映画コラム

REGULAR

2022年10月23日

『RRR』主人公は2人だが1+1は2じゃない。オレたちは1+1で200だ!10倍だぞ10倍!どころではない100倍付けの面白さ

『RRR』主人公は2人だが1+1は2じゃない。オレたちは1+1で200だ!10倍だぞ10倍!どころではない100倍付けの面白さ


っていうか、マジで何を食ったらあんなアイデア出てくるんですか?



『バーフバリ』での弓矢複数射撃や仁王立ち水牛移動、迫りくるチキチキ殺人カーなど、ラージャマウリは文字通り想像を超えるアクションをこれでもかと提示してみせる。ネタバレになるといけないので詳細は省くが、本作も超弩級のアクションシーンが「そんなに出しちゃって、次回作のネタ大丈夫すか?」と心配になるほど盛り込まれている。

アクションシーンを撮る技法は、それこそ地層のように堆積し、アーカイブされている。いくらCGやVFXが発達したとて、基本的には腕が2本、足が2本ある人間を動かすのだから、人間離れしたアクションだとしても限界がある。歴史があるので新しいものを作り出すのは難しいし、既存のアクションをブラッシュアップさせるしかできなかったとしても、称賛されるべきだろう。

しかし、ラージャマウリは「その手があったか」というよりは「バカじゃねぇのwww」と思わず草を生やしてしまうほどのアクションを、当たり前のようにブチ込んでくる。いったい、何を食ったらあんなアイデアが出るのだろうか。

彼はアクションシーンを作るとき、まず頭の中にあるイメージをコンセプトアーティストに伝え、それを描きだしてもらうそうだ。そして最初に「ヒロイック・フレーム」と呼ばれるショットを決める。「これぞ」というキメのショットからシーンを構築していることは、鑑賞済みの方であれば大いに納得できるだろう。確かにラージャマウリのアクションには、ヒロイックな瞬間が必ずある。だが、納得はできても「なぜあんなに頭おかしい(褒め言葉です)アイデアが出てくるのか」に関しては理解ができない。

と書いたが、理解をする必要はないのだろう。ラージャマウリが放ってみせるアクションシーンを笑いながら、時には拳を握りながら楽しめる。それだけで幸福というものだ。

顔で笑って背中で泣いて、粋で鯔背な傑作映画



『バーフバリ』と同じく『RRR』もまた、あまりのトゥーマッチさに大いに笑える、楽しい作品になっている。悲壮感など一切感じさせず、驚くべき疾走感と後味の良さで映画を締めてみせる。おそらく、字幕なしでも楽しめるはずだ。本作は言語の壁を軽々と超えている。

ときに、インドには複数の映画界が存在する。正確には、言語ごとに分かれていて、最大のものはヒンディー語映画で、約4億人の市場を有しており、テルグ語やタミル語映画がそれらに次ぐマーケットとなっている。

ヒンディー語以外の言語で制作された映画は、全国的に流通することはそれほどなかった。ラージャマウリはテルグ語映画界を本拠地としているが、『バーフバリ 王の凱旋』をはじめとして、多言語制作を試み、全国でヒットさせることに成功した。

だが、ラージャマウリのフッドであるテルグ語映画界とて一枚岩ではない。2014年にはテルグ語が話されるアーンドラ・プラデーシュ州からテランガーナ地方が分離している。両地方は言語こそ同じものの、異なる歴史をもっており、長い間再分離運動が行われていた。

映画においては、分離の前後に当該地方にかかる映画の封切りが延期されたり、撮影時に分離派運動派が妨害行動を行ったりといった出来事も起こっていた。

ラージャマウリは分離について、同じ言語を共有する兄弟同士が反目しあったと語っている。そこで、「我々は分割されることはなく、我々はひとつである」といった物語を作りたいと考えていたそうだ。

『RRR』もまた、境遇のまったく異なる2人の主人公が出会い、親友になる。2人のヒーローは分離して啀み合うアーンドラ人、テランガーナ人の英雄だ。ラージャマウリは派手なアクションシーンと豪華な歌やダンスの裏側に、インド映画界や州の分離によって啀み合う人々など、現実に起こっている問題を盛り込み、答えを提示してみせる。

ラージャマウリの作品においては、とかくアクションシーンにフォーカスが当たりがちだが、そのシーンに実質的な重みを与えているのは、表出している明るさの影に隠れた悲しみだったり、抑圧だったり、分かり合うことのできないもどかしさであるような気がしてならない。

映画はとんでもない明るさでラストまで走り切る。だが、明るさの裏には悲しみや辛い出来事が見えない程度にペーストされている。顔で笑って背中で泣いて、筆者はここにラージャマウリの粋を見る。

『RRR』は単なるハイテンションバカ映画ではない。それは『バーフバリ』と同様に、丁寧に紡がれた神話ともいえる物語である。

(文:加藤広大)


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