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【下半期注目】キテレツ魔術師「カンタン・デュピュー監督」のおすすめ作品“3選”

(C)ATELIER DE PRODUCTION - ARTE FRANCE CINEMA - VERSUS PRODUCTION - 2022



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8〜9月にかけて3本のカンタン・デュピュー監督作品が日本で公開・配信される。カンタン・デュピューは、殺人タイヤの話や革ジャンが語りかけてくる話などユニークな作品を作るフランスの監督である。90分以下でB級テイストの映画を作る監督ではあるが、フランス批評家の評判は高い。

特にカイエ・デュ・シネマは彼の作品を評価しており、アロシネに掲載された『地下室のヘンな穴』評では、以下のように星4/5の評価を与え称賛している。

ブルジョワと夫婦の生活様式を風刺的、社会学的に描くのに注力するのではなく、常に数字や美学、知覚といった造形的手法を取っており、その魅力はどん詰まりや心身の乱れ、盲目さに基づいている。これが『地下室のヘンな穴』の特異な美しさである。
アロシネより翻訳引用


今回はそんなカンタン・デュピューの経歴、そして日本公開・配信される『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』『地下室のヘンな穴』『勤務につけ!』の3本について紹介していく。

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カンタン・デュピューの経歴:アーティストから映画監督へ 

■映画監督としての才能感じるヒット作“Flat Beat”



毎回、奇妙な映画を作るカンタン・デュピュー監督。彼は元々エレクトロ・アーティストMr.Oizoとして知られている。1999年に発表した「Flat Beat」が大ヒットしてフレンチ・エレクトロ・シーンを盛り上げた人物である。

「Flat Beat」のミュージックビデオでは、後の映画にも通じるユニークさが垣間見られる。黄色いマスコットキャラクターFlat Ericが、社長室のような空間でレコードをかけながら電話をする。コミカルな旋律に合わせて、ボタンを押す、ダイヤルを回すといったアクションを音色に乗せていく。そして、スピーカーに受話器を当てながらバイブスを上げていく。一度観たら忘れられないミュージックビデオとなっている。

■異様?キテレツ?映画監督としての作品たち



2001年からは、映画監督として作品を作るようになる。

カンタン・デュピューが注目されるようになったのは2010年の『ラバー』であろう。タイヤが念力で次々と人を殺していく作品。異様なテーマでありながらも、タイヤの喜怒哀楽を表現する動きが魅力的である。

例えば、タイヤが念力を習得する場面。ペットボトルを痛ぶりながら轢き潰すタイヤが、ビンを前に轢き潰すことができず、怒りをあらわにする。そして高まるフラストレーションを原動力に、パリンとビンを粉々にする。表情がついていないにもかかわらず、イラついていることが分かる演出は観る者を魅了する。



日本でも彼のキテレツな作品は限定上映ながら紹介されている。2019年に開催された「のむコレ3」では『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』が上映された。この作品は、高い革ジャンを買った男が「他人によく見られたい欲望」に飲まれていく中で、革ジャンが話すようになっていく話である。

「俺は世界で唯一人に着られるジャケットになりたい」と語る革ジャンの願いを叶えるため、男は殺人に手を染めていく。独特な世界観ながら虚栄心について鋭く斬り込んだ傑作であった。

先日行われた第75回カンヌ国際映画祭では、『Fumer fait tousser(タバコをふかすと咳が出る)』が出品された。本作は、自警団タバコ戦隊「タバコ・フォース」がバラバラになったチームの団結を促すため、リーダーが1週間の休養を提案する話とのこと。また本祭で上映された『キャメラを止めるな!』では、娘が仕事する撮影現場の監督役としてカメオ出演している。

さて、今月から日本で観られるカンタン・デュピュー作品はどのような内容になっているのだろうか。

1本目:『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』

もしも、車のトランクから巨大なハエが出てきたらどうしますか?

JAIHOで8月15日(月)より配信されるカンタン・デュピュー作品『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』は「巨大バエ育成物語」である。

親友と共に盗んだ車で走り出す。途中で、トランクを確認すると巨大なハエが現れるのだ。「育成したら大金持ちになるんじゃないか?」と思ったジャン・ギャブ(ダヴィ・マルセ)とマヌ(グレゴワール・ルディッグ)は育成を開始。飛んで逃げられないように、胴体をテープでぐるぐる巻きにする。そして、クッキーで餌付けしようとする。

本作は、夢を持ちつつも明らかに間違った手法を取ってしまう愚かさを風刺した作品である。

例えば、巨大バエを使って大儲けしようと育成するのだが、ただ単に愛でているだけ。芸を本気で覚えさせようとしているようにはみえない。また人前に見せないように基本的には車の中に押し込んでいるものの、2人が少し気を抜くと白昼堂々、晴天の中で育成を始めてしまう。一貫性のない行動が目立つのだ。

本作は、風刺映画として2人の滑稽さをバカにする映画ではない。たとえ愚かな行動であっても、その行動を通じて自分の人生はカッコいいんだと気づく。その美しさにフォーカスを当てているところに注目してほしい。

