(C)2022「かがみの孤城」製作委員会

『かがみの孤城』の原恵一監督をもっと知りたい!実写からアニメまでおすすめ“5選”

(C)2022「かがみの孤城」製作委員会
©2022「かがみの孤城」製作委員会
▶︎『かがみの孤城』画像を見る

12月23日(金)より劇場アニメ『かがみの孤城』が公開中だ。

辻村深月の小説を原作とした本作は、時に穏やかに、時に鮮烈に心情を綴る、細やかな演出が見所のひとつ。学校に居場所をなくして部屋に閉じこもっていた中学1年生の少女が、鏡の世界の城で6人の少年少女と出会い交流をしていく過程が優しく、はたまたシビアにも描かれていた。特に小中高生の若い方に、ぜひ劇場で観てほしいと心から願う。

監督は『ドラえもん』『エスパー魔美』『クレヨンしんちゃん』の劇場版でも知られる原恵一。特に『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』と『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』の2作はアニメ映画史、いや日本映画史に名を残す、大人が感涙する大傑作として名高い。

そんな原恵一監督はアニメ映画監督でありながら、実写作品からの影響も強い作家だ。劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズから卒業した後は特に「人間の複雑な心理を深く鋭く描く」と同時に、「なんでもないようなことをここまで感動的にできるのか!」と驚ける表現に感動があるのだ。その作品群の特徴を記しつつ、具体的な理由を記していこう。

[※本記事は広告リンクを含みます。]

『河童のクゥと夏休み』(2007)

(C) 2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会

木暮正夫の児童文学が原作で、人間ではない存在と出会い友情を育む様から『E.T.』を思い出す方が多いだろう。そちらとは異なり、家族には早々に正体がバレてしまうも受け入れられるのだが、その後は過剰なマスコミの追及や付和雷同する市井の人々の問題が痛烈に描かれていく。子どもも観る作品ながら冒頭にはっきりと「流血」のシーンがあるなど、残酷さから全く逃げていない作品なのだ。

(C) 2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会

とはいえ、物語の根底に流れているのはマスコミ批判でも人間の悪意などではなく、良くも悪いも含めた「人間はこういう複雑な存在なんだ」という、ある種の冷徹な視線、だからこその救いだ。自分の存在が家族に迷惑をかけていると自責の念に囚われ始める河童のクゥは、さらに辛い現実に遭遇する。

(C) 2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会

そこから、人間は時には誰かを激しく傷つけることもあるし、簡単には解決できない問題も浮上してしまう。そうなってしまった時に、どうすればいいのだろうか?その答えに至るまでの、クゥと家族それぞれの細やかな言動の変化にも、ぜひ注目してほしい。

▶︎『河童のクゥと夏休み』配信サービス一覧はこちら

『カラフル』(2010)

(C)2010 森絵都/「カラフル」製作委員会

森絵都の小説が原作で、一度死んだはずの少年が生まれ変わってもう一度人生をやり直すチャンスを与えられるという物語だ。本作は中学生という多感な年頃だからこそ、特に「性」に対して表現の鋭さがものすごい

援助交際をしている女の子からとんでもないことを聞かされた時の「一瞬嬉しく思ってしまう」「でも嫌だ」が入れ替わる表情。不倫をしていた母親への嫌悪感をとある「食べ物」で表現する様などなど……実写映画らしい演出を、事細かにアニメで描かいたことで、良い意味でグサグサと胸に刺さるような辛い感情が表現されていたのだ。

(C)2010 森絵都/「カラフル」製作委員会

勉強もスポーツも苦手でコンプレックスだらけだった主人公には、やがてかけがえのない友達ができて、共に同じ高校を目指すようになっていく。その友達の優しさが「コンビニで買った肉まんを分けてあげる時に、ちょっと指を動かして大きめに分けてあげる」様で表現されているのが素晴らしい。さらに「みんなで鍋を食べながら話す」という、それだけを取り出せば地味なシーンが、これ以上なくエモーショナルなことも、演出の力が絶大な証拠だろう。

『はじまりのみち』(2013)

(C)2013「はじまりのみち」製作委員会

映画『二十四の瞳』などで知られる木下恵介監督の第二次世界大戦時の実話をもとに、原恵一が初めて実写映画の監督を手がけた作品だ。その内容を一行で言えば「母親をリヤカーを乗せて山道を行く」だ。そこだけを取り出せば面白くもなんともなさそうなのにこれだけ感動させられるのは、やはり「なんでもないようなこと」に対する原監督の手腕の確かさにある。特に「息子が母親の顔を拭いてあげる」という、ただそれだけのシーンに、これ以上のないほどの愛情が伝わってきたのだから。


木下監督への敬愛も溢れんばかりにあり、特に『陸軍』はかなり長い尺を取って引用される。どれだけ見事な演出がされているか、なぜこの映画を引用したのか、なぜこれだけ長い時間に渡って実際に観客へ見せたのか、その理由は「観ればわかる」とだけ言っておこう。

(C)2013「はじまりのみち」製作委員会

木下監督作品を観ていなくても問題なく楽しめる作品であるし、『この世界の片隅に』にも通ずる、市井の人々が戦争に翻弄されながらも生きていく、優しさと残酷さの両方を示した映画を観たい方にも大いにおすすめしたい。

