「silent」最終回:やさしい言葉の花束のような、最高のハッピーエンド

川口春奈が主演、目黒蓮(Snow Man)が相手役となる「silent」が2022年10月6日スタート。

主人公・紬(川口春奈)は突然別れを告げられた元恋人・想(目黒蓮)と8年ぶりに再会。彼は難病により、ほとんど聴力を失っていた……。
音のない世界でもう一度“出会い直す”ことになった二人と、それを取り巻く人々が織り成す、せつなくも温かい物語。

本記事では、最終話(第11話)をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。

▶︎「silent」画像を全て見る

「silent」最終話レビュー

私たちを惹きつけたこの物語も、とうとう最終回。前回は、想(目黒蓮)が紬(川口春奈)に「やっぱりつらかった」「声が聞きたい。もう聞けないなら、また好きになんてならなきゃよかった」と言い、涙するシーンで終わった。これはハッピーエンドは難しいのか…? と悶々としながら過ごした1週間だった。

湊斗と奈々が、紬と想の背中を押す

冒頭出てきたのは、高校時代、2人が日直で黒板を消しているシーン。最終話もやはり、回想シーンは健在だ。楽し気な2人から一転、前回の続きの現在に引き戻される落差がすごい。

「声出さない」「笑わない」「電話しない」「音楽きかない」
紬はふせんにひとつひとつ書き出して見せるが、想は出て行ってしまった。

紬のもとに、湊斗(鈴鹿央士)が、袋いっぱいのパンダを持ってやってきた。
家から出てきた想とかち合い、ただならぬ雰囲気に気づいた光(板垣李光人)が、紬が頼んだ体にして呼んだのだ。「想の見てる青羽ってさ、高校生の紬ちゃんで止まってるんだよね」「見ている時間が8年分ずれてる」という湊斗の指摘にハッとしたし、そんな客観視を元カノと元カノの元彼だった親友相手にできる湊斗、やっぱりすごい。

「どこだったら話しやすい?」と想を呼び出そうとしてくれるところも、本当にいいやつすぎて……湊斗や想と高校で同じサッカー部だった野本(井上祐貴)に「湊斗くん、絶対幸せになってね」と言われていたが、ほんとそれ。全視聴者の総意だと思う(たぶん)。「今が幸せじゃないって決めつけんな」と返すのもさすがだ。本当に幸せになってほしい。

奈々(夏帆)に会った想。最終回の奈々、本当にかわいかった。正輝(風間俊介)が言っていたように、にこって音がするみたいに笑う。「彼(春尾)と私がうまくいかなかったのは、聴者とろう者だからじゃないよ、私が勝手にそう思いたかっただけ」「私たちはうつむいてたら、優しく声かけてもらっても気付けない。見ようとしないとダメだよ」いい言葉すぎる……。

紬と想を思って身を引いた湊斗と、想への恋心をあきらめた奈々。そんな2人が、紬と湊斗の仲のために背中を押そうとしてくれている。なんて優しい物語なのか……。

黒板と体育館と

最後に行きたいところがあると、高校で待ち合わせした2人。
今の自分でぶつかるために、髪を結ばなかった紬。

2人で思ったことをチョークで書く。「好きになれてよかった」と書いてまっすぐ想を見つめ、ぽろっとひと粒涙を流す紬ちゃんが美しい……。こんなのちょっとドキッとしてしまう。正直言うと、紬の良さがわからない瞬間もあったけれど、最終回はすごく紬の魅力が伝わってくる回だった。

「元気でね」と書いて去ろうとする紬に、思っていたことを書き出す想。一緒にいたいから「声出さない」「笑わない」「電話しない」「音楽きかない」と書く紬の言葉を、そばから消す想。紬が紬らしさをあきらめるのも、それはなんか違うしなぁ。

途中、書くのをやめて手話で話す2人。想は紬と一緒にいていいのか、悩んでいたことを明かす。
勝手に相手のことまで悩んで決めようとするのは、想の悪いくせかもしれない。

「それでも今は、一緒にいたい」

想がやっと本当の気持ちを言えて、よかった。

「人それぞれ違う考え方があって、違う生き方をしてきたんだから、分かり合えない事は絶対にある。それでも一緒にいたいと思う人と、一緒にいる為に、言葉があるんだと思う」

紬の言葉。もはやこれって、耳が聞こえるとか聞こえないとか関係なく、すべての人に言えることだ。

「たくさん話そう、言葉にできないときは黙って泣いてもいいよ、私も黙って背中をさするから」

いい女だなぁ紬は! 大学生のとき、公園でも背中をなでてくれていた。
紬の、男の子に何かしてもらおうとか思ってない、自分の大事な人とまっすぐ向き合って関わるために、自分で行動していくところが本当にすてき。

