『もっと超越した所へ。』菊池風磨の“ウザい”クズ演技が炸裂!
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2022年10月14日(金)より公開中の映画『もっと超越した所へ。』。劇作家の根本宗子により2015年に上演された舞台『もっと超越した所へ。』を映画化したのが本作である。
「ヒモストリーマー」「ノリで生きるフリーター」「プライドの高い落ちぶれた俳優」「あざと可愛いボンボン」といったクズ男を引き寄せてしまう4人の女性たちが、悩みながらも自分たちなりのハッピーエンドを模索していく物語。
本作は、新型コロナの感染が拡大した2020年冬と、それから1年半前の2018年夏が舞台である。そこで明らかになるのは、クズ男は何年経ってもクズ男のままであるという点と、そんな男と付き合う女性もまた、依然としてクズ男にハマる沼から抜け出せていない点である。
女性の前で威張っていたり、自分のことしか考えてなかったり、男たちは揃いも揃ってクズである。だがそんな男たちでも、思わず女性が惹かれてしまうような良い面も持ち合わせているのだ。ここから、どんなに痛い目にあっても人間はそう簡単に変われない。そのうえで、欠点も誰かにとっては魅力であるのだというメッセージを受け取った。
クズ男の中でも、“ウザさ”が一際目立っていたのは、朝井怜人である。怜人は、前田敦子演じる主人公・岡崎真知子の恋人。突然真知子の家に住み始め、ロクに働かずにSNSで配信ばかりをしているヒモ男だ。
そんな怜人役を演じたのは、Sexy Zoneの菊池風磨。最近はバラエティで体を張ったり、MCを務めたりと、幅広い活躍を見せている。原作・脚本を務めた根本は、キャスティングの際、菊池がバラエティ番組で喋っている姿が怜人と重なり、オファーに至ったという(※)。
“人としてどうなの?”とたびたび思わせる怜人の言動が、菊池のノリのいいテンション、そして整ったルックスと見事にマッチして、超越しそうなくらいのウザさを感じられた。
本記事では、鑑賞時に感じた怜人の“ウザさ”について、菊池の演技と絡めて綴ってみたい。
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※本記事では『もっと超越した所へ。』の一部ストーリーに触れています。未鑑賞の方はご注意ください。
ウザさ1:相手を翻弄させる言動
怜人の初登場は、真知子と再会するシーンだ。2人は中学の頃の同級生であり、バンドマン志望の怜人の動画配信を見て、SNS上で真知子が声をかけたことで交流が始まった。
2人が再開したきっかけは、怜人が唐突に真知子に電話をかけたからである。自撮り棒片手にふにゃっとした笑顔で真知子の元に駆け寄る姿は、こちらまで笑顔になってしまうような可愛さがあった。
会って早々、「貸ーして?」「荷物持ってあげるよ」と真知子の荷物を持って「しゅっぱーつ!」と無邪気に真知子の家へと向かうのだからすごい。「ねえねえ今日は何を作るの?」「俺普通に好きだったんだよねー」「真知子ちゃんのこと」なんてさらっと言って、相手を戸惑わせる。自分勝手に会話を進めていく様子や、その勝手さに気がついてない様子が無神経で腹立たしい。…はずなのだが、菊池に言われると思わずキュンとしてしまう自分もいて、そんな自分にも腹が立つ。
家に到着すると、いきなり「ちょっと横になる?」と全く脈絡のない問いを平然と飛ばしてくる。「ちょっとって何?」「どういう立場で聞いてる?」「あなたが横になりたいだけでは?」とスクリーンの中の怜人にツッコミたくなった。疑問系にすることにより、最終的な決定権をこちらに委ねてくるところが更に腹立たしい。
真知子が困惑していると「やだ?」と上目遣いで、甘えた声で尋ねる。そこが、ずるい。確固たる意志を持っていたとしても、簡単に揺らいでしまうような破壊力があった。
菊池が演じた怜人は、次々と突拍子もないことを口にし、相手を戸惑わせる。断るどころか考える隙すら相手に与えずに、相手を自分のペースに巻き込んでしまうからずるい。この空気作りや、相手に畳み掛けるペース配分が見事だった。息をするように、甘い声で、相手を喜ばせる言葉を口にする。
こうして穏やかな真知子の生活に、怜人が強引に転がり込んできたのだった。
ウザさ2:恩着せがましいヒモ男
次にカメラが映したのは、怜人が真知子の家で暮らし始めてから2ヶ月経った頃。せっせと衣装制作に励んでいる真知子と、ゴロゴロ漫画を読んでいる怜人の、対照的な2人が同じ空間にいた。相手が仕事をしていることに負い目を感じない様子で、「ご飯買ってこようか?」と真知子に提案した。
驚いたのは、真知子が「ありがとう」と言いながら、申し訳なさそうに財布を渡した描写である。真知子がお金を出すのが当たり前になっている2人の関係に驚愕した。
だがその日はホワイトデーだったため「ホワイトデーだから、僕が買ってあげるよ、お弁当」と自信満々に宣言。その後も「お弁当買ってあげる」「お弁当買ってきてあげまーす!」「じゃあ俺オリジン行ってくるから」と、家賃どころか食費さえ真知子が普通に払っているのにも関わらず、誇らしげな態度で主張してくる。「あげる」を連呼するところが、恩着せがましい。