▶︎『はじまりのみち』配信サービスはこちら

『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(2015)

(C)2014-2015 杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会

杉浦日向子による漫画を原作とした、葛飾北斎の娘・葛飾応為を主人公とした作品だ。とはいえ、リアルな伝記ものというわけではなく、劇中では「妖怪」の影がちらついていたり、半ばファンタジーめいた表現もあり、何よりすぐには咀嚼できない「ちょっと不思議」なエピソードが連続する、一風変わった作風となっている。性行為をほのめかすシーンもあり、どちらかといえば大人向けの作品と言っていいだろう。(とはいえ、子どもが見ても問題のないようにも配慮はされている)

(C)2014-2015 杉浦日向子・MS.HS/「百日紅」製作委員会

演出での見どころは、主人公の妹である幼い少女の、「目が見えない」がゆえの表現の数々。盲目であることはその表情や一挙一動から言葉にしなくても伝わる上、(矛盾した表現のようにも思えるかもしれないが)目が見えない彼女の想像力を「見せる」ようだったのだから。さらには「暗闇」の表現も鮮烈で、シーンごとにキャラクターの恐怖や孤独を見事に表現していた。

「親父と娘で筆二本、箸四本さえありゃあどこに転んだって食っていくさ」というセリフに表れている通りの、たくましい生き様に勇気や希望をもらえる方も多いだろう。

バースデー・ワンダーランド(2019)

(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会

柏葉幸子の小説を原作とした作品で、小学生の少女が異世界から救世主として招かれて冒険を繰り広げる内容だ。正直に申し上げれば、原恵一監督の映画作品の中では、もっとも評価の低い作品ではある。

(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会

劇中のファンタジー世界が「水が不足している」設定だったはずなのに、たっぷりある綺麗な水の中に飛び込んでしまうという矛盾があったり、終盤で「世界の残酷さ」を示す様がいくらなんでも極端に思えてしまうなど、作劇上の問題は確かにある。全体的に良くも悪くも危機感に乏しく、冒険活劇というよりも、のんびりと旅をするロードムービー的な内容でテンポもゆったりめだったことも、賛否を呼ぶ理由だったのだろう。

(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会

だが、筆者個人は本作が好きだ。何より、自分に自信が持てない少女と、自由奔放な叔母との関係性は面白いし尊い。あまり能動的に行動しないために好感が持てないという意見が多かった主人公も、むしろ「やっと行動」をすること自体に重要な意味があるのではないか。クライマックスシーンの演出は音楽との相乗効果もあって鳥肌が立つような感動があるし、何よりラストのメッセージ性は本当に素晴らしい。

学校で人間関係がうまくいかずにいた少女が、別の価値観を知り成長するという点は、今回の『かがみの孤城』とも一致しているので、評判が悪いからと簡単には切り捨てて欲しくはない作品だ。

【関連記事】『バースデー・ワンダーランド』「10」の魅力を全力解説!これは“5月病の予防薬”だ!

まとめ:『戦国大合戦』にもあった「神は細部に宿る」

(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2002

原恵一監督は、最初に掲げた通り劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズが著名であり、テンポの速さやキレの良いアクション、抱腹絶倒のギャグシーンなどが印象に残っている方も多いのではないだろうか。

しかし、劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズから卒業した後は、ここで挙げたラインアップを見てわかるように、登場人物の後ろ向きであったり、辛い気持ちを丹念かつ繊細に描く、まるで実写のドラマや映画のような作品が多くなっている。これは、作風がシフトチェンジしたというよりも、もともとの資質が成熟し次の段階へと押し上げたような印象を持ったのだ。

何より、原恵一監督はその前から「神は細部に宿る」的な資質もあったのだから。例えば、時代考証やリアルな戦の描写も絶賛された『戦国大合戦』では、姫が遠くへ手を振って肌が露出してしまったために、側近の女性から「はしたない」と言われて袖を直されるシーンがある。この時代の一国の姫がする行為がそう言われてしまうという時代背景を捉えてこそのシーンであるし、それでも好きな人に手を振りたい、その心情が伝わる……やはり細かいシーンでこそ原恵一監督の演出の力が見えるのだ。



その「抑えた演出で」「静かに物語を紡ぐ」様は、アニメの演出を足し算的に全部盛りにしていく『すずめの戸締まり』とは、対極な位置にある作風とも言っていい。もちろん、どちらが良くてどちらが悪いというわけではなく、そのどちらのアプローチもそれぞれで素晴らしい。

©2022「かがみの孤城」製作委員会

そして『かがみの孤城』は、中学生ならではの傷ついた心を繊細に綴り、かつメッセージ性も原恵一監督の「らしさ」と一致し、これ以上ないほどに「原作との相性の良さ」を見せた、その資質が最大限に発揮された、端的に言って「バッチリとハマった」作品だと思うのだ。ぜひ、これまでに挙げた作品にも触れ、原恵一監督の作家性とその演出の力を、ぜひ知ってみてほしい。

(文:ヒナタカ)

【関連記事】『かがみの孤城』原恵一監督インタビュー「居場所がないのは当たり前」と教えてあげたい

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

(C)2022「かがみの孤城」製作委員会

RANKING

SPONSORD

PICK UP!