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改めて振り返る「梨泰院クラス」の魅力|梨泰院から“六本木”へ



2年前、コロナ禍と共にやってきた韓国ドラマムーブメント。その中心的存在であり、ブームの火付け役となったのが「愛の不時着」「梨泰院クラス」だ。

韓国ドラマをまだ一度も観たことがない人でも、作品名だけは聞いたことがあるのではないだろうか。配信される数もスピードもどんどん増していくNetflixにおいて、今なおランキングのTOP10入りを果たしているのも、その根強い人気を証明している。

王道のロマンティックコメディでありがなら、主演の二人が現実世界でも結ばれ、その結婚式が幻の17話とも言われた「愛の不時着」(ドラマは全16話)は、もはやこれ以降誰にも手を加えることが許されない至高の作品となった。むやみに続編をつくる必要はなく、別の俳優が演じることも考えられず、リメイクなどは想像したくもない。

一方で、韓国ドラマの日本版リメイクというのはこれまでにも数多く制作されてきた。
この数年間だけでも、「ボイス」「シグナル」「彼女はキレイだった」「知ってるワイフ」「未満警察」「星から来たあなた」などがある。

逆に、韓国でリメイクされた日本のドラマも相当な数になるのだが、そちらは気になる方がいたら是非調べてみてほしい。見比べてみる面白さも、楽しみ方の1つです。

そして今年、新たな日本版リメイクが誕生する。
冒頭でも紹介した大ヒットドラマ、「梨泰院クラス」の日本版。その名も「六本木クラス」である。

ちなみに“梨泰院(イテウォン)”とは、韓国ソウル市にある地名のことで、外国人観光客などが多く訪れる観光特区になっている。
港区に位置する六本木は、国際色も豊かで梨泰院と雰囲気が似ている……のかもしれない。

ではここで改めて「梨泰院クラス」の魅力について触れていこう。

「梨泰院クラス」のストーリー


『梨泰院クラス』公式予告編 - Netflix

高校時代に転校先のクラスで起きていた暴力を見過ごせず、悪質なその暴君を殴ってしまった主人公のセロイ(パク・ソジュン)。殴った相手が外食業界トップの長家(チャンガ)御曹司のグンウォン(アン・ボヒョン)であったため、セロイはグンウォンの父である会長(ユ・ジェミョン)の一言で退学処分となってしまう。さらには長家に20年も勤めていたセロイの父も会社を退職することに。

理不尽すぎる展開だが、父がセロイへ投げかけるセリフなどに父子の温かい関係が丁寧に表れているドラマの根幹であり、始まりの出来事である。

その後、夢だったという自分の店を開店させるために準備を進めながら幸せな日々を過ごしていた父は、ある日突然帰らぬ人となってしまう。

事故を起こして逃げたグンウォン。その息子を守るために隠蔽した会長。事実を知って怒りに身を任せてしまったセロイ。3人のなかで罰を受けたのは、セロイだけだった。
そしてセロイは刑務所の中で誓うのだ。必ず長家に勝ち、復讐すると。

これは、圧倒的な権力と悪意によって人生を潰されかけた男の、人生を賭けた復讐ドラマである。

魅力1:セロイのリーダーシップ



3年間の刑期の後、さらに7年もの時間をかけて資金を貯め、ついに自分の店・タンバムをオープンさせたセロイ。“商売においてもっとも大事なのは人だ”という父の言葉の通り、仲間を信頼し、より強固な人間関係を築いていく。それはビジネスにおいて時に利益にも勝る価値を生み出し、長い時間をかけて大きな成果をもたらすものだ。

8話、セロイはこんなことを語っている。
「僕と仲間が誰にも脅かされないよう、自分の言葉や行動に力が欲しい。不当なことや権力者に振り回されたくない。自分が人生の主体であり、信念を貫き通せる人生。それが目標です。」

お店や会社を大きくするためには必ずと言っていいほど利益を出すことが必要だが、そこに囚われず、信頼のもとで仲間の手を引いていくのがセロイというリーダーだ。

セロイと仲間とのエピソードで忘れられないものがある。
タンバムの料理人ヒョニ(イ・ジュヨン)がトランスジェンダーであることを従業員たちが知ったとき、同時にヒョニの料理の腕についても問題視されていた。トランスジェンダーだと知られたら嫌がる客もいるだろうし、おまけに料理がヘタでは店が潰れてしまう。だからクビにするべきだ……そんな風にセロイを説得する仲間の気持ちをすべて受け止めた上で、ヒョニへ揺るぎない信頼を込めて、セロイは2倍の給料を渡す。2倍の努力をしろと。

さらに、
「俺は世間が嫌う前科者だ。そしてここにいるヒョニ以外の者は店で騒ぎを起こして営業停止にさせた。ヒョニは?迷惑ひとつかけず働いてくれた。お前らと同じ、俺の大事な仲間だ。気まずくても理解してほしい。強要はしないが、“トランスジェンダーだから一緒に働けない”というなら、誰であろうと俺は切る。」と宣言するのだった。

そうして努力したヒョニが初めて「オンニ」と呼ばれたシーンには思わず目頭が熱くなったものです……
(“オンニ”とは、女性が年上の女性に対して言う親しみを込めた呼称。)

また、飲食店経営におけるマーケティング、投資、法人化、フランチャイズ展開など、要所要所でのセロイの潔い決断と責任能力の高さは、とてつもない器の大きさを感じさせる。
こうした優れたリーダーとしての言動とタンバムがチームで成長していく姿が丁寧に描かれていることで、ビジネスドラマとしても幅広い層のファンを獲得したのだろう。

ちなみに、店名である“タンバム”とは、韓国語で”甘い夜”という意味である。店の外観で頻繁に“HONEY NIGHT”という電飾が映るのも、セロイがずっと甘い夜を過ごせない人生を送っているのも、すべてタンバムという名前にかかっている。

魅力2:長家という立派な悪

復讐ドラマにとってもっとも重要になるのが、その敵となる悪役だ。悪役の描かれ方にも様々あるが、「梨泰院クラス」においてセロイの敵となる長家の会長とグンウォンは、終始極悪。言うなれば「鬼滅の刃」の鬼舞辻無惨のようであり、決して他の鬼のような悲しい存在ではない。

絶対的な悪と、ひたむきに挑み続ける主人公。ここがハッキリしているおかげで、視聴者は安心してセロイの味方ができる。

しかし、会長父子のタチが悪いからといって、長家という会社そのものが悪質なわけではない。なにしろ国内の外食業界のトップに君臨する巨大組織である。と同時に、長家もまた会長が小さな居酒屋から育て上げた素晴らしい企業なのだ。

だからおもしろい。これは決して極悪非道な悪の組織との闘いを描いているファンタジーではなく、圧倒的な権力をもつ大企業に挑む若き起業家のビジネスなのである。

なお、この復讐劇のキーワードのひとつが“土下座”だ。
「土下座して謝りなさい。」という会長の一言がきっかけでセロイは退学になり、父は職を失った。すべての始まりである。

そして日本で“土下座”、“復讐”といえば真っ先に思いつくのが「半沢直樹」だろう。
果たして「六本木クラス」は、再び香川照之に土下座させることができるのだろうか。

魅力3:イソ派か、スア派か



物語の重要なキーパーソンとして、2人の女性が登場する。

タンバムのマネージャーとして遺憾なくその手腕を発揮し、セロイに人生を賭けたイソ(キム・ダミ)と、高校時代、長家父子との悪縁と同時期に出会い、セロイの初恋の相手となったスア(クォン・ナラ)だ。

イソとスア、セロイの3人が繰り広げる三角関係も、ドラマの見どころのひとつである。

成績優秀で運動神経抜群、芸術的な才能にも恵まれSNSで絶大な人気を誇るインフルエンサー、イソ。自分の発信力を活かしたマーケティングでタンバムを話題の店として繁盛させた敏腕マネージャーである。

彼女は同時にソシオパスと診断されており、社会性のなさや己の利益のために他者を利用し犠牲にする残虐性を持つ人物として描かれている。そんなイソが変わるきっかけとなったのがセロイ。イソは密かにセロイへの恋心を募らせていく。

一方のスアは、セロイと出会う前からセロイの父と親交が深かった。長家が支援していた孤児院で育った彼女は、同情されることを嫌い、何事も自分の力で成し遂げようと努力する少女だった。セロイはそんな彼女の姿に見惚れ、初恋から15年、スアを想い続けていた。



ドラマの流行当初、頻繁にみられたのが“イソ派か?スア派か?”という論争だ。

筆者は当初、完全にスア派だった。長年想い続けてきた幼馴染を差し置いて新登場のキャラクターに心を揺さぶられるなんて、ドラクエⅤでビアンカを捨ててフローラを選ぶようなものだと思っていたからだ。(個人の見解です)

しかし最近改めて観た「梨泰院クラス」は、まったく別の印象を与えた。
それは「スア、いつまで囚われのお姫様でいるつもりなん?」という嫌悪に近い感情だった。

ずっと自分のことを想い続けてくれるセロイの側から離れず、長家という自分の身を守る社会的な立場からも離れない。自分は安定した場所に身を置いた状態で、失敗を繰り返すセロイ達の様子を眺めながら、いつか成功者となって復讐を果たしたセロイが「長家からお前解き放つ」と宣言した通り迎えに来てくれるのを待っているだけ。

「あなたの夢を叶えて差し上げます。」と言って、セロイの隣で一緒に闘っているイソとはまるで正反対。

これにてイソ派の誕生である。

しかし実際はスアのような生き方が多数派なのだとおもう。振りかざされた権力を前に信念を貫くなど簡単にはできないだろうし、自分の能力や才能を活かした人生なんて、そもそも才能が何かを理解できなければ始まらない。だからスアのように生きるのだ。長いものに巻かれ、妥協することで“大人になった”と慰める。その共感性の高さゆえに惹かれ、また、理解できすぎるがゆえに嫌悪してしまうのかもしれない。

決して多くはない恋愛要素だが、復讐劇の合間にバランスよく入ってくることで非常に楽しめるのでオススメだ。


余談だが、セロイもグンウォンも“母親”がいない。離婚したのか、死別したのか。過去のシーンや父との会話の中にも母の存在は一切感じられない。家族を描いている韓国ドラマには、強引に口をはさんできたり、息子を甘やかしすぎてしまったり、とにかく強烈な母親がストーリーをかき乱すものなので、かなり不自然に感じてしまう。

しかし、そのおかげでシンプルに父子の復讐劇とセロイのサクセスストーリーとして観ることができ、韓国ドラマの入門編としても入りやすい要因のひとつとなったのだろう。

「六本木クラス」へ期待を込めて



正直、「六本木クラス」の制作が発表されたときの複雑な心境は、放送開始直前の今もなお続いている。これまでの経験から、韓国ドラマのリメイクには内心ガッカリすることが多かったからだ。

ただ、最初から価値を決めつけて否定するようなことはやめようと思う。むしろ、よくぞこの「梨泰院クラス」をリメイクしようと決断してくれたと、制作陣やキャストの心意気に期待したい。

(文・加部/イラスト・@maronmaron2424
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