“おつかい配信”と称して配信しながら帰宅したり、「オリジンで一番高いお弁当買ってきてあげましたー!」「リンゴジュースも買ってきてあげましたー。これも一番高いやつです!」と、自慢げに話したり。とにかく、怜人のしつこい態度は終始ウザかった。菊池の絶妙なテンションも相まって余計に腹が立つ。
実は怜人は、そのお金すら自分で稼いでなかった。怜人は、真知子の家に転がる前も、当時付き合っていた彼女の家で生活していた。怜人に嫌気が差した元カノは、生活費を払い続けるのを条件に、怜人を家から追い出したのだった。そして真知子と暮らしている今も、元カノからお金を受け取り続けている。
怜人は、天性のヒモ男なのだ。だから、無条件に何かをしてもらうことが当たり前にできる。逆に相手に何かをした時、素晴らしいことをしたと自分で自分を讃えるのだ。
最初は戸惑いを見せていた真知子だが、数ヶ月一緒に暮らすことでその生活に慣れてしまっていた。相手の常識を簡単に覆してしまうような影響力が、ヒモ男にはある。
ウザさ3:束縛&逆ギレ男
怜人は、彼女への束縛がひどい。真知子と付き合う前、元カノに対して、男性が来る集まりに参加するのはもちろん、オフショルダーを着るのも禁じていた。「エロい目で見られたいから着てる」など、とんでもない言いがかりをつけて、彼女の行動や服装を制限するのだった。とはいえ自分は、平然と視聴者とのオフ会に行っているのだから、彼女の行動に口を挟む理由などないはずだ。
「家賃も払わないでここずっといるんだからそんな服とかにいちいち口出す権利なくない?」と彼女が真っ当なことを言うと、「掃除してあげたり、ご飯作ってあげたりしてんじゃん」と逆ギレする。
元カノからお金を受け取っていることを発見した真知子が、彼を問い詰めた時も同じだった。恥じる様子を見せず、「別に良くない?」と開き直った。そのうえで「真知子が一人で辛そうで心配だったからここに住んだ」ととんでもないことを言い出す。
観ていて不快だったのは、怜人のキレ方である。いつもの優しい声とは一変して、怖い口調で怒り出す。力で相手を圧倒するかのように、命令口調で話したり、声のボリュームを上げたりするのだった。そのやり方が汚くて、クズさが出ていた描写である。
ウザさ4:根性なし
これまで散々怜人のウザさを綴ってきたが、一番衝撃的だったのは根性なしの性格である。元カノにも、真知子にも、女性を下に見ているかの勢いで怒鳴るが、相手が負けじとそれ以上の威力で責め続けると、途端に弱くなる。ついには、泣き出し、相手にすがる。その豹変ぶりには思わず笑ってしまった。
「泣いてないで早く出てってよ!」と真知子が叫ぶと、大人しくその言葉に従い、荷造りを始めるのだった。別れ際、「ずっと大好きだったよ」とつぶやいた時の切ない表情や掠れた声色など、全てがずるかった。こうやってたくさんの女性を沼らせてきたのだなと。
“菊池風磨”の片鱗が見られた怜人
インタビューでは、怜人を演じることで「自分と真逆の人の生態を知ることができた」と語っていた菊池(※)。性格は確かに怜人とは違う(と、信じたい)。だが、怜人からはたびたび“菊池風磨”の片鱗が見られた。
真知子に対する優しい口調は、ファンに甘い言葉をかける時の声であったし、イラッとするようなテンションの高さは、メンバーの松島聡やマリウス葉、「ジャにのちゃんねる」の中丸雄一と絡む時のノリと通ずるものがあった。そこが懐かしくて、むしろよかったし怜人に親近感を覚えた部分でもある。
薄っぺらい言葉や信じられない態度に怒ったり呆れたりする一方で、完全に離れることができなかったのは、それでも信じてみたいと感じる彼の話し方や、甘いルックスに惑わされてしまうからだろう。“ただのクズ男”で終わらせずに、自らが持つ“人を惹きつける力”を発揮することで、存分に怜人を体現していたのが見事であった。
「イヤな感じを、ちゃんとスカッとするぐらい演じてくれて、素晴らしかった」(根本宗子)、「予想以上に面白くてチャーミングな怜人」(近藤多聞プロデューサー)、とスタッフからも高評価の演技である(※)。
ウザいが、どこか憎めない愛おしさもある怜人。彼の発言に随時ツッコミを入れながら映画を鑑賞するのも、楽しみ方のひとつである。
「向き合うきっかけ」になる作品
本作に登場する男性は、誰もが絶妙にクズで、観ていると段々と腹が立ってくる。そのジワジワくる男性への怒りを、女性陣がしっかりと叫んでくれたので痛快だ。
だが男性を責めると同時に、女性たちは男性側が100%悪者だったわけではないと自覚している。自分の非を認めたうえで、「超越した所」へ進もうと連帯するのだった。
10月16日に行われた公開記念舞台挨拶で、菊池は本作のことを「自分や相手と向き合うきっかけになる作品」と述べていた。劇中に、弱さも強さも兼ね備えたさまざまな人間が登場するからだろう。自分や、かつて好きだったあの人の一部を重ねて共感したり、やっぱり受け入れられなかったりするのだ。
『もっと超越した所へ。』は、そのままの自分を肯定してくれる一方で、変わりたい人の背中を押してくれる。まさに“自分だけのハッピーエンド”のヒントを提供してくれる作品であった。本作を観れば、きっと「超越した所」へ連れて行かれるはずである。
※参考書籍:『もっと超越した所へ。』劇場用プログラム
(文:きどみ)
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(C)2022「もっと超越した所へ。」製作委員会