『アイ・アム まきもと』一家に一人の牧本を!阿部サダヲ×水田伸生が創出する”感動”
損か、得か。
人はどうしても自分がかわいい生き物で、損得を迫られたら否応なく得に手を伸ばしてしまうもの。できるだけ大変な思いはしたくないし、疲れたくないし、面倒ごとは勘弁。
だけど、そんな損得勘定を排したようなキャラクターが爆誕した。
映画『アイ・アム まきもと』で阿部サダヲが演じた主人公・牧本壮。市役所の「おみおくり係」にたった一人属する彼は、身寄りがないまま孤独死してしまった方たちの弔いに手を貸している。時にはそれが”度を越す”こともあって……。
映画『舞妓Haaaan!!!』『謝罪の王様』でもタッグを組んできた阿部サダヲ×水田伸生。彼らが現代に届けようとしている”感動”に迫りたい。
不器用で猪突猛進、憎みきれない牧本
牧本は、ハッキリ言って不器用だ。なんとなく、適当に、こんなもんかの精神で済ませてしまえば事足りる場面でも、彼にはスルーできない。小さな町の小さな市役所に構えられた「おみおくり係」は、いわば牧本のためにつくられた仕事。彼がせっせと自分の城で従事している仕事は、身寄りなく孤独死してしまった方の”その後のお手伝い”をすることだった。
一般的には、無縁仏として合同墓地へ納骨するのが流れである。しかし、牧本は実際に亡くなった方の自宅まで踏み込み、遺品を整理し、自腹で葬儀をあげ(参列するのは牧本ひとり)、もしかしたら気が変わるかもしれない遺族からの電話を待ち続けるのだ。
どれだけ、遠い関係の遺族が「合同墓地へ」と希望しても、牧本は意に介さない。お骨を引き取りたいと気変わりする可能性を捨てきれず、あとは納骨するだけの骨箱がデスクの下にたまっていく。
こんなに不器用な男は、見たことがない。こうと決めたら頑として動かず、人の顔色を見て気持ちを察することも大の苦手。わからないことはわかるまで質問し、行動し続ける猪突猛進さーー実際にこんな男が身近にいたら疲れるだろうが、それでも、どこか憎めないと思ってしまうのだ。
近年では、映画『死刑にいたる病』やNHKドラマ「空白を満たしなさい」などで、狂気的な役柄を演じることが多かった阿部サダヲ。今作では久々に(?)阿部サダヲ×水田伸生監督のポップさを感じとれる。
阿部サダヲ×水田伸生監督タッグ最新作
『舞妓Haaaan!!!』『なくもんか』『謝罪の王様』でもタッグを組んできた阿部サダヲ×水田伸生監督。今作は、そんな2人がまたもや手をつなぐ最新作である。「阿部サダヲさんは、私が最も信頼する俳優のひとりです」とコメントを寄せた水田監督は、今回、阿部サダヲ特有の「ゴム毬のような」演技にくわえ「継ぎ目のないシームレス演技を要求した」とのこと。
良い意味で爆発力があり、どこへ飛んでいってしまうかわからない不安定さもあわせ持っている阿部サダヲの演技を、的確に言い表した言葉である。
観客をあっちへ、こっちへと引っぱりまわすアトラクション的な彼の表現は、本作でも健在。さらに、水田監督の言う「シームレスさ」が、爆発力や不安定さに”予測不能な面白さ”さえもプラスする。
この2人だからこそ創出できる笑いに、試写会場も沸いていた。大いに笑い、そして損得や人としての美徳・品格について考えさせられる約2時間。最後には奇跡が待っている。
「必ず泣ける」「奇跡の結末」なんて手垢にまみれた言葉は使いたくはないが、本作のラストシーンを見ながら、筆者はただただ静かに押し寄せてくる感動に身を任せるしかなかった。
映画『アイ・アム まきもと』は2022年9月30日公開。ぜひ劇場で、その感動の真価を見届けてほしい。
(文・北村有)
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(C)2022 映画『アイ・アム まきもと』製作委員会