花束とおすそ分け、かすみ草の花言葉

湊斗がバスを待っていると、大きな花束を持った奈々が降りてきた。
湊斗に聞かれて、もらったんじゃなくてあげるの! と笑顔で花束を渡すジェスチャーをする奈々がかわいすぎて涙が出そう。

「お花は音がなくて、言葉があって、気持ちを乗せられる」
お花屋さんで聞いたというこの言葉、とてもすてきだった。
ふらっと花屋に寄って、誰かにプレゼントしたくなる。

そして、1本おすそ分けするという。手話を「おすそ分け」と話した奈々を思い出して心があたたかくなる。遠慮しようとする湊斗だが、奈々に負けて1本もらうことにした。

想と待ち合わせでカフェに座っていた紬。目の前に湊斗が座る。
「待ち合わせしてるんだけど」と困惑する紬に、想に頼んで時間もらったという湊斗。
「仲が良いのはわかるけど、ちょっと勝手だよ?」と言う紬。想と湊斗、ずっと仲良しでいてほしい。

湊斗が紬に渡したのは、奈々からもらったかすみ草だった。
1本好きなのをあげると言われて、いちばんささやかなかすみ草をもらうのも湊斗らしいし、「俺の分はいいよ」と言って、紬に「そういう人だよね」と言われていた。

想も、奈々からかすみ草をもらっており、紬と想は交換こする。
紬はバッグ、想はジャケットのポッケにかすみ草をさして歩いているのがなんだかかわいい。

かすみ草の花言葉は、「感謝」「幸福」「無邪気」「親切」。そして、お別れに使われることもあるらしい。
湊斗が紬に、奈々が想にこの花を贈ったことを考えると、なんだか胸が熱くなる。
感謝している人で、幸せになってほしい人で、でも恋心には別れを告げたのか。

かすみ草を見て「雪の結晶みたい」と言った紬の言葉から、主題歌であるOfficial髭男dism「Subtitle」のサビの歌詞「言葉はまるで雪の結晶」という言葉を思い出す。
歌詞では、1番2番ともに、ネガティブな言葉が続くけど、こうやって「君にプレゼント」できた瞬間を見せるのがなんだかいい。そして、いちばんはじめの紬と想が待ち合わせして、雪を見て話すシーンも思い出した。

できないと思っていたことが、できていた

耳が聞こえないと電話をしたりバッグを持ったり手をつないだりできないんだと、この作品を見て知ったけど、紬と想は手をつないで歩いていたし、待ち合わせに向かう途中でテレビ電話で話していた。

奈々は、正輝に花束をあげて「お返しがほしい」「ほしいバッグがあるの」と話していた(そしてそれを聞く正輝の顔もとてつもなく優しくて幸せそう。よかった……)。

なかなか難しいことだけど、相手次第ではできるんだ。
実際やりづらいことではあると思うけど、決めつけることはないんだと教わった気がする。

いろんな人の、言葉の花束

最終話は、今まで出てきた登場人物たちがほぼすべて出てきて、それぞれが誰かに温かい言葉を贈っていた。

紬の親友・真子(藤間爽子)は、「私に何かできることある?」「背中さする練習しとくわ」と言い、母・和泉(森口瑤子)は「お別れするときこそ、全部相手に渡さないとだめ。中途半端にすると、自分の中に残っちゃうから」と言った。紬に「(お父さんが)死んじゃう前に全部投げつけたの?」と聞かれ「ううん、とってある。すっごい美化されてるから、思い出すたび楽しい」と答えるお母さん、やはりすごい人だなぁ。最愛の人が亡くなって、こんな捉え方をして明るく生きられる人もいるんだ。

紬と想の母・律子(篠原涼子)が話すシーンもよかった。想について共感して盛り上がった後に「楽しいことよりも傷つかないことを優先してほしいと思っていたけど、楽しそうなのがやっぱりいちばんほっとする」。

想の妹・萌(桜田ひより)が、想より早く本で勉強して手話を覚えた話も涙が出そうだった。めちゃくちゃいい子。そして、その本を借りてこっそり手話を覚えようとする光もまた健気。久しぶりの出演となった古河セン(山崎樹範)も久々に見られてうれしい。紬のバイト先の後輩、田畑(佐藤新)だけは人にやさしい言葉をかけるところまでいっていないけど、紬の言葉に何か感じていたようだった。

想の「青羽の声、思い出せないしもう聴けない。でも、青羽の声が見えるようになってよかった」というセリフが印象的だ。
何気なく使っている言葉、親しい人にほど思わずきつい言葉をかけてしまったりするけれど、花束のように、優しい気持ちで渡すこともできる。聞こえるとか聞こえないとか関係なく、言葉や気持ちについてあらためて考えるきっかけになった。

いろんな人の言葉が詰まった、やさしい花束のような作品、そして最終回だった。
「silent」にもらったこの気持ちを、きっとずっと忘れないと思う。

(文:ぐみ)


無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

© Fuji Television Network, Inc.

RANKING

SPONSORD

PICK UP!