現実であれば、彼らの取る行動は成功に結びつかないだろう。しかし、映画はフィクションだ。奇跡を起こすことで、人生に迷う人々に光を与えるのではないか?カンタン・デュピューの優しい世界に涙することだろう。

■『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』作品情報


監督:
カンタン・デュピュー

出演:ダヴィ・マルセ、グレゴワール・ルディッグ、アデル・エグザルコプロス、インディア・ヘア

>>>8月15日(月)よりJAIHOにて配信


2本目:『地下室のヘンな穴』



今年のベルリン国際映画祭で上映された『地下室のヘンな穴』が、9月2日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開することが決まった。

「そこに入ると12時間進んで、3日若返る。」

そんな不思議な穴がある家へ引っ越してきた夫婦。危ないからと止る夫アラン(アラン・シャバ)。しかし妻のマリー(レア・ドリュッケール)は穴に取り憑かれていく。



12時間進むが3日しか若返らない微妙な性能の穴。冷静に考えると、1年若返ろうとしようものなら122回穴に入る必要があり、それは約2ヶ月もの時間を進めることとなる。ひたすら穴に入り続ける労力、それに対する微々たる成果。あまりにもメリットがない穴ではあるが「12時間」という区切られた時間により醸し出される魔力。それに引き摺り込まれ中毒症状を起こしていく怖さが描かれていく。「少しぐらいなら入っても問題ないのでは?」が命取りになる状況は我々の日常にも潜んでいる。それだけに背筋が凍る。

また穴に入ることで精神はそのままに、肉体は過去へ、時間は未来へと進んでいく。若返りは与えられた肉体からの脱出であり、なりたい自分への渇望を癒す。しかし、若返りは3つの時間軸により肉体と精神が引き裂かれることでもあるため負荷が高いのは明白である。『地下室のヘンな穴』はその代償をコミカルに考察した作品といえる。



本作では穴に取り憑かれる夫婦の横で、肉体改造に取り憑かれる男とその妻の物語が進行する。一見、関係ないエピソードに見えるが、時間概念により肉体改造する者による家庭破壊と対の関係になっている。そして物理的に肉体改造する物語も同様、欲望が増幅されて崩壊に至るプロセスが描かれており、より現実に寄り添った内容となっているのだ。

通常の映画であれば2時間かけて壮大な物語になりそうなところを74分でまとめてしまうカンタン・デュピューの手腕に注目である。

■『地下室のヘンな穴』作品情報


監督:
カンタン・デュピュー

出演:アラン・シャバ、レア・ドリュッケール、ブノワ・マジメル、アナイス・ドゥムースティエ

>>>9月2日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開


3本目:『勤務につけ!』


JAIHOで9月14日(水)より配信される『勤務につけ!』は異様なミステリーだ。

殺人事件の取り調べ。早く帰りたいルイ・フュガン(グレゴワール・リュディグ)は、「もう遅いし取り調べは明日にしよう」、「もう腹ペコだ」とビュロン(ブノワ・ポールヴールド)を説得するが、なかなか帰してくれない。そんな中、ビュロンに急用の連絡が入る。一旦解散かと思うも束の間、何も事情を知らない男を見張りとして部屋に置きフュガンを帰らせない。

ビュロンが離席している間に、ある事件が起きてしまう。このままだと、別の事件の犯人に仕立て上げられてしまう。なんとか隠蔽したところにビュロンが戻ってきて、地獄の取り調べが再開する。

本作は修羅場映画の本質を探る作品となっている。この手の映画は次々と修羅場が押し寄せてきて主人公は不幸に陥る。しかし修羅場を連鎖させるにあたって、ある種の「幸運」が発生するのではないだろうか。カンタン・デュピュー監督は、怒涛の超展開によって不幸中の幸いを発生させていき、修羅場映画の可能性を探っていた。想像のはるか斜めをいくクライマックスに注目である。

Konbiniのインタビュー動画によれば、『勤務につけ!』はフィリップ・ド・ブロカ監督『おかしなおかしな大冒険』の影響を受けているとのこと。『おかしなおかしな大冒険』は冒険小説家の男が女子大生に恋をし、自身の小説の中に彼女を登場させる話。『勤務につけ!』では、殺人事件の回想シーンに別の事件の残像が侵食する演出がある。彼は『リアリティ』でも虚実織り交ぜた演出をしていただけに、『おかしなおかしな大冒険』とあわせて観るとカンタン・デュピュー監督作品の魅力が深まるといえよう。

ちなみに、本作では『キャメラを止めるな!』のミシェル・アザナヴィシウス監督が警察官役としてカメオ出演している。

■『勤務につけ!』作品情報


監督:
カンタン・デュピュー

出演:ブノワ・ポールヴールド、グレゴワール・ルディッグ、アナイス・ドゥムースティエ、オレールサン

9月14日(水)よりJAIHOにて配信


(文:CHE BUNBUN)

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