけでなく、その時々の時代に伝える強いメッセージ性を持たせていたと思う。

彼女が今度はどんな原作を実写化させるのかも気になるし、オリジナルの映画も観てみたい。

(文:ぐみ)

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