映画コラム

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2023年01月14日

【全力考察】『THE FIRST SLAM DUNK』が描きたかったこととは?

【全力考察】『THE FIRST SLAM DUNK』が描きたかったこととは?


キャプテンの重みを知る男だからこそ得られた強さ



散々連呼してきて今さらなのだが、そもそも宮城リョータにとっての“自分のバスケ”とは何なのだろうか。筆者は、“キャプテン”がキーワードだと考える。

リョータにとっての憧れの存在は、兄のソータだ。ミニバスではキャプテンとしてチームを率い、スーパープレーも見せる。家では「この家のキャプテンになる」と、家族に宣言する。逆境を目の前にすると尻込んでしまうという自覚があるリョータにとって、どんな状況でも自ら切り込んでいく兄の姿は、こうありたいと願う理想形だったのだろう。

一方で、その理想を実現するのが難しいことも、リョータは理解していた。彼は、兄が母や家族を支えると宣言した後に、秘密基地でこっそり涙を流す姿を目の当たりにしている。そして最期の1on1で明かされた「めいいっぱい平気なフリをする」という怖いことを目の前にした時の対処法を通して、リョータは兄の強さを形作る痛みや苦しみを知ったのだ。そしていざ自分が家族の中でその立場になった時、いかに「めいいっぱい平気なフリをする」のが難しいかを実感しているように見えた。

その不安を吐露したのが、山王戦前夜、マネージャー・彩子とのシーンだ。リョータは強豪・山王で1年時からレギュラー入りをしていた深津とのマッチアップに恐れを感じていた。そんな彼に彩子は「いつも余裕に見えている」と声をかける。この言葉にリョータは、自分が「めいいっぱい平気なフリ」のできる切り込み隊長になれていた可能性を感じたのではないだろうか。

またこの時、怖いことを怖いと口に出せたことは、彼が新たに手に入れた強さだったとも思う。彼はいつも、左手首を掴みながら、自分の中に不安を押しとどめていた。彩子とのシーンでも、その様子が見られた。この時彩子は、翌日の試合に恐怖を覚えるリョータに、不安になった時は手のひらを見て心を落ち着かせたらどうかと提案する。そして試合中、その手のひらに「No.1ガード」と書いてリョータをコートに送り出した。この経験を通してリョータは、不安を表に出すことが「めいいっぱい平気なフリをする」土台となるのだと感じたのではないだろうか。

インターハイから家に帰った彼が、母から山王について問われた際に「強かった」だけでなく「怖かった」と答えている描写からも、自分の中にある不安を素直に受け止めるという新たな強さを手に入れたことが伝わってくる。



そしてこれまでの自分になかった強さを手に入れた彼だからこそ動けたのが、原作にはなかった円陣だ。選手生命にかかわるかもしれない背中の故障を抱えた花道がコートに戻ってきたシーンで、リョータはレギュラーを集めプレーの方針を伝えた。そして円陣のかけ声を赤木に託そうとしたところ、彼に「それはお前の役目だろう」と言いたげな目配せをされる。その想いを受け止めたリョータは、円陣の締めを務めたのだ。

ここで変に抵抗せず、割とすんなりと締める立場を受け止められたのはきっと、リョータの中で切り込み隊長として、次世代キャプテンとしての覚悟が固まりつつあったからではないだろうか。リョータは、臆病で尻込みしてしまう自分にはその役目が重いと感じていたように思う。しかしその尻込みは、彼自身の強みでもあった。


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リョータは非常に調子のよい三井や試合の中で変化を遂げていく流川など、1人ひとりの様子をしっかりと把握していたからこそ、終盤の勝負を左右する場面で率先してプレーの方向性をメンバーに伝えられたのだ。現キャプテンの赤木はそんな彼を見ていたからこそ、円陣の締めを託せたのではないかと思う。

キャプテンの重みを知ったうえで、自ら主体的に動き出す覚悟を決めた男の強さが『THE FIRST SLAM DUNK』では描かれていた。

主人公変更とラストの衝撃を通して映画が描きたかったこと



“バスケットボールが大好きな、等身大の高校生”


『THE FIRST SLAM DUNK』が描きたかった大きなテーマは、これではないかと筆者は感じている。

原作漫画でも、バスケットボールに熱中する高校生たちが描かれている。ただ映画で見た彼らは、より現実的な等身大だった。こう感じるのはきっと、誰もが抱える怖いという感情と強くありたいという理想の間でもがき苦しむ宮城リョータが主人公だったからだと思う。そしてもがきにもがいた彼が、自分の意思で新たな挑戦をしている姿に、背中を押してもらった。

死ぬときは一緒に棺に入れてもらいたいと思っていた作品が、キャラクターたちとの距離をより近く感じる内容となって、再び世の中を驚かせていることがうれしくてたまらない。

(文:クリス菜緒)

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