是枝監督らが設立を求める日本版「CNC」とは?|映画界にもサステナビリティを
日本版CNC実現のための課題
Action4Cinemaは映画監督たちが立ち上げた団体で、この組織が日本版CNCになるわけではありません。あくまで業界に対して、CNCに相当する組織を立ち上げてもらうよう働きかける団体であり、そのために日本ではどんなやり方がよいのかを研究、提言していくことを目的にしています。会見でも言及していましたが、重要なのは、フランスにはフランス文化の土壌があり、日本には日本文化の土壌があるので、フランスのやり方をそのまま直輸入しても上手くいきませんから、いかに「日本向けのカスタマイズ」ができるかが大切です。
この日本向けカスタマイズという点を考える上で、アニメ産業をどう巻き込むのかという点は重要だと筆者は考えています。
現在、日本の映画館の興行収入を牽引しているのはアニメです。2019年に過去最高の成績を挙げた日本映画界ですが、同年の邦画のランキング上位5作品中4本がアニメで、洋画も5本中2本がアニメーション作品でした(『ライオン・キング』超実写版をアニメーションと見なせば3本)。この傾向はコロナ禍を経てさらに加速しており、週末興収トップ10でアニメ作品が過半数という状態も珍しくありません。
日本版CNCでも財源の一つとして映画館の興行収入の一部を徴収する構想を会見でも語っていましたが、そうなるとその財源の大半はアニメの売上ということになります。しかし、今のところ音頭をとっているのは実写映画の人たちだけなので、早々にアニメ産業と連携していくべきです。
アニメ産業的にもこういう支援は貴重なはずで、近年アニメの産業規模は拡大し続けていますが、一部の作品の大ヒットに支えられており、大半の作品は赤字だったりします。なので、CNCのような組織によって下支えすることで多彩な作品が作りやすくなり、その中から新しい才能が生まれてくる循環を作れるはずですし、売れるアニメと売れないアニメの差もはっきりしてきている今、売れないけど良いアニメを支えるためにもこういう組織が必要です。
CNCは支援対象を限定せずに手広くやっていることに特徴があります。その平等性がCNCの正当性を担保しているのでしょう。長い歴史の中で少しずつ支援の範囲を増やしてきましたが、日本の場合、今から始めるなら映画のみならずテレビ、配信、ゲーム全ての視聴覚メディアを最初から支援対象にしないと正当性が感じられにくい気がしますので、映画産業以外の色々な団体に働きかけてほしいと思いますし、逆に映画以外の視聴覚メディアに携わる方々にも関心を持っていただきたいです。
しかし、なんといっても財源の確保が最も難しいポイントで、映連や放送業界といった既存の大組織の協力が絶対に不可欠。ここをいかにして動かしてゆくのかが一番の課題になると、是枝監督も会見で述べていました。
映連は朝日新聞の取材に対して「総論としては賛成」だが、興行収入については「(劇場や配給会社など)ステークホルダー(利害関係者)が多く、映連が何かを決められるわけではない」と語ったそうで、賛成と言いつつどこか他人事です。そのステークホルダーは、映連を構成する東宝や東映などの大手映画会社4社なので、まさに映連メンバーがステークホルダーそのものだと思いますが……。
筆者は映画ライターです。この仕事は映画産業が存在するから成り立つ仕事です。その意味でかろうじてステークホルダーかなと思っています。一人のステークホルダーとして日本の映画産業が持続してもらわないと失業してしまいます。cinemas PLUSも映画メディアですが、映画産業が発展して映画への関心が高まらない限り、メディアとして成長が難しいわけです。メディアもライターも、そして映画ファンもステークホルダーですから、積極的にコミットしくべきだと筆者は考えます。
(文:杉本穂高)
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