映画コラム
【全力考察】『THE FIRST SLAM DUNK』が描きたかったこととは?
【全力考察】『THE FIRST SLAM DUNK』が描きたかったこととは?
ふたりの男との関係から見る、宮城リョータのバスケ熱
宮城リョータが“自分のバスケ”を手に入れた背景には、自分を見てくれる人の存在だけでなく、対峙する人の存在もあった。その存在が、三井寿と沢北栄治だ。
三井は、中学時代にMVPとなった天才シューターである。映画ではこのMVP獲得前の三井が、1人で技を磨いているリョータに1on1を仕掛けるシーンが描かれていた。この時の三井の姿に、リョータはバスケを愛していた兄の姿を重ねている。そんなふたりは湘北高校で、バスケットボール部期待の新人と膝の故障をこじらせバスケから遠のきグレてしまった不良の先輩、という関係で再会。
期待を寄せられるリョータを目の敵にする三井は、彼に突っかかった。この時リョータは、ロン毛で目つきもきつくなった三井を見て、1on1を仕掛けてきた人だと気づいたのではないかと思う。あれだけバスケに夢中になっていた人が、理由はさておき競技から距離を置いている——。この事実はバスケを続けることに苦しさも覚えていたリョータにとって「バスケから離れる道もある」という希望として映ったのではないかと思うのだ。
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一方で「バスケを好きでい続ける希望」を見せてくれたのも三井だった。バスケ部襲撃という混乱を招いた張本人が、決して歓迎されないアウェイな環境であることを承知の上で復帰することを決めたのだ。「バスケが好き」という気持ちに真正面から向き合う三井に、リョータは自分の中にも確かにあるバスケへの熱狂を重ねたのではないだろうか。
また沢北栄治との対峙も、リョータの中にあるバスケ熱を強調していた。沢北は『THE FIRST SLAM DUNK』で湘北高校バスケットボール部が対戦する、高校バスケ界の頂点に君臨する山王工業高校のエースであり、高校No.1プレイヤーである。彼は原作で、湘北のスーパールーキーである流川楓が挑戦する最大のライバルというポジションでもあった。しかし映画のラストでは、アメリカの地で敵チームのポイントガードとして、リョータの前に立ちはだかった。この対峙に、驚いたファンも多いだろう。
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映画の中でリョータは「17年間バスケットボールのことしか考えてこなかった」と、圧倒的なプレーを見せる沢北を評していた。このセリフからリョータは、自身のバスケへの熱量が沢北には到底追い付かないと思っていたことが伝わってくる。一方でリョータは、沢北に対して「同じ2年」とも口にしている。加えて試合前日には、沢北がメインを飾る大会ポスターを前に「こいつ(沢北)が悔しがる姿が見たい」とも言っていた。叶わないけれども、負けたくはない。この矛盾にこそ、リョータがいかにバスケにとらわれているかが見て取れるのだ。
またインターハイが終わったあとにアメリカ留学が決まっていた沢北は、神社で神に「俺に必要な経験をください」と祈るほど、“自分のバスケ”を確立していた人物でもある。しかし山王が湘北に敗れ、彼は“必要な経験”を得て涙を流した。この描写からリョータが叶わないと見ていた沢北も、バスケットボールを心から愛するいち競技者であるという事実が伝わってくる。だからこそラストのアメリカでの対峙は、ただただバスケに熱狂する者同士がぶつかり合うシーンとして受け取れるのだ。
静かに熱く燃え続ける宮城リョータのバスケ熱を『THE FIRST SLAM DUNK』は描き切ってくれた。
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