映画ビジネスコラム

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2022年11月10日

<解説>Netflix広告付きプラン導入の背景とは?使い勝手やメリットを検証

<解説>Netflix広告付きプラン導入の背景とは?使い勝手やメリットを検証


以前から報じられていたNetflixの広告付き低価格コースが、11月4日(金)から日本でも始まりました。

これまでNetflixは、テレビ放送とは異なる視聴体験を追求し、広告をつけずに月額会員ベースのビジネスモデルを貫いてきましたが、会員数が減少に転じたことで広告付きのプランの導入が決定しました。決定は今年のことで、一年足らずでの実装となる異例のスピードでの実施です。

この決定の背景、そして広告付きプランはユーザーにとって使い勝手が良いのか、今後の動画配信業界全体にどんな影響を与えることになるのか、考えてみたいと思います。

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アメリカの競合他社は広告付きプランを導入している

今回Netflixが広告付きプランの導入に踏み切った背景は、同社の会員数が減少に転じたことがきっかけです。2022年第1四半期(1~3月)に会員数が20万人減少、第2四半期(4〜6月)は97万人減と発表されています。この結果を受けてビジネスモデルの転換を迫られたわけです。

ディズニープラスやHBO Maxなど、競合他社が台頭し、加入者獲得争奪戦が激化。さらに昨今、アメリカでは強烈なインフレで家計が圧迫されていることもあり、多少視聴体験を損ねても月々の支払いを抑えたいといと考えるユーザーが増えているということでしょう。

一方で競合他社の動きとして、例えばディズニープラスも今年12月に広告つきプランの導入を決定しています(日本導入は2023年を予定)。アメリカの配信サービスの多くは、すでに広告つきの低価格プランを導入済みです。ディズニーはディズニープラスの他、Hulu(日本のHuluとは別物)を展開しており、以前から広告つきと広告なしのプランを展開。HBO MaxやParamound+、NBCユニバーサルのピーコックも同様に低価格広告のプランを持っています。

これだけ配信サービスが増えてくると、複数契約する人もいるわけですが、全部に高い料金払い続けるのは厳しいでしょう。いくつかのサービスを解約しようかと考えた際に、少し安いプランであれば使い続ける可能性が高まります。複数のサービスを契約する時代には、解約を防ぐ手立てとして低価格のオプションが有効だといえます。

Netlixは広告で儲かる?

低価格プラン導入後、既存ユーザーのプラン変更によって結局Netflixは利益を減らしてしまうのでは、と考える人もいると思います。ただ、低価格のプランは必ずしも利益を減らすとは限りません。

オリコンが動画配信利用者を対象に調査を行ったところ「低価格の広告プランに乗り換えてもいい」と解答したのは過半数の53%だったそうです。もし過半数がプランをダウングレードしたら、相当な損失が出るように思えます。しかし、広告付きなら広告主からもお金が入ってくるため、場合によっては売上が増加する可能性もあります。

一部の報道によると、Netflixの広告枠は結構高額でライバルのHBO MAXよりも高く、スーパーボウルを超えるCPM(広告表示1000回当たりの広告料)だとか。

Netflixは、ビッグデータよるユーザーそれそれの嗜好に合わせたレコメンデーションを行えることを自慢にしている会社です。このデータを広告展開にも利用できれば、高い広告効果が見込めるでしょう。ただ最初の段階では、パーソナライゼーションによるターゲティング広告は実施せず、広告主が出稿するコンテンツを選ぶ形式で行くようです。2023年の第1四半期にターゲティング広告を提供する予定という報道も一部で出ています。

Business Insiderのレポートによると、このような「広告型動画配信サービス」は成長市場と見込まれているようで、Netflixとしてもこのタイミングで導入してユーザーを囲い込まないと、競争に置いていかれるという気持ちもあったでしょう。

CM前のアイキャッチを無視した箇所に広告が挿入される

さて、筆者はさっそく広告つきプランを利用してみました。

日本での価格は毎月790円。ベーシックプランよりも200円安く、機能制限としてはダウンロード視聴と再生速度の変更ができません。つまり、その是非を巡って近年議論されている「倍速視聴」はこのプランでは不可能なのです。それ以外は、990円のベーシックプランと同じ機能となります。

さて、広告はどんなものでしょうか。

広告はコンテンツの前にさっそく入りました。パナソニックやグッチのハイレベルなCMが流れます。現状、かなり高い広告費が設定されているようなので、クオリティが低いCMは流れていない印象です。広告といえども結構リッチな映像体験ができます。かなり厳格に広告審査を行っていると思われます。

広告は、動画の最中にも挿入されます。プログレスバーをよく見てみるとオレンジ色の部分があり、広告が入るタイミングを示しています。


とりあえず、いくつかの韓国ドラマとアメリカのドラマ、Netflixオリジナルの日本のドラマ、アニメなどを視聴したら、どれも広告が入りました。広告の入るタイミングは一定ではないようで、コンテンツごとに異なる時間帯に挿入されました。YouTubeと同様でいきなり予告なくブツッと広告が入ります。

またYouTubeのように一定時間観たらスキップできるような機能はなく、1回1~2分くらいの広告を全部観ないといけません。さらに広告再生中にブラウザで他のタブを開くと、ご丁寧に広告が一時停止する仕組みになっているため、全部観ないと先に進みません。コンテンツの途中に挿入されるタイミングは一定の決まった場所はなく、ランダムにシステムで挿入されるようです。同じ作品を2回観て、2回とも別々の時間帯に広告が挿入されました。

例えば日本のテレビアニメは、CMに入る前にアイキャッチが入る作品がありますが、Netflixの広告はタイミングを無視して挿入されます。テレビ番組の工夫は「視聴者の鑑賞体験をなるべく損なわないように」という作り手の意図です。しかし、現状のNetflixのシステムは視聴における快適さを勘案していないようです。もう少し、作り手の意図を尊重した形で広告展開してもらえるとありがたいなと思います。

ちなみに、現状では広告が挿入される作品と挿入されない作品があるようです。報道によると「一部の新作やキッズ向けの作品には広告は挿入されない」とNetflixが解答しているようです。

結局、ユーザーのメリットは?

低価格広告つきプランは、配信複数契約時代には有力な選択肢でしょう。また「このプラットフォームのオリジナル作品だけ観たい」といった需要がある場合、メインに使用するサービス以外は広告付きの安いプランで保持しておくという選択肢を選べるようになります。

今後、広告付きモデルが主流になった場合、動画配信の人気コンテンツの傾向が変わる可能性もあります。例えば、芸術的に格調高い『ローマ』や『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のような作品を広告ありで観たいと考える人は少ないでしょう。広告付きでも観られるカジュアルな作品に視聴数が集まれば、人気作品の傾向にも変化が起きると想像できます。

結果的に、Netflixの企画の方向性も変わっていくかもしれません。一方で広告で儲かるようになれば、潤沢になった制作資金によってさらなる意欲的な作品が作られるようになる可能性だってあります。

現状、ベーシックプランと広告付きのプランは価格差が200円だけであるため、大幅に安い印象ではありません。上述したオリコン調査でも広告付きプランを「利用したい」と答えた人のうち「4~6割(半額)程度安くなったら利用したい」が最多60%という結果だったため、新プランがどこまで広がるのかは未知数です。

かなり急なローンチという印象のため、運用しながらどんどん改良されていくと思われます。今のところ、他にメインで利用している配信サービスがある人は、広告付きに乗り換えてみるのがいいのではないでしょうか。

(文:杉本穂高)

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