『シン・ウルトラマン』解説|なぜそんなに人間が好きになったのか?
1:自己犠牲で他者を助ける人間の姿に興味を持ったから
ウルトラマンは、自身の着陸の衝撃から幼い子どもを守ろうとして絶命した神永新二の死体(抜け殻的なもの?)の前で、「(人間は)実に興味深い存在だ」などと語っていた。彼が地球に降り立ち、最初に興味を持ったのは人間が自己犠牲で他者を助ける姿だったのだ。クライマックスで、初めはウルトラマンは「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も」という言葉を残し、ほぼ無策のままゼットンへと突撃し、敗北した。浅見弘子は病院に運ばれて眠る彼を見て、「最初から勝てないことがわかっていたんでしょう」と口にする。
ウルトラマンが再びゼットンに立ち向かう時には、物理学者の滝明久から勝つための条件を聞き、決死の覚悟を決める。班長の田村君男からは「ならばその案は却下だ。人類のために君を犠牲になどできない」と反対されるが、神永は「問題ない、君たちの平和が最優先だ」と突っぱね、そして実行した。
本作における光の国およびゾーフィは、宇宙全体の大きな平和のためであれば、地球という星および人類を滅ぼすこともいとわない、「裁定者」としての価値観を持っていた。それは、ウルトラマンが人間から知った、たった1人の命も見捨てずに救おうとする価値観とは相対するものだったろう。
その「自己犠牲をするという行動の興味深さ」が「好き」という感情とイコールかどうかはさておき(詳しくは後述する)、ウルトラマンは人間の自己犠牲の精神を学び、最終決戦では自分もその行いに倣っている。そこには、おそらく自分が着陸したために神永を死なせてしまったという自責の念もあったのだろう。
また、劇中のそうしたウルトラマンの姿から、自己犠牲を美化しすぎているという意見も見かけたが、筆者はそうは思わない。劇中では田村から「何事も話し合いで解決するのがいちばんだ」ということも告げられていた。しかもゼットンを倒すまでには時間が限られており、それ以外には倒す方法がない、「最後の手段」として提示されていたからだ。もちろん、それでも現実であれば許容されるはずのない選択かもしれないが、フィクションのヒーローが取る方法としては尊く、人間から学んだ価値観であること、その悲劇性も含めて、心に深く残るものでもあると思う。
2:神永が「たった1人で子どもを助けた」からこそ、ウルトラマンはバディを組むのが下手だった?
さらなる『シン・ウルトラマン』が賛否両論を呼ぶポイントとして、「ウルトラマンこと神永と、浅見がお互いにバディと呼び相棒として務めるべきだと言っているのに、劇中では結局バディ関係を築けていないように見える」ということがある。だが、ウルトラマンがずっと単独行動をしていて改めようともしないのは、前述した通り生前の「子どもをたった1人で助けた」神永の姿を倣った結果のように思えたのだ。また、結局は単独行動ばかりとはいえ、実は「変身するためのベーターカプセルを浅見に渡していた」(自分を助けに来る浅見をバディとして信じていた)「ゼットンに勝つためのヒントを収めたUSBを滝の机に置いていた」など、禍特対のメンバーへの協力と言える行動もしていた。彼は「表向きは単独行動をしているように見えるけど、裏ではちゃんとバディ的な行為をしていたよ」というつもりだったのか。もっと言えば、ウルトラマンはもともと単独行動の多い神永(もしくは自分自身)らしさを保ったまま、独自のバディ関係を築こうとしていたのではないだろうか。
そうだとしても、いくらなんでも初めに単独行動で子どもを助けた神永の行動だけに倣いすぎだと思うし、バディとしてのあり方がめちゃくちゃ下手だし、「そもそも怪獣が暴れている場所に取り残されている子どもを神永がたった1人で助けに行くのはおかしくね?(田村も彼1人に頼むなよ)」「時間がないんだから神永が机に置いたUSBメモリはすぐに確認しろよ」などのツッコミどころもある。だが、最低限の報連相もしない、社会人としてどうかと思うところも含め、下手なバディしか組めない彼もまた、愛おしい気がするのだ。
また、米津玄師の主題歌「M八七」の歌詞には「痛みを知る ただ1人であれ」とある。
劇中のウルトラマンは、結局は真っ当な形で人間とのバディを組むことはなかったが、それでも人知れず光の国の掟に真っ向から歯向かい、最後に自己犠牲をもってゼットンに打ち勝った。それは(禍特対の協力ももちろんあったが)人間と完全には打ち解けることがなかった、最終的には孤独(痛みを知るただ1人)のまま最終決戦に向かったウルトラマンの姿こそを、尊く描こうとした結果なのかもしれない。
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