<解説&考察>「ムーンナイト」第6話:“マルチバース”がもたらした予想外の結末
マルチバースが導くラストシーンの真意
マルチバース。
この言葉は近年のマーベル映画で提示され、物語の根幹として重要な意味をもつ概念だ。マーベル映画の物語世界では別次元の世界も存在し、その数だけ同じ人物が存在する。
そのため、「ロキ」や『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では、異なる世界で別の人生を送る複数の主人公が登場してきた。
過去のマーベル映画では別次元が共存していたため、交わることのなかった彼らだった。しかし「ロキ」の最終話において、その調和が乱れて世界は一変。
時空や空間の歪みが発生したことで、これらが混交する世界観となってしまったのだ。
そして、今回の「ムーンナイト」のラストシーンを紐解くために重要となってくるのが、最新作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』で描かれた内容だ。
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では、主人公・ドクター・ストレンジとワンダが、夢の中で別次元に生きる自分自身を感じ取ることになる。
つまり「ムーンナイト」で「主人公の妄想」として描かれていた世界も、実は単なる妄想なのではなく、同時に存在する別次元の世界だったと捉えることができるのではないだろうか。
そのため、本作のラストシーンは「現実」も「虚構」も、どちらも並列して存在する重要な真実に変わりはなく、どちらを信じるのかは受け手次第であることが指し示めされているのではないか。
この奇妙な顛末からは底しれない狂気も感じられる。
しかし、2つの世界が平等に価値を持ち、同時に存在するという考え方は、マーベル作品という"虚構"に没頭する"現実"の私たちに対しても、ささやかな希望を与えてくれるのではないだろうか。
ちなみに、主人公の妄想として描かれた別次元は、過去のマーベル映画で描かれた世界と同一である可能性が高い。
第1話に登場する書物から『マイティ・ソー』と『ブラックパンサー』が示唆されているほか、第2話でのバスの側面に書かれた「GRC」という用語、第3話でベックという人物が言及したマドリプールという用語からも「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」とのリンクを確認できる。
つまり「虚構と現実」という題材を描いた内容から、他のマーベル映画とは繋がらないと思われていた本作も、マルチバースという概念を踏襲すれば合流が可能と言えるのだ。
今回は謎が謎を呼んだマーベル屈指のミステリーであり、問題作であった「ムーンナイト」の最終回を解説した。
フェーズ4がスタートした「ワンダヴィジョン」以降はメタフィクション的な要素が強まり、「ムーンナイト」はその到達点ともいえるシリーズ史上最も難解な物語となった。
しかしその設定に飲まれることなく「メンタルヘルス」という題材を丁寧に描き、同時にヒーローものとしての娯楽性も両立した本作は、これから先も高く評価されるはずだ。
作り手のクリエイティビティが最大限に発揮された見事な内容も含め、「ムーンナイト」はアメコミ実写化の歴史において、大きな転換点となった。この功績は、世界的に実写ヒーローブームが続く今後の数年間でさらに明確になるだろう。
今は何よりも、この傑作をリアルタイムで鑑賞できたことに感謝したい。そして別次元に存在するかもしれない、異なる自分への可能性に思いを馳せてみたい。
(文:TETSU